東の大陸に飛び立った二人。
その飛行道中は何事もなく、無事についた。
「西の寒い砂漠、北の氷の大地ときたから、この大陸は暖かく感じるね」
「はい」
二人の前には数多の山。
「山が多いね」
「今回はこの山の中に神具があるはずです」
二人はまず、山登りの準備をするため、ちょうど麓にあった町に寄る。
「少年少女。何しに山登りに行くんだ?」
店で山登り準備をしていると、店員が聞いてくる。
「神具を探しに」
「神具? ああ、あれかあ」
「知ってるんですか?」
「この町では割りと有名だよ。『神具を求める者は神山を訪れよ』ってね。ただ……」
「ただ?」
店員が声を潜めて言う。
「神具を探しに行って戻ってきた者はいないんだ」
二人は緊張した。
「で、でもエイリーンいるから大丈夫だよね?」
「も、もちろんです。女神見習いの力を見せます」
二人はまず宿に泊まる。そして朝一で山登りに向かった。
二人は山を越え、神山を目指す。
だが山ひとつ越えるのも当然キツい。二人は休憩を取りながら少しづつ山を越えていく。
「神山、まだ先?」
「まだまだ先ですね……」
いくら準備していても、キツいものはキツい。
二人は神山につく前に、山中で一泊する。
そして次の日。
「霧が酷いね……」
「道はわかりますが、気をつけていきましょう」
二人は霧に注意しながら、ゆっくり進む。
そしてついに神山へついた。
「ここが神山……」
神山と言うだけあって、そこは神々しい雰囲気が漂う。
二人は神山の霧の中を進む。
「おかしいですね……。この山に入ってから方向感覚がつかめません」
「えっ」
エイリーンの感覚を頼りにしていたコウルは驚く。
女神見習いのエイリーンの感覚を狂わせるとは、さすが神山と言ったところか。
「大丈夫です。たぶんこっちです」
エイリーンに合わせコウルはついていく。
「あっ」
エイリーンが突然つまずく。
「大丈夫、エイリーン?」
「は、はい……。きゃっ!」
つまずいた足元を見て、エイリーンは驚いた。人が倒れている。
「だ、大丈夫ですか?」
コウルは倒れている人に声をかける。
「う、ううっ……」
息はある。だが話せるほどではないようだ。
「エイリーン治療を」
「任せてください。ですが……」
エイリーンが指差す。よく見ると死屍累々のごとく、人が倒れている。
「これは一体……」
コウルが周りを見渡した時だった。
「誰だっ!」
コウルは一つの影に反応する。
「グゴゴ……。我の気配に気づいたか」
「モンスター!」
コウルは剣を抜いて聞いた。
「この人たちはお前の仕業なのか?」
モンスターは笑いながら言う。
「グゴゴ。ここには、神具があると聞いた人間どもがくるからな。我の食事にはもってこいの場所だ」
「何だって……!」
コウルは剣を構える。
「許さない。お前はここで倒す!」
コウルの一撃。それをモンスターはかわすと、霧に混じるように消えていく。
「待てっ!」
コウルはモンスターを追おうとするが、エイリーンが制止する。
「ダメです、コウル! 迂闊に追ったら霧で迷ってしまいます!」
「あ、ああ。そうだね。ありがーー」
いつの間にか、エイリーンの後ろにモンスターの影が。
「エイリーン、伏せてっ!」
コウルは魔力弾を飛ばす。だがモンスターは再び霧に紛れて消える。
「なるほど。この霧に紛れて、今までの人たちを襲っていたのか」
確信する。しかしコウルも、モンスターの気配を追えない。
「くっ……」
「こうなったらわたしが……!」
エイリーンが治療をやめ立ち上がり、魔力を集中する。
「やっ!」
魔力の波動が周りに衝撃を与える。
「グゴッ!?」
モンスターが怯み姿を現す。
「今だっ!」
コウルは出現したモンスターに剣の一撃を叩き込んだ。
「グガアアアッ!」
モンスターが倒れる。
「ふう……」
コウルが剣を下ろした時だった。
「コウル、後ろです!」
「えっーーぐっ!」
モンスターの一撃をコウルは喰らう。
「なっ……今、倒したはずなのに?」
「グゴゴ。我の弟を倒すとは予想外だったぞ」
「弟!?」
そして思い返す。確かに、モンスターが消えてから反対側に回るにしては、やけに早かった。
「そうか……。最初から二体で襲っていたのか」
「でもそれなら、先ほどの魔力の波動を受けているはずですが」
「グゴゴ。ちょうど貴様らの言う神具の洞窟が近くにあるのよ。我はそこに隠れていたのよ」
二人が反応する。
「グゴゴ、だが貴様らは神具にたどり着けん。我がここで……うん?」
「神具があるなら……」
「はい。ここで止まるわけにはいきません」
二人の息が合う。コウルは一瞬で女神聖剣を呼び寄せていた。
「はっ!」
聖剣を構えた神速の一撃。モンスターはいつの間にか斬られていた。
「バ、バカな……」
モンスターが倒れる。周りは今度こそ何もいない。
「じゃあ、治療を続けますね」
「うん」
エイリーンが皆を治療し終わる頃には辺りが暗くなっていた。
「あんたら、助かったよ。ありがとう」
回復した人たちはお礼を言いながら去っていく。
「神具を見にきたんじゃないのかな?」
「モンスターに襲われて懲りたのでは?」
二人は辺りを探る。するとモンスターの言ったとおり、すぐに神具は見つかった。
「これが……」
「はい。神具の盾です」
二人はおそるおそる手に取る。特に罠などは作動しない。声もしない。
「特に試練とかはないね?」
「この山自体が試練のようなものだったのかもしれません」
二人はほっとして、神具の盾をしまう。
「ここから帰るのが大変だね……」
「飛んでいきますか?」
エイリーンが翼を展開する。
「いやいや、いつもエイリーンに頼って飛んでたらいけないよ。ただでさえ、大陸を渡るときは頼ってるのに」
「そうですか?」
翼をしまうと、二人はゆっくりと山を越え、降りていく。
麓の村に戻ると店員が呼んでくる
「少年少女、お疲れさん。他の奴らを助けたそうじゃないか」
「ええ、まあ」
コウルはうなずくと、店員は近づき小声で聞いた。
「……で、神具はあったのかい?」
二人はわかりやすく笑うと。
「秘密です」
と言って、村を去るのだった。