「お嬢ちゃん、今なんて?」
「お嬢ちゃんて言うな! だから! 私とチームを組まないかって言ったの!」
……このお嬢ちゃんは何を言ってるんだ?
今までの話の流れからすれば、俺がこの大会において不利な立場であることはわかりきっているハズ。
仮に、彼女が自身の矜持を優先するのだとしても、わざわざ俺を誘う理由がわからない……
ざっと思いつくのは、俺を捨て駒にしようとしている可能性だ。
俺の機体は見た目通り、かなりの耐久力を誇っているため、ちょっとやそっとの障害はものともしない。
そんな俺を盾にしながら、自身の機体の耐久力を温存し、途中で切り離す。
少し効率は下がるが、ある程度の耐久力を保持した状態であれば中盤以降を機動力重視で駆け上がることができるかもしれない。
……いや、これは恐らくないだろうな。
開拓者としての矜持を持つ彼女が、そんな作戦を採用するとは到底思えない。
しかも彼女は、軍用モデルや速度重視のチューニングを嫌っている節がある。
そんな彼女が、結局最後は機動力重視となる戦略を採用するとも考えにくい。
そう考えれば、なんとなく答えが見えてくる。
恐らくだが、彼女も俺と同じルーキーであり、腕に自信がないから似た者同士で群れ合う、という魂胆なのだろう。
……全く、冗談ではない。
俺はなにも、記念参加のためにこの大会に出場するワケではない。
目的はあくまでも優勝であり、仲良くワイワイ攻略するつもりなど毛頭なかった。
「……お嬢ちゃん、気持ちはありがたいが、俺の目標はあくまでも優勝なんだ。悪いが、ルーキー同士でなれ合うつもりはなグベェッッッ!!?」
そんな結論を出し彼女の誘いをやんわり断ろうとしたところ、何か強烈な打撃が顎に突き刺さる。
「誰がルーキーよ誰が!? 私はこれでもDランク開拓者よ! あと、お嬢ちゃんて言うなって言ってるでしょ!?」
舌を噛んだせいで割と洒落にならない痛みが走り、思わず涙目になってしまう。
少女が若干涙目になって頭を擦っていることから察するに、どうやら俺は頭突きを喰らったようだ。
……とんでもないことをする少女である。
俺が元軍人で鍛えていたことに加え、少女の身長が低かったからこそなんとか堪えきれたが、普通なら気絶してもおかしくないダメージだ。
頭蓋骨というものは、そもそもが強固な作りをしている。
それが跳躍力に任せて飛んでくるということは、同質量の丸太が顎目がけて飛んでくるのに等しい。
「もう少しで舌を噛み千切るところだったぞ……」
「わ、私も、頭が割れるところだったわ……」
だったらやるんじゃねぇ! と言ってやりたい。
ただ、理不尽さは感じるものの、自らの痛みから彼女のダメージも察することはできる。
ここは大人の俺が折れておくことにしよう……
「すまなかった。確認もせず勝手にルーキーと決めつけたことは謝る。しかし、そもそも俺は君のことを全く知らないんだ。まずは名前を教えてくれないか?」
「そ、そうね。確かに名乗らなかった私も悪かったわ……。オホン、私の名前はシャルロット・ド・ブリエンヌ! こう見えてDランク開拓者よ!」
「……俺はマリウス、先月開拓者になったばかりの正真正銘ルーキーだ」
Dランク、か……
こんな少女が俺より2ランクも上だと思うと少し悲しくなるが、それが現実なのだから受け止めるしかない。
俺だって、14の時にはもう分隊の指揮を取っていた。
年下が自分より階級が上なんてことは、どの業界にもあることだろう。
……しかし、当時俺に従っていた隊員達も、こんな気持ちだったのだろうか?
「先月!? じゃあ、本当に開拓者になったばかりなのね!? ……ま、まあいいわ。よろしくね! マリウス!」
自然に握手を求められたので、ついつい反射的に握り返してしまう。
彼女はそれが嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべ握った手をブンブンと振った。
その笑顔が余りに眩しかったもので、つい目を逸らしそうになったが、それではまた彼女の反感を買いそうなのでグッと堪える。
「……それで、なんでまた俺なんかをチームに誘うんだ? 俺の機体は見ての通り速度はあまり出ないし、俺自身も開拓者としては本当に初心者だぞ?」
「フフン♪ 開拓者として
お見通しよ、とでも言うような目でコチラを見てくるシャルロット。
俺はそれに対し、なんと返したら良いものか――と、しばし逡巡する。
「…………」
「まあ、過去のことは詮索しないわ。開拓者の中には後ろ暗い過去を持つ人も多いしね。それに、そんなこと聞かなくても、私にはこのデウスマキナが長い年月使い込まれているってことくらいわかるもの。アナタ、開拓者としては初心者でも、デウスマキナの操縦には自信があるんでしょ?」
これには少し驚いた。
俺のデウスマキナには、外傷など一切ないハズである。
にも関わらず使い込み具合を見抜かれたということは、シャルロットが相当デウスマキナについて詳しいということだ。
そして、操縦に自信があるというのも正解である。
まあ、そうでもなければこんな大会に出ようなどと思うハズもないが。
「……自信は、確かにある。ただ、さっきも言った通り本当に大した速度は出ないぞ? 正直、足手まといになる可能性が高いが……」
「そこは大丈夫! 作戦があるの!」
作戦、か……
かつてのソレとは目的がまるで違うのだろうが、馴染み深い響きだ。
「……その作戦とやらは、俺の機体でも優勝が狙えるようなものなのか?」
「フフン、食いついたわね? もちろんよ!」
得意げな彼女の顔からは、正直期待よりも不安しか感じない。
しかし、仮にもこの年齢でDランクになっているのだから信用はできる――と思いたいところだ。
いずれにしても、このまま何の策も無しに挑むのは厳しい状況となるのは目に見えている。
この際、駄目で元々でも構わないので、作戦とやらに乗ってみるのも手かもしれない。
……あまり気は進まないが、奥の手もあることだしな。
「……わかった、その作戦とやらを詳しく聞かせてくれ」