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第18話

嵐のモンスターを倒し、町で宴が終わった翌日。


「……ル。……ウル」


「う、う~ん。もう食べられないよ……」


「コウル! 起きてください!」


エイリーンの声にコウルは目を覚ます。


「ど、どうしたの。そんなに寝坊した?」


「いえ、外に来てください」


言われ、慌てて外に出るコウル。すると、そこには――。


「モンスター……ポム?」


コウルの目の前で宴の後の残飯を食い荒らすモンスター。


そのモンスターの丸い形はポムそっくりだった。色が緑や、毒々しい紫な色なことを除けば。


「あれは『腐ポム』。または別名『ボム』です。ポムそっくりですが、とても食い意地の張ったモンスターです」


「そ、そうなの……」


確かに目の前で残飯を荒らすモンスターからは、とてもポムの可愛さは欠片も感じられなかった。


「追い払う――って、まだ剣を返してもらってない」


さすがに聖剣を呼ぶほどではないと思い、コウルは魔力弾を軽めに撃つ。


「ボムー!?」


「ボムー!」


腐ポムの群れは慌てふためくように、逃げ惑う。


しかし、わりとしつこく、逃げてはまた食料を漁りに戻ろうとする。


「倒した方がいいのかな? 逃げても戻ってくるよ」


「それはそれで問題が……」


エイリーンが指さした方向。町の男が剣で腐ポムを一斬りする。すると――。


「ボムー!」


腐ポムは、別名ボムのとおり、その場で軽くだが爆発した。


「うわっ!?」


爆発した一帯に腐ポムと同じ色の液体が飛び散る。


「これです……。腐ポムはやられると爆発し、液体をまき散らすのです……」


「うわあ……」


コウルは怯んだ。


腐ポムが液体を出したのが、すっかり忘れていた血を思い出させたのもあるが――。


「くさい……」


腐ポムの残した液体がすごく臭かったのだ。


「腐ポムの液体は、食べたものが混じり合ったものと聞きます……。なにを食べたらこんな臭いに……」


二人は腐ポムを追い払いながら、鼻が曲がりそうなのを堪えるのだった。


「ふう……」


数分後、腐ポム騒動は何とか収まった。


「すまねえな。昨日の今日に、モンスター退治の英雄に」


「いえ」


「それで、もう海を渡るのか?」


「いえ、まずはマントを返しにいかないと」


二人は腐ポムの臭いから逃げるように、マントを持ち山の方へ走る。




「おかえりなさいー。無事で何より。マントは無事ですかな?」


山の洞窟でそのまま待っていたアキナインは、すぐさま二人からマントを取りチェックする。


「うん傷はないね。なんかすごい臭いがついてる気もするけど」


二人はギクッとなる。腐ポム騒動の残り香がついていたのだろうかと。


「まあ、他は問題なし。剣は返すよ」


「あ、ありがとうございます」


コウルが剣を受け取る。するとすぐに、アキナインは別のものを取り出し見せる。


「ところで、この『究極臭い取り』。今なら安くしておくよ。いかがかな?」


コウルとエイリーンは顔を見合わすと、自分の服の臭いを嗅いだ。まだ少し臭い気もした二人は――。


「買います……」


その場でそれを買い、自分たちに吹きかける。確かに臭いは消えたようだった。


「これ、あとどれくらいあります?」


「うん? まだたくさんあるけど?」


コウルはアキナインから『究極臭い取り』を大量に買い込むと町に戻ることにした。




「いやあ、まさかモンスター退治の英雄から、こんなものまでもらえるとはね」


町人たちが礼を言う。腐ポムの臭いで悩んでいた町に『究極臭い取り』はなんと売れた。


コウル達は配るつもりだったのだが、その効果抜群さを知るや、町人が金を払ってくれたのだった。


「これが転売か……」


「え?」


「いや、何でもないよ」


コウルの呟きは風に乗って消えた。




「さて、じゃあ――」


「ええ。やっと海を越えれますね」


二人は海岸に立つと、いよいよとエイリーンは翼を広げた。


「いきます!」


コウルを抱えエイリーンは飛び立つ。塔のある大陸へ向けて。


「もうあとは、塔に向かうだけ?」


「特に何もなければですが」


コウルは、それはフラグなのではと思ったが、エイリーンがわからないと思い胸にしまう。


そして大陸を渡り、塔の前に付いたが――。


「これ、入れる?」


神の塔には着いた。だがその周りはまたも風、竜巻が覆っていた。


「風除けのマント、まだ必要でしたね……」


「どうだろう……。嵐と違って、入る隙間もないよ」


二人は途方に暮れる。


「エイリーンの魔力でどうにかならない?」


「いえ……。この竜巻は邪神級の魔力です。わたしでは難しいと思います……」


「そう? なら一つだけ試していい?」


コウルはそう言うと女神聖剣を呼び出す。


「はあああっ!」


魔力を込めた聖剣の一撃。聖剣の光が竜巻を包む。竜巻は――。


「ダメです。消えてません」


「そうかー……」


コウルはふらついて尻餅をつく。


「だ、大丈夫ですか、コウル」


「う~ん……。出せる魔力を全て込めたんだけどな……」


コウルはエイリーンに支えられ立ち上がる。


「無茶はいけません。全魔力なんて。死んだらどうするんですか!」


「し、死なない程度にしてるよ」


エイリーンに怒られ、たじたじなコウル。


「で、でも本当にどうする?」


「あ、そうですね。一体どうすれば……」


考える二人。その上から、竜巻に吹き飛ばされるように紙が一枚落ちてくる。


「これは――」


『エイリーン。コウル。よく来たわね。この塔に入りたいなら、かつての邪神様を封じたといわれる四つの神具が必要よ。あなたたちに見つけられるかしら?』


「これって……」


「はい、エルドリーンからの手紙のようです。かつての邪神を封じた四つの神具ですか……」


「わかる?」


エイリーンはもちろんと頷く。


「はい。今の邪神エンデナール。その前の邪神は、非道極まりなかったため、英雄に封印されたとの伝説があります。その武具のことなら……」


「手紙のとおりならそれを集めればいいんだね」


「ええ。でも信じるんですか?」


コウルは頷いた。


「他にこの竜巻を突破する方法はないんだ。嘘でも罠でもこれを信じるしかないよ」


「そうですね……では」


「四つの神具を集めに――」


「出発です!」


二人は手を掲げ宣言するのだった。

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