俺たちは無言で司が食べ終わるのを待った。会話などは一切なく、ただただ暇だった。司はそんな俺たちを見かねてか、早めに食事を済ませてくれた。今日は、司に心労しかかけていない気がする。悪いとは思うが、司も人を巻き込みがちな部分があるのでおあいこだろう。
「すみません、お会計お願いします」
「あいよ!」
ここでの食事は、全て司の奢りだった。司しか食べていないので、当たり前と言えばそうなのだが。
「申し訳ありません……」としょんぼりするマリーに、「あいつは人の面倒見るのが好きだから気にするな」とフォローを入れ退店した。
「あのお店のオムライス、美味しかったでしょ?」
「機会があれば食べてみたいですね」
前二人が食事の感想を述べあっている中、俺と235はまたもや無言だった。元々人と話すのは好きではないが、こうも無言が続くとストレスだ。235はストレスなんざ感じていないだろうが。
やっぱりこうして見ると、俺より司の方がマリーにお似合いなのではないだろうか。二人とも優れた容姿をしているし、街中を歩いていたら映えるだろう。235と共に帰ろうか____そう考えた時だった。
「私は、思ったことがあります。私達を元に戻す方法があるんじゃないかって」
マリーはこちらを振り返りながら言った。だが、その発言は235によって可能性を抹消される。
「不可能です。マスターは選ばれた一人、人間に戻す方法なんて存在しません。いつか朽ち果てるまでの命です。それにそれはミス・マリー。貴女も同じです」
薄々わかっていたことだが、改めて言われるとショックだ。機械油が頬を伝った。「マスター、どうかされましたか」と無機質な声で問いかける235に答える元気もなく、その場に蹲った。
「あ、秋! とりあえず立とう! マリーさんはこっち持って……そうそう、そんな感じ」
司が強引に俺を立たせようとしてくる。その行為に苛立ちを覚え、気づいたら口から言葉が出ていた。
「うるせえな、機械になったこともない奴が!」
司は黙り込む。その後、「……ごめん」と返事があった。それがあった頃には俺の頭も冷めていて、「こちらこそごめん」と言えた。だがこの場を支配する沈黙は去ってくれない。
「戻せないなら戻せないで、私は秋さんと仲良くしたいです」
それを打ち破ったのは、マリーだった。
「え、でも……」
俺はいつか朽ち果てる実験体だ。いつまでマリーと一緒に居られるのか、わからない。
「大丈夫です、私どんな秋さんでも受け入れますから。だから……もう少しだけ、話がしたいんです」
恋愛に疎い俺でも、それが好意であることはわかった。やはり、肌色が水色でよかったと感じる。そうでなければ、真っ赤な顔で爆発でも起こしそうだ。
「……勿論、構わない」
それしか、言えなかった。その声は震えていたかもしれないし、情けない声だった様に思う。
「じゃあ、僕と235ちゃんは先に帰るよ。二人でごゆっくり」
司が気を利かせたのか、二人は俺たちに背を向けた。
「待ってください、私の仕事はマスターの経過観察です」
しかし235は一筋縄ではいかない。今日だってそれが目的でついて来た様なものだ。
「たまには休むことも重要だよ」
司は強引に235の手を取り、池袋駅の方へ歩き始めた。端から見ると少女を誘拐している様に見えなくもない。が、司の心遣いは有難い。
「では、私が先ほど見つけたカフェに行きましょう。飲み物は残せばいいですし……」
マリーは俺の手を取り歩き出した。少しは俺に心を開いてくれたのだろうか。そうであるなら、嬉しい。現実で美少女と出会って仲良くなるなんて、ありえないことだから。