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第3話 全員前しか向いてない

五歳になり、一次職から魔戦士という基本的にはあり得ない職業に就き、数日後には本当に実戦がスタート。


「ゴブァアアアアッ!!!」


最初は運良くモンスターの中でも最弱候補に挙がる緑色の皮膚を持つ個体、ゴブリンに遭遇。


離れた場所でロベルトたちが見守っている中、イシュドは無理矢理声を張り上げて特製の戦斧を振るった。


木材などを敵に見立て、物体を斬る訓練は行っていたため、見事戦士としての童貞を捨てることが出来た。


「うっ!!!!!」


しかし、戦闘者にとってはモンスターに初めて挑むよりも、実際に生物を自身の手で殺した後の方がきつい場合もある。


これに関しては多くの者たちが避けては通れず、殺したゴブリンの中身を見たイシュドは……盛大に朝ご飯を戻してしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……よし」


盛大に吐いてしまうも、ロベルトたちの力を借りることなく立ち上がり、再び歩き出す。


(やはり吐いてしまったか。しかし、そこから一分も経たず立ち上がるメンタル、そして無理矢理にでも声を張り上げて恐怖に立ち向かおうとする思考……やはり一味違うな)


勿論、ロベルトはそれらの対処法を教えていた訳ではなく、イシュドが自ら考えて実行した。


その後もレグラ家に仕える騎士たちが、まだイシュドには倒せないであろうモンスターを間引き、日が暮れるまで初の実戦は続いた。


「た、ただいま~」


屋敷に戻ったイシュドは軽く体を洗って料理をいつも以上に平らげ、今度はゆっくりと風呂に入って疲れを落す。


ちなみに、まだ子供という事もあり、美人揃いのメイドたちが体を洗う。

最初こそびっくりマークが頭の上に多く浮かび、恥ずかしさを感じるも……一度冷静になり、この役得を捨てるのはそれはそれで勿体ないと判断。


そして一旦自室に戻り……ベッドに倒れたイシュドは、そのまま寝ようとした。


(………………ダメだ、このまま寝るのは勿体、ない)


無理矢理体を起こしたイシュドは服を着替え、訓練着で訓練場へと向かった。


「何っ!? 寝ていないのか!!」


「えぇ、一度は自室にお戻りになられましたが、直ぐに訓練着に着替え、訓練場で今日の振り返りを行っています」


「…………はっはっはっはっは!!!!!! こりゃたまげたな!!!!!」


小屋が揺れそうなほどの笑い声が響き渡り、その声は本館の方にまで届いていた。


「イシュドは間違いなく、モンスターの中身を見て吐いておった。勿論、初の実戦でしっかりモンスターを倒せるのを大したもんじゃがの」


「同行した騎士からご活躍の内容をお聞きしました。五歳で初陣ということにまず驚きですが、熱い心だけではなく冷静な頭脳もお持ちかと」


「それに加えて、飽くなき向上心を持ち合わせておる」


もう何十年と生きてきたロベルトだが、今でも初陣の光景……初めて生物を殺した感覚は、今でも覚えている。


ロベルトは当時、屋敷に戻ってから食事を取ることが出来ず、そのまま寝てしまった。


「やはり、いずれ儂を超えるのはイシュドじゃな」


息子、孫、その他のひ孫達が軟弱なのではない。

ただ……持って生まれた狂気の差が大きい。


イシュドの場合は前世という経験から生まれた、言わば人工狂気に近い部分があるものの……イシュドには思ったこと、考えたことを実行するだけの行動力が備わっている。


ロベルトは改めてイシュドの将来に期待を持った。


とはいえ、ロベルトの様な超特別な存在が一人のひ孫に肩入れすれば、他のひ孫達が黙っていない……というのが一般的な貴族家の内情。


しかし、レグラ家の者たちには一切そういったことで裏での暗躍事件などが起こることはない。


寧ろ家督を継ぐことがほぼ確定の長男アレックスなど、四男であるイシュドが自分と違って学問の分野にも興味があると知ると、本気で「なぁイシュド、俺の代わりに家督を継がないか!!」と提案してきた。


勿論、イシュドは腰を九十度に折り、丁寧にその提案を断った。


その他の兄弟、姉妹もイシュドのことが羨ましいとは思うものの、だからといってどうこうしようとは思わない。

レグラ家として、まず第一目的は強くなり、多くのモンスターを斬殺撲殺炎殺爆殺すること。


仮にイシュドの性格がド屑であれば少し話は別だったかもしれないが、本人の性格は至って真面目。


行き詰ったり悩みがあると、心が安らぐ効果がある紅茶を用意し、相談に乗ってくれる。

羨ましいと思うことはあれど、妬み嫌悪することは一切ない。

そういった特別な内情もあって、イシュドは……ある意味すくすくと成長。


十で神童、十五で才子……まだ二十にはなっていないが、どう考えても只の人になる様子はない。


十四歳という年齢で既にレベル二十五を超え、五十に迫ろうとしていた。

そんな中、モンスターとの乱戦から帰ったイシュドは夕食を食べ終わった後、風呂に入る前に現当主であるアルバの執務室へ呼ばれた。


(何の用だろ? 丁度良いBランクのモンスターでも現れたか? それとも、他領で厄介なモンスターでも現れたか……それはそれで別に討伐しに行っても良いんだけど、そこ周辺を拠点としてる冒険者と鉢合わせたら面倒なんだよな~)


要件は前者であってほしいと考えながらドアをノックし、声が聞こえたので中に入る。


「何の用ですか、父さん」


「ふふ、そうせかすな。座れ座れ」


そう言いながらアルバはワインを保管するマジックアイテムのケースから一本のボトルを取り出した。


「父さん、俺まだ十五になってませんよ」


「気にするな。もう直ぐ十五だろ。変わらん変わらん」


それもそうかと思いながら、熟成された赤ワインの香りを楽しみ、ゆっくりと口に含んだ。


「……まだワインの味は良く解らないけど、なんだか重厚な強味? を感じる」


「それが解かれば十分さ」


普段と変わらない様子で十数分ほど話したところで、アルバはようやく本題へと

入る。


「イシュド……実は、お前にお願いがあるんだ」


「お願い、ですか?」


珍しい内容にきょとんとするイシュド。


確かにイシュドは前世の知識を活用して大金を得ているが、今まで父親であるアルバがそれを貸してほしいと言ってきたことは、一度もない。


(何かしらの事業に失敗したとか、豪遊して散財したとかって話は聞いてない。兄さんや姉さんたちがそういうことをしてしまったとも聞いてない)


相変わらずイシュドの兄や姉も毎日元気に迫りくるモンスターを相手に暴れていた。


「お前には、王都の学園に入学してほしいんだ」


「…………え?」


タイプは違えど、衝撃の大きさは初めて曾祖父であるロベルトと対面した時と同じレベルだった。

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