231さんの案内もあり、秋さんの家に到着した。秋さんの所有品は私が預かっているので、鍵を探し出しドアを開ける。そこには、寝たままの235さんが放置されていました。
「あ、235じゃん。とっとと起きな……っ、と」
スリープボタンを押された235さんは、「起動します」という声と共に起き上がった。
「231、感謝します。ミス・マリーは無事だったのですね。マスターは破壊されてしまいましたか」
無感情な声でそう問いかける235さんへ、首を横に振る私たち。
「お兄ちゃんは損傷しただけで無事だよ。今頃修理されてるんじゃないかなぁ」
231さんがそう説明すると、「そうなのですね」と納得した様子。何を思っているのかは全く予想がつかないけれど、嬉しがっている様にも見えた。彼女には感情がないのに。
「……という訳で、お兄ちゃんが修理から戻ってくるまでは三人でここで暮らすから。よろしく235」
231さんは、強引に235さんに握手を求めた。235さんもそれに応じ、奇妙な三人での生活が始まったのであった。
***
生きている。いや、アンドロイドを生きていると表現するのはおかしいが、どうやら俺は一命をとりとめたらしい。真っ白なこの部屋では、技師らしき人物が一人パソコンに向かって何かを打ち込んでいた。
「起動したか。自立式思考型アンドロイドAK-3。異常は無いから、帰るなりなんなり好きにしたらいい」
技師は俺の方を一瞥し、また作業に戻った。とりあえず、服は畳まれていたのでそれを着る。ナビ機能は正常に機能していたので、「ありがとう」と言い残しここから出る。
しかし、すぐに俺は重大な事実に気づいた。家の鍵がない。財布もだ。これでは、ビルから出られても家に辿り着けない。どうしたらいいのか悩んでいると、ふと235の存在が脳裏をよぎった。235に連絡すれば、鍵も財布も戻ってくるかもしれない。スリープモードから解除されていますように。その願いを込め235に連絡を取る。しばらくすると、
「何でしょうか、マスター」
と返答があった。
「俺の家の鍵と財布を知らないか? もし知っているなら届けに来てほしい。場所はkkkビルの手前だ」
「承知しました」
235は何故か鍵や財布のありかを知っていた。スリープモードから覚めたということは、誰か他の奴も俺の家にいる可能性が高い。警戒しなければ。それにしても誰がスリープをといたのだろう。そんなことを考えていると、誰かが俺の方に走って近づいてきた。青い髪のその女性は、どう考えてもマリーだ。
「秋さん、直ったのですね」
マリーは泣きながら俺に言った。
「心配かけたな」
と頭を撫でると、マリーは俺の胸に飛び込んできた。嗚咽のみが、この空間を支配していた。
「……悪いんだが、財布と鍵は持ってるか? 一緒に帰ろう」
雰囲気が壊れるのはわかっていたが、早く帰りたかった。235の様子も確認しなければならない。
「そうですね……すっかり忘れてました。これですよね?」
マリーが手渡してきたのは、間違いなく俺の家の鍵と財布。マリーの交通費で多少金額は減っているだろうが、無事に戻ってきたことに安堵する。
「じゃあ、帰るか」
「はい!」
俺たちはkkkビルに背を向け、地下鉄の駅へと歩き出した。