「秋さんに何てことを……!」
私は濡れないように慎重に、秋さんに近寄る。
「止まれ、マリー・シュゴール。貴様一人ではどうにもならん」
男性は口を開く。どうにもならないことなど、私が一番よくわかっている。私に出来ることといえば、死者蘇生や傷の回復などがメインである。それもこの身体では行えるかわからない。だが、それはやってみなければわからない。秋さんに触れるとバチバチ火花が散る手で、そっと彼の顔を持ち上げる。
「何をする気だ、マリー・シュゴール!」
男性の言葉を無視し、秋さんにそっと口づけする。これは故郷では挨拶だが、魔術的には蘇生魔法に大いに役立つ。この状態のまま、呪文を詠唱してみる。
“愛に飢えし子羊たちよ、今無償の愛を分け与えん”
しかし、呪文を詠唱したところで何も変わらなかった。秋さんが起きることは無く、男性がそこに立っているだけだ。
「……貴様も終わりだ、マリー・シュゴール!」
そう言い放ちホースを持った男性。いちかばちかで、その方向へ突進することにした。
「自ら破壊されに来たか、マリー・シュゴール! 馬鹿な女だ」
相手は油断しているのか、水をチョロチョロと出すだけでこちらを煽って来る。ならば、その隙をつくまでだ。旅の仲間がやっていた足払いが、奇跡的に成功した。倒れこむ男性。ホースも手から離れている。
「……何が狙いなんだ、マリー・シュゴール」
小動物のごとく怯えた目をする男性に、冷ややかな目線を浴びせる。
「狙いなどありません。秋さんを早急に修理してください」
「待て、俺には修理できない。外神秋は今から修理室へ運ぼう。他に何かあるか?」
「私達を……元の身体に戻してください」
男性ははっきりと声を出した。
「それは不可能だ」
「何故です!」
思わず語気が強くなってしまった。
「覆水盆に返らず、とでも言おうか。一度やってしまったことは取り返しがつかない」
「で、では……魔法も何も使えない状態で、暮らせと」
「そうだ。だが、貴様らはとても面白い反応を見せた。なので、条件を付けよう」
「条件?」
どうせ良いものではないとは思いつつ、次の言葉を待つ。
「外神秋と暮らすのだ。アンドロイド間に感情があることを証明してみせよ。それは我が社の利益にも繋がる。どうだ」
秋さんと暮らせる。ということは、彼は助かるということだ。安心し、へたりこんでしまった。
「構いません。秋さんとまた会えるのなら」
胸の中に、何かとても重大な感情が隠れている気がする。それが何かは、今はまだわからないけれど。秋さんと一緒に居れば、わかるかもしれない。
「決意は固い様だな。では、本部にはそう連絡する。そういえば、貴様には付け忘れていたな。案内役のEW-231だ。仲良くするように」
「さっき紹介された通り、EW-231です! お姉ちゃんのこと沢山支えるからね」
235さんは感情が無かったのに、この子にはそれがあるみたいだ。
「よろしくお願いしますね」
微笑むと、231さんは顔を赤らめ頷いた。