神の塔を出た二人は、ワルキューレに見送られ南の大陸に向かう。
「あ、そっか。当然、帰りも舟かあ」
ここに来るまでの道のりを思いだし、コウルは気が重い。
「大丈夫です。コウル」
「え?」
エイリーンは魔力を集中する。するとーー。
「わあ!」
コウルが驚きと喜びの声をあげる。
エイリーンの背中から、輝く光の翼が生えたのである。
「これも、女神の力?」
「はい」
エイリーンは嬉しそうに返事をする。そしてコウルはの後ろに立つ。
「失礼します」
エイリーンはコウルの背中から抱きつくように手を回す。
コウルは急に抱きつかれ赤くなるが、その瞬間、エイリーンは飛翔した。
「うわわわ!?」
急に飛び立たれ驚くコウル。
エイリーンは軽く謝ると、南の大陸へ向け羽ばたく。
捕まれたまま、コウルはひとつ思うことがあった。
「エイリーン、手はキツくないの?」
「……言わないでください、キツいです!」
飛んでるからか、珍しく大声で返事をするエイリーン。
二人はそのまま無言で飛んでいく。
そして数時間、二人は南の大陸についた。
「エイリーン、ごめんね。お疲れ様」
「いえ。大丈夫です。なんとか……」
コウルはエイリーンの手を撫でる。
よく考えると、エイリーンの手が限界だったら、コウルは海にまっ逆さまであった。
二人はまず近くの町に寄り、休息と情報収集をするつもりであった。
だがーー。
「モンスター!?」
町人がモンスターに襲われている。
コウルは剣を抜き、モンスターに斬りかかった。
女神の力を思い出したエイリーンも、魔力でモンスターを撃破する。
「何で町にモンスターが?」
「モンスターが町を襲うことはあります。ですがこれは……」
多すぎるとエイリーンは感じた。これはまるで誰かが意図的にやっているような。
そう思い、ひとつ思い出す。以前、カーズがアンデッドを呼び出していたことに。
「これもカーズが……?」
モンスターは最初、町人を攻撃していたが、だんだんとコウルたちを狙い始める。
修行した二人の敵ではないが、数の多さに全滅させるのには時間がかかった。
「時間稼ぎでしょうか?」
「わからない……」
コウルたちはそのまま宿を取ると、町で情報を集める。
「遺跡の塔ねえ。知らないなあ」
「遺跡の塔? さあねえ」
町人は皆、遺跡の塔を知らない。
仕方なく二人は一度宿に戻る。するとそこにはーー。
「やあ」
「え、マスターさん?」
二人の部屋に、マスターが壁際に立っていた。
「無事に修行が済んだようで何よりだ」
「マスターさんは何故ここに?」
「遺跡の塔に向かうのだろう」
マスターの眼鏡が光る。コウルたちはうなづいた。
「きみたちが最初に会った荒野へ行くんだ。そこに行けばわかる」
そう言うと、マスターは一瞬で姿を消した。
「あの人、一体何者なんだろう。エイリーン知ってる?」
「いえ……。エイナール様は知っているかもしれせんが」
二人はマスターの正体を気にしながらも、その日は休むのであった。
翌日、二人は荒野に立っていた。しかし荒野はとても広い。
だが、塔など見当たらない。
「塔なんて見当たらないね……」
「大丈夫です」
エイリーンは荒野に向けて魔力を集中すると、光が広がり始める。
すると見えなかった場所に、遺跡、そして塔が出現する。
「これは……」
「魔力による幻影が張られていたんですね」
二人は遺跡に入る。その遺跡の中央には、塔が立っている。
「ついに……きたね」
「はい」
塔に入る。
塔の内部は広いが何もない。
「上に行けないね……」
「これは魔力による幻影ではありませんね」
二人はそれぞれ別れて、壁を調べてみる。
その時だった。
「「え!?」」
二人を遮るように壁が降ってくる。
「エイリーン!」
「コウル!」
閉じる前にと走るが、無情にも壁は降り閉まる。
コウルは壁を叩く。開く気配はない。
その時、コウルはハッとして、咄嗟に横に飛んだ。
コウルがいた場所に矢が刺さる。
「誰だ!」
コウルが振り返る。そこにいるのはモンスター。
上半身人型、下半身は馬のモンスター。
「ケンタウロス……?」
「そうだ。半人前だがな」
「エイリーンは」
「向こう側にいる。無事とは限らないがな」
その一言に、コウルのスイッチが入る
「なら、あなたを倒し、エイリーンの所へ行かせてもらう」
コウルは剣を抜いた。
「コウル……」
エイリーンは壁を調べている。しかし壁は開く気配はない。
「いいのかい? そんなに男に気を取られて」
「え? きゃあっ!」
エイリーンを巨大な蔦が弾き飛ばす。
エイリーンがふらつきながら立ち上がると、そこには蔦に身体が覆われた女性だった。
「あなたは?」
「私は植物使いザ・ローズ。カーズ様に仕える者さ」
「コウルは?」
「向こうさ。もう死んでるかもね」
「コウルは死にません!」
「はん、じゃああんたが先に死ぬのさ!」
ローズが蔦を振るう。エイリーンはそれを魔力の壁で受け止める。
コウルと、エイリーン。それぞれが敵との戦いを始めるのだった。