あまりに眩しい光だったので、視覚が回復するまでに数分かかった。
チカチカする目をなんとか開けて、ミチルは目の前の景色に絶句した。
「──は?」
青い空、白い雲。爽やかに照りつける太陽──はさっきまで見ていたものと同じ気がする。
どこまでも広がる草原──いやいや、駅ビルどこ行った!
足元は舗装もされていない土の道──コンクリートはがれちゃったの?
そして道行く人は誰もいない。
「どういうこと?」
駅前の人達が駅ごと滅んだのか?
いや、のどかな空の感じを見るとそういう事ではない気がする。
ということは逆だ。
自分が、別の場所にやって来てしまったのだ。
「なんで?」
ミチルは今の自分の何もかもがわからなかった。5W1Hの全てだ。
もう一度周りの景色をぐるりと見回して見る。
遠くに丘のような場所が見えた。街並みかもしれない。その奥に建っているのは──
「お城?」
ミチルの目に見えたのは外国の、おとぎ話に出てくるような、それこそテーマパークにあるような、典型的な城だった。
その光景を認めたミチルは、完全に自分の頭がバグったと思った。
「え、夢?いやでも、リアル過ぎない?」
都会の街では吸うことのできない、爽やかな空気。
地面を触れば手が汚れる。
目に見えるものの質感は本物だ。
「タイムスリップ?」
いや、もしかしたらただの世界遺産がある街の可能性もある。
「瞬間移動?」
どちらにしても、超自然的なことが我が身に起きたのは明白で、ミチルは頭を抱えた。
「ああああ!誰か教えてくれぇ!」
広い草原の真ん中でミチルは叫ぶ。すると何かの気配がした。人かも知れないと、そちらを振り返ってミチルは後悔した。
「グルルル……」
黒い狼のような獣が、すぐ側まで迫っている。よだれをたらして唸る様は、ミチルのような世間知らずのこどもでも空腹なのだと理解できた。
「!」
ミチルは一目散に逃げたくなるのをぐっとこらえた。
猛獣に遭遇したら背中を見せてはいけないと聞いたことがある。冷静に目を合わせたまま、ゆっくりと後ずさる。
「……」
それでも恐怖で足が震えてしまっているミチルは、両足がもつれ、転んでしまった。
「ヒィッ!」
それを好機ととらえた獣はミチルめがけて飛びかかろうとした。
嘘だろ!?
まだ美容院に行ってない!
バイトの面接にも行ってない!
同じカフェで働くあの子に告白もしてない!
なのに、自分の人生はこれでジ・エンドなのか……。
どこがラヴィアンローズなんだ……。
ミチルが短い人生を悔いた瞬間、人の怒鳴る声が聞こえた。
「伏せろ!」
とっさにミチルは地面に顔を埋めんばかりに伏せた。
ザン、と何かを斬るような音がしたと思った次の瞬間。
「ギャアア!」
獣の断末魔の叫びが聞こえた。
ミチルが急いで体を起こし、獣の方向を見る。
だが、その姿はすでになかった。
「消えた……?」
不思議に思っていると、ミチルの体を大きな影が覆う。
「怪我はないか」
「──へ?」
人の声のした方を見上げたミチルの目には、鎧を身に付けた若い男性が立っていた。