東の森は、その名前に反してとても暗かった。
木々が鬱蒼と生い茂り、あまり動物の気配も感じない。
ミチルはその入口に立って、恐怖を感じていた。
「や、ややや、ヤバそうだね!?」
「いや、この森はいつもこんなものだ」
しかしジェイは平然としていた。やはり騎士は違う。ぽんこつだけど。
「だが……森の中に入るのは賛成できない。いくら私でもミチルを守りながら何が起きるかわからない森を歩く自信はない」
「だ、だよねえ……」
入口とは言え、こんなところまで来てしまったことをミチルは後悔していた。
森って、リスとかウサギがいるんじゃないの?
どう見てもこの森は魔女とか妖怪が出そうな感じだ。
「とは言え、せっかく来たのだから少し入ってみるか」
「ええっ!?ウソでしょ!?そんなの無鉄砲だよ!」
先ほどまでの威勢はどこかへ行ってしまった。ミチルは慌ててジェイの腕を引いて止める。
「ごめんね、ジェイ!オレが悪かったよ!帰ろ!」
「……ミチルはここで少し待っていてくれ」
ジェイは怖がるミチルの頭をポンと優しく叩いた後、森の中へと歩き出した。
「ジェイ!」
どうしよう、オレのせいだ。
オレが変に煽ったせいでジェイは引っ込みがつかなくなってる。
一人残されたミチルは恐怖に耐えながら、数分ほど立ち尽くしていた。
だが、その後、森からガサガサっとか、キキキキッとか、ぼんぼろぼーん、とか奇怪な音が鳴り始めたので、ミチルはジェイが心配になり震えながらも森へと入った。
「ジェーイ……どこまで行ったのぉ?」
控えめに呼びかけても返答はない。だが、大声は出したくない。ミチルはまた数歩森を進む。
「ジェーイ、返事してよぉ……」
視界も暗くて自分がどこを歩いているのかわからない。あてどなく歩くミチルは、ついに大きな樹にぶちあたった。
「……え?」
その樹はほとんど枯れていた。
大きなうろが出来ており、中は暗い。
暗いが、何か変な感じがした。
ミチルは思わず中を覗く。
闇の中ではあったが、もやもやした煙が渦巻いていて、ブラックホールのように吸い込まれそうだった。
「──!」
ミチルは慌ててうろから身を放す。
だが少し遅かった。うろの中で蠢くものがある。
闇の中から一匹の黒い狼が現れた。
ついで黒い猪、黒い狐も現れる。
「ひっ!」
その枯れた樹こそ、ベスティアの発生源だったのだ。
ミチルは一気に三匹のベスティアに囲まれた。
獣達は暗い瞳でミチルを見つめている。
それに睨まれたところでミチルにはなす術がなかった。
三方向から獣がミチルめがけて飛びかかる。
ミチルは死を覚悟した。
「ジェイ!」
最後に呼んだのは、かの
せめてもう一度だけ会いたい。
「ミチル!」
騎士は颯爽と現れ、三匹の獣をあっという間に切り捨てた。
「ジ、ジェイ……!」
「怪我はないか?」
「大丈夫、ごめん!ごめんなさい!」
ミチルはその胸に縋りついて泣いた。
支えてくれた腕はとても温かかった。
「良かった。君が無事ならそれでいい」
そうして抱き締めてくれた彼の肩越しに、ミチルは見てしまった。
一際大きな影が、樹のうろの中で蠢くのを──