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第3話 金髪少女との出会い



 100人近い長蛇の列を並び、ようやく受付を終えた頃には1時間以上経過していた。

 余りにも手持無沙汰だったため、ついついスクワットなどを始めて奇異の視線にさらされることになったが、あまり気にはしていない。

 どうせ知人などいるハズもないし、今後も付き合う可能性のない者ばかりなのだ。気にするだけ無駄である。



 デウスマキナの待機場まで戻ってくると、何やら自分の機体の前に何人かの男達が集まっていた。



「……俺のデウスマキナに何か?」



 後ろから声をかけると男達が振り返る。

 男たちは全員、如何にも荒くれものといった雰囲気を醸し出していた。



「……俺のって言ったが、コイツはお前さんのデウスマキナなのか?」


「そうだと言っている」



 俺がそう返すと、男達は沈黙し、そして次の瞬間爆笑し始めた。



「ブッ! ハァーッハッハッハッハッ! この箱みたいなのがか!?」



 男達は一様に俺のデウスマキナを指さしながら大笑いをしている。



「やめろ」


「あ? 気に障ったかよ、ガキィ?」


「あ、いや違う。気にしないでくれ」



 ……気に障らなかったと言えば嘘になるが、周囲のデウスマキナを見る限り俺の機体が異端視されるのは理解できる。

 やめろと制止したのは、俺ではなく彼女・・が報復行動に移りそうだったからだ。



「おい、脅してやるなよビル? こんな機体に乗ってる時点で察してやれって!」



 俺がビビって前言を撤回したと思ったのか、横で笑っていた男がフォローに回る。

 あからさまに俺を馬鹿にしたような言い回しだが、揉め事になるよりはマシだとグッと堪える。



「……常識を知らなくてすまない。察しの通り俺は、開拓者歴一か月未満のルーキーなんだ」


「一か月未満!? ってことは、まだまともに未踏領域の調査もしたことないんじゃねぇのか?」


「ああ、デウスマキナで未踏領域に挑むこと自体、今回が初めてだ」



 俺がそう言うと、男達は一様にアチャー……、といったポーズを取る。



「おぇ……、それでよくこの大会に出る気になったな?」


「マズかったのか?」


「いや、マズいっつーか……、まあ、その、なんだ、せいぜい気を引き締めて挑めや。俺達は行くぜ! 馬鹿にして悪かったな! ルーキー!」



 行ってしまった……

 態度は悪かったが、どうやら根っからの性悪というワケではなかったらしい。

 ただ、どうせなら俺の機体の何が悪かったかくらいは教えて欲しかったな……



「ねぇ! アンタ!」



 特にすることもないし機体の中に戻ろうと歩み寄ると、後ろから甲高い声が聞こえてくる。

 周囲を確認するが、近くには俺以外誰もいない。

 ということは、俺に声をかけたのか? と振り返ってみるが、やはり誰もいなかった。



「……?」


「どこ見てるのよ! ココ・・ココ・・!」



 俺がキョロキョロと左右を確認していると、右斜め下から裾を引かれる。

 視線を下に向けると、そこにはふわふわした金髪に碧眼の――まるで人形のような美しい少女が立っていた。

 気配があるのにおかしいと思ったが、どうやら死角に入っていたらしい。

 俺の背が180センチ後半あるのに対し、少女の背は140センチ程しかないようだ。

 この距離では死角となるため、見えなくても無理はないだろう。

 まあ、この距離まで近付かれて気付かない俺も間抜けだが……



「何の用だ? お嬢ちゃん?」



 状況に思考が付いていってないが、一先ず質問をしてみることにする。



「子ども扱いしないでちょうだい! こう見えて、私も立派な開拓者なんだからね!」



 開拓者……?

 ふんぞり返るように反らされた胸を見る限り、それなりに発育は良いようだが、いくらなんでも……



「ちょ、ちょっと!? どこ見てるのよ!」


「おっと、すまないお嬢さん。こう見下ろすとついつい視線が、な……」


「ま、まあいいけど……、それより! アンタのデウスマキナ、中々イイ機体じゃない!」



 まあいいのか、じゃあこのまま見てても良いのだろうか?

 ……いや、やめておこう。

 いくら国の管理が行き届いていない未踏領域付近でも、少女にそんな目を向けていれば流石に捕まるかもしれない。



「そう、なのか? つい先程大笑いされたばかりなんだが……」


「ビル達ね。いいのよ、あんな奴等の言うことなんて気にしないでいいわ! アイツ等なんて、所詮流行はやりに乗っただけのお調子者に過ぎないもの! 最新軍用モデルだかなんだか知らないけど、開拓者にとって第一に必要なものは耐久力! あんなナヨナヨした機体で未踏領域踏破を目指すなんて、開拓者を馬鹿にしているわ!」



 ……成程、彼らが俺の機体を笑ったのは、このフォルムのせいか。


 改めて自分の機体を確認してみる。

 丸みが一切なく、角ばったフォルムは、まさに箱と形容するに相応しい。

 特に、膝を畳んで停止した今の姿は限りなく立方体に近く、違う角度から見ればコンテナか何かと勘違いされかねない状態だ。


 そして視線を移し、周囲のデウスマキナを見てみる。

 実に様々な機体があるが、ほとんどの機体は比較的スリムなフォルムに纏められており、俺のパン……じゃない、【ボックスワン】のような頑丈さを重視した機体は少ないようだ。



「開拓者向けのデウスマキナは、戦闘用と違って耐久力重視が良い、と聞いていたんだがな……」


「別に間違っていないわよ。それがデウスマキナの本来の利用用途なんだから当然ね! そもそも、軍用だの戦闘用だのが開発されていること自体おかしいんだから……」



 少女の言葉には、俺も同意見だ。

 本来、人造デウスマキナは未踏領域に挑むために作り上げた、探査用・・・の機体なのである。

 しかし、昨今では本来の目的から外れて兵器としての転用も進み、今では立派な軍用兵器と化してしまっていた。

 お陰で人類間の戦争は活発になり、どの国家も戦力としてデウスマキナの部隊を持つに至っている。

 軍人をやっていた俺が言うのも何だが、全くもって愚かしいとしか言いようがない。



「まあ、アイツ等の言い分にも理が無いワケじゃないわ」


「というと?」


「この大会は、どれだけ速く目的地にたどり着くかで勝敗が決まるわ。それは理解している?」


「ああ、もちろん」



 勝利条件も知らずに大会参加などする馬鹿はいないだろう。

 もしかして、俺はそこまで低く見られているのだろうか……?



「その目的地なんだけど、毎年恒例で、未踏領域の手前・・に設定されるの」


「手前?」


「そう、つまり、今年であればこの『サンドストームマウンテン』の中層付近、嵐巣区画の手前ってことになるわ」



 嵐巣区画は、この山脈の中層部から上層部を包み込む、雲のような砂嵐に覆われた人類未踏の領域である。

 未踏領域とは言っても、実際は踏み入ること自体が不可能というワケではない。

 ただ、その奥に進んだ者は未だ誰も帰って来ていないというだけの話だ。



「つまり、未踏領域に挑戦しないことを考えれば、機体を速度重視にチューニングする選択は理に適っているとも言えるの」



 ……確かに。その考えで言えば、頑丈さはある程度軽視してもいいかもしれない。

 その分危険は増すだろうが、未踏領域に入らなければ死に至る可能性は高くないだろう。

 であれば、リターン重視で速度重視の装備を選択するのも悪くない。

 コレはもしかして、マズったか……?

 いや、いざとなれば俺も――



「それでも! 開拓者の志としては決して良いやり方ではないわ! いくら未踏領域に踏み入らないとは言っても、この山脈は人類がデウスマキナを手に入れなければ踏み入ることのできなかった危険領域であることに変わりはないのよ!? リスクを軽視した者に未来はないわ!」



 熱の入った持論を披露する少女。

 しかし、彼女の言い分も理解できるが、単純な成績を求めている俺にとっては素直に頷けない部分もある。


 確かにリスクは存在するだろうが、別に彼らも生身で挑戦するわけではないのだ。

 そもそもデウスマキナは平均して頑丈に作られているし、軍用モデルともなれば速度と耐久力のバランスがを高水準で取れているため、脆いと評するのは間違っている。

 これは、少々見積もりの修正が必要かもしれないな……



「ねえ、それで相談なんだけど、私とチームを組まない?」





 ……………………なに?




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