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第9話 さっさと消えるに限る

「どういうことだ、あれは」


「一位は……イシュド・レグラ?」


成績と合格者が張り出されている貼り紙を見て、多くの者たちが疑問を抱き、首を傾げる。


張り出されている張り紙は外部受験をした者の合格発表と順位だけではなく、内部進学生を含めた順位が記されている。

そのトップに……内部進学生のエリートたちの内の一人ではなく、殆ど耳にしない家名を持つ者の名前が記されていた。


「レグラ家とは……あのレグラ家なのか!!!???」


学生たちは疑問を頭に浮かべる者が多いが、子供たちと一緒に結果を見に来た大人たちの中にはレグラ家という存在をしっかりと覚えている者が多い。


ただ……その名前が目の前の張り紙に記され、尚且つトップの成績を叩きだしたことが信じられない。

当然、自分たちがトップになると思っていたザ・エリートたちはいったいあの名前の男は誰なのだと……周囲を見渡す。


外部受験者であれば、この場に居ないのはあり得ない。


そんな内部進学生たちの考えは正しかったが……イシュドは自身が合格していることと、順位が解かると直ぐにその場から去り、待機している騎士たちの元へ戻った。


「どうでしたか、イシュド様」


「問題無かったよ」


指で一という数字をつくり、面倒を起こさないように順位を伝えた。


「流石です」


「いやぁ~~、やっぱり最強っすね」


イシュドが落ちるわけがない、内部進学生も含めてトップであることは間違いない!!


内心ではそう思っていても、いざ結果でその予想が現実になったと解かると、喜びが顔に溢れてしまう。


「てか、よく他の合格者や内部進学生たちに絡まれなかったっすね」


「学生のダチはいないからな。それに、合格してるのと順位を確認してから速攻で戻ってきたからな」


仮に……まだイシュドが発表場に残っていれば、勘の良い生徒にバレていたかもしれない。


「んじゃ、王都の観光を楽しもっと」


その日も日が暮れるまで観光を楽しみ、翌日には実家へ帰還。

既に一位合格の情報が届いていたため、到着と同時に宴会が行われた。


「いやぁ~~、良くやった。イシュド」


「ありがとう、父さん。といっても、しっかり準備してから受けたからそんなに難しいというか……困りはしなかったよ」


「はっはっは!!! マジでイシュドは何でも出来るよな! 俺はあんな興味がないことを学ぶ気なんてこれっぽちも起きねぇよ」


「イシュド、良くやった。お前の努力の成果が実り、レグラ家も脳筋だけではないということが少しは広まったであろう」


「父さんやダンテの言う通り、本当に良くやったよイシュド。ほら、もっと食べて食べて」


「全く、少しは落ち着きなさい……でも、本当に良くやったわ、イシュド」


家族総出でイシュドの功績を褒め称える。


バカ寄りのミハイルや脳筋思考が強いアレックスなどは知らないが、外部受験性が内部進学生を蹴散らし、一位で入学するという記録は……今まで一度もない。


イシュドの戦闘力や苦手なことに関しても前向きな性格を考えれば難しい事ではないが、それでも世間一般ではあり得ない功績なのは間違いない。


「だが、やはり入学してからの三年間、退屈なのではないか?」


「そんな事はないと思いますよ、アレックス兄さん。俺の戦闘試験を担当してくれた教師とか、結構強かったし……あんまり見てないけど、学生の方にもチラホラ面白そうな奴はいましたよ」


すっかりこの世界に……レグラ家に染まったイシュドは気付いていないが、チラホラと面白そうな奴はいました……という言葉は、完全にその発言に含まれる学生を下に見ているのと同じ。


本音で言えば……遊び相手としか思っていない。


「ふ~~~ん……けどよ、三年生でもイシュドより強い奴はいねぇだろ」


「さっき言ったじゃないですか、ミハイル兄さん。その学生たちに色々と教える教師は、俺が楽しいって思えるくらい強いんですよ」


「……だったら一応通う価値はあるのかもな」


そう口にしながらも、ミハイルは一ミリも学園に通ってみたいという気持ちは生まれなかった。




「っし、よろしくお願いしゃす!!!!!」


「うむ……来い」


宴会後の翌日……イシュドと先々代当主であるロベルトの二人は周囲にモンスターがいないなど気にせず、バチバチ過ぎる模擬戦を始めた。


「シャアアアアァアアアアッ!!!!」


「ッ!! どうした!!! そんなもんか!!!!」


「まだまだぁあああああッ!!!!!」


学園に入学すれば、気軽にロベルトと模擬戦を行えなくなってしまう。


という事で、今日も元気に殺す気で攻撃を仕掛ける。


「ク、ソ!!! はぁ、はぁ……曾爺ちゃん、マジ強過ぎるぜ」


「当たり前だ。お前らの曾爺ちゃんだぞ。まっ、初めてイシュドと会ったころと比べれば、強くなったんじゃねぇか」


「いったい何年前の話をしてるんだよ。ったく……俺が本気になれば、爺ちゃんには勝てるかな」


本気の眼を向けて問う。


イシュドの言う爺ちゃんとは、レグラ家の先代当主であるアルフレッド。


先々代当主であるロベルトほど飛び抜けすぎて色々と限界突破している存在ではないが、それでもレグラ家の当主となった男……まず簡単に強いという言葉の枠に当てはまる男ではない。


「…………多分、無理だろうな」


「無理か~~~~~~」


「とは言っても、お前が全力の全力を出せば、アルフレッドに重傷を負わせることは出来る筈だ」


「……それって、成長してるって言えるの?」


「イシュド、この世に何人……モンスターも含めて、いったいどれだけの者がアルフレッドに重傷を負わせられると思っとるんだ」


「あぁ~~~~……なるほど。それは確かに成長したって言えるね」


しかし、まだまだ互角の勝負は出来ないと言われては、挑みたくなってしまうもの。

翌日……同じく周囲にモンスターがいてもお構いなしにアルフレッドとバチバチ過ぎる模擬戦を行った。


「じ、爺ちゃん……最近は、戦い以外のことに、ハマってるんじゃ、なかったの?」


「はっはっは!!! 確かにそれはそうだが、あれだ……まだまだ若いもんには負けんってことだ!!!!」


「クッソ~~~、もうちょい善戦できると思ったんだけどな」


「何を言っとるんだ。その年齢、レベルを考えれば十分善戦出来とるっての」


終始アルフレッドがある程度セーブした状態での戦闘ではあったものの、鋼の肉体に幾つか切傷ができていた。


(全く、本当に若いもんは成長著しいもんだ。他の家の子供なんて興味はないが、この子と同じ時代を生きなければならないと思うと……ほんのちょっとだけ可哀そうと思えてしまうな)


その後も日が暮れるまで何度も何度も地面に転がされたが、最後の模擬戦が終わる頃には十を越える切傷を与えることに成功した。

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