「君は、これからどうしたいんだ?」
ジェイに言われた言葉が頭から離れなくて眠れない。
ミチルは暗闇の中、ばっちり目を開けて考えていた。
問われたのに何も答えられなかったミチルに、「疲れていては頭も回らないな」と優しく誤魔化されてくれたジェイ。
一つしかないベッドをミチルに譲って、床で寝ているジェイ。
寝息を立てて眠るジェイ。
──ん?
あらやだ、この人熟睡してやんの
オレはこんなに眠れないのに!
何に腹を立てていいのかミチルは段々わからなくなった。
ジェイがああいう風に聞いたのは、別に責める意味はなかったんだろう。だけど、ミチルはここに来てからの自分を省みると、確実に浮かれていたように思えた。
一番の原因はこいつがイケメン過ぎることだ。
だがそれは誰のせいでもないし、イケメンは存在事態が正義なのでノーカウントととする。
次の大きな原因は、今までモブとして、誰の何にも引っかからない平凡な存在として生きてきた自分が、異世界に飛ばされて非凡な境遇になったことだ。
そんなの興奮するに決まってるじゃん!
だが、もう一時のレア感を噛みしめるのは終わりにするべきなのかもしれない。
ジェイだって、いつまでもミチルに構ってなどいられない。彼には大きな夢があるのだから。
異世界に来た者は元の世界に戻る方法を探すのがセオリーだろう。だけど、すぐにそうする必要はあるか?
大学は行きたかったけど、行けない事情が出来れば別にどうでもいい。ミチルは手段はどうでも自分を変えたかった。
それなら、少しこの世界で珍しい経験をしてみたい。
留学したような気分で?
それ、すごくいいじゃん!
──だが、そんなわがままが許されるのだろうか。
さっきから、その堂々巡りでミチルは全然眠れない。
それに、もうひとつ。
ミチルはジェイが夢を叶える所が見たいと思っていた。
ぽんこつのまま、下級騎士で終わって欲しくない。
憧れの陸軍大将に会う所までは無理でも、せめて出世の道筋がつくところまで助けたい。
──だけど、こんなオレに何が出来るって言うんだ。
もうひとつの堂々巡りも混ざって、ミチルは完全に迷宮回廊をさまよっている。
そんな思考に嫌気がさしたミチルはベッドから降りて、熟睡を続けるジェイの顔を覗き込んだ。
月明かり 映えるかんばせ イケメンかな
一句出ちゃったよ、寝顔のエグさに!
「はー……」
ミチルが脱力していると、不意に腕を引かれた。
「!」
次の瞬間、ミチルはジェイの腕の中に引きずり込まれていた。
ええええっ!
なにこれ、やだこれ、どういうこと!?
そういうことなの、ここで喪失するの!?
ミチルは緊張で頭が真っ白だった。
ああ、今にもジェイが迫って……
来ないな。
「?」
ミチルはその腕の中で、ジェイの動向を確認するが、穏やかに寝息を立てているだけだった。
えーっと……
抱き枕的なことかな?
そして、何故か力強く抱き締められており、ミチルの力では腕をほどくことが出来なかった。
寝ぼけやがって、ありがとうございます!
「はあ……」
なんだかミチルは自分が馬鹿馬鹿しくなった。
それにジェイの温かい体温が伝わってくる。
それがとても気持ちよくて、安心して。
いつの間にか眠ってしまった。