午前中は十分な休息を取り、午後から探索を開始する。
手始めに、一番近くの建造物から調査をすることにした。
(これは石造……、いや、コンクリートか)
石を切って構築したにしては、複雑で流麗な建造物。
恐らくは古代のコンクリートが用いられているのだと思われる。
レムス帝国の歴史はイクス暦の始まりと一致するが、『カプリッツィオ』はその頃から既に存在していたという。
ということは、この建造物は少なくとも2000年近く前のものということだ。
それだけの時間、朽ちずに残っているというのは、古代コンクリートの性質ゆえと言えるだろう。
古代コンクリートは、現代のコンクリートとは違い非常に劣化しにくく、頑丈なのである。
そして古代コンクリートが使用されているということは、この建造物が少なくとも人の手により作られたものであることを示している。
つまりここは、人の街――もしくは国だったということだ。
(もし神の建造物だったら、どんな仕掛けがあるかわかったもんじゃない。俺の手で調査できるレベルで良かった)
未踏領域内で見つかる建造物の中には、紀元前――つまり神代に造られたものも存在する。
そういった建物の中には神の手により建造されたものがあり、今も何らかのセキュリティシステムが稼働していることがある。
神の建造物のセキュリティは人間では解除できないことがほとんどであり、内容によっては命に関わるため細心の注意を払う必要があった。
ちなみに【アトラス】も神代の遺産だが、現代発見されている大半の機体は全て人の手が入っている。
今は沈黙しているあの【アトラス】も恐らく人の手が加えられていると思われるが、あの尋常でないパワーから想像するに、もしかしたら
(ザっと見た感じ、この建物には何もなさそうだな)
外の造りはしっかりしているが、内装についてはほとんどが風化しており、何も残っていなかった。
ただ、この規模で普通の民家というのは考えられない。
なんらかの施設か、貴族階級の住まう家といった雰囲気がする。
(となると、アレは城、もしくは王宮といったところか?)
周囲の建造物の中でも、ひと際目立つ巨大な建物。
配置的に考えても、城か王宮、もしくは神殿などの特別な建物だと思われる。
(距離感的に、ここから1キロメートルくらいか……)
見た目から考えればあそこに声の主がいる可能性が高いが、それなりに距離があるため、いきなり調べる気にはならなかった。
しかし、このまま手あたり次第近くの建造物を調査するのは、今の手応え的に時間の無駄かもしれない。
(……仕方ない、行ってみるか)
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近づいたことで、改めて城(と思われる建造物)の大きさを実感した。
レムス帝国の城と比べても、二回り近く大きいかもしれない。
人ではなく、デウスマキナが住んでいたと言われても納得できる大きさだ。
10メートルほどの高さがある扉は、風化したためかただの穴となっており、特に何事もなく素通りする。
中に入ってみると、やはり先程の建物と同様、風化してほとんど何も残っていなかった。
しかし、コンクリートで造られた華美な彫刻などは残っており、決して美しさは損なわれていない。
一部の階段はコンクリートで作られていたようで、一応だが上の階にも行くことができるようだ。
ただ、上の階は風化がより顕著であり、一見すると何もないように見える。
中が広いため、壁伝いに探索を進める。
城内は光を取り入れる構造になっているが、電灯などは当然ないためやや薄暗い。
探索用に頭に巻くタイプのライトを持ち込んでいるので、早速装着する。
一定間隔で部屋があるが、中を覗くとやはり風化していて何も残っていない。
確認するたびに徒労感を覚えるが、無視するワケにもいかないので一つ一つ確認していく。
そうして半周程した辺りで、地下に続く階段を発見する。
階段はコンクリートで作られており、下りるのは問題なさそうだ。
(……あと半周部屋を確認してもいいが、どう見てもここが怪しいな)
特に迷うことなく階段を下りることにする。
光の一切入らない真っ暗闇のため、足取り自体は慎重だ。
地下はあまり深く掘られていなかったらしく、すぐに扉に突き当たった。
珍しく風化していなかった扉は、間違いなく特殊な素材でできていることが想像できる。
(さて、この先に何があるのやら)
一見神の作った代物にも見えるが、人造の城の中にある点からもその可能性は低い。
恐らくはオリジナルのデウスマキナなどから回収された素材が使用されているのだろうが、そこまで貴重な素材で扉を
(鬼が出るか蛇が出るか……)
幸い、鍵はかかっていない。
かかっていた形跡はあるが、鍵の素材は普通の鉄か何かだったのだろう。跡形もなくなくなっていた。
扉を押し開ける。
すると、隙間から淡い光が漏れた。
ここは地下なので陽の光ではない。何か他の光源があるということだ。
僅かな警戒心が芽生えるが、それはほんの一瞬のことで迷わず扉を最後まで開けた。
(これは……)
扉の中は、かなり広い部屋になっていた。
相変わらず風化が激しいが、地下だったせいか原型を残しているものもあった。
恐らくは、何かの設備だったのだろうが……
(っ!?)
部屋の奥、光源と思われる場所に視線を合わせると、そこには――
「デウス……マキナ……、なのか?」
形状は人型を留めておらず、まともに残っているのは頭部とコックピット部分くらいだったが、恐らくはデウスマキナと思われるものがそこには鎮座していた。
しかし、残されているどのパーツを見ても、自分の記憶の中にあるデータと一致する機体が存在しない。
もう少ししっかり確認するため、部屋の奥に踏み込む。
『来ましたか』
「っ!? その声は……、お前が、【パンドラ】か!」
『はい。私こそが全ての災いの祖にして、それを鎮めるための『希望』。自立思考型制御機構【パンドラ】です』
自立思考型、制御機構……?
まさかコイツは、人でも神でもなく、AIなのか……?