大蛇から降り立ったレデオンは宮之守の側面へと回り込むため走った。大蛇の射出する棘で動きを制限しつつ隙を見て槍で仕留める気だ。
変幻自在な宮之守の武器による行動は読みにくい。ならば先ず宮之守を片づけることがレデオンにとっては重要だった。
それにレデオンにとって彼女はとくにうざったい存在だ。眼前を飛び回る蠅。あのリーアという女と同じくらい不愉快で仕方がない。
大蛇は巨体を活かして周囲を薙ぎ払い、佐藤をけん制している。体が大きいことはそれだけでも脅威だ。
佐藤は再び跳躍して回避したがそこへ大蛇の頭部が突っ込む。佐藤は空中で体を捻り、寸でのところで躱す。数十センチ先の目の前を大蛇の体が掠めていく。
佐藤は聖剣を大蛇の肉へと突き立て、素早くよじ登って走り、頭部へと到達すると眼球のないくぼんだ眼孔へ剣を突き刺した。大蛇は頭を激しく振りまわし、佐藤を天井に圧し潰しさんと頭を振り上げる。佐藤は剣を捻って肉を抉りながら飛び降り、その直後、天井に大蛇は頭を激しく衝突させた。
宮之守は佐藤の下へ走りだした。背後からはレデオンが隙を狙っている。
「手を! 私を上に投げて!」
佐藤は宮之守の手を掴み、腕に力を巡らせ、筋肉が浮き上がる!
「行ってこい!」
佐藤は宮之守を大蛇目掛け投げ飛ばした。大蛇が再び体を震わせ、奇怪な音を発し始めた。
レデオンが叫ぶ。
「貫け!」
周囲に棘が射出される。
佐藤の周囲に遮蔽物はない。佐藤は片膝をつき屈み込んで、剣と体中のプレートに魔力を込めて防御姿勢をとった。
宮之守は瞬時に魔力の盾を作り出し、レデオンは隙を逃さず槍を投擲した。
「終わりだ! 女!」
投擲された槍は精確な軌道を描き、宮之守の左肩を貫いた。だが槍は本来心臓を貫くはずであった。無防備な宮之守を狙ったはず。レデオンは目を細めた。
「捕まえた」
宮之守は激痛に顔を歪めながらもにやりと笑った。彼女はこの攻撃を読んでいのだ。
体を捻って致命傷を避け、自分の体とレデオンが投げた槍の死角を利用し魔力の鍵縄を放ってレデオンの体に巻きつかせた。食い込んだ縄が彼を拘束する。
「この女! どこまでも僕をバカにして!」
佐藤が叫ぶ。
「エリナ! 今だ!」
『……やっとか』
エリナの静かな声が通信に入った。
だがエリナの姿はどこにもなかい。レデオンは訝しんだ。拘束を逃れようとする中ですぐさま追撃が来ないことを。レデオンが相手する彼らは絶好の機会を逃すような甘い存在などではない。
拘束がほつれ、レデオンがついに完全に自由になろうとしている。直後、天井が凄まじい音と共に砕けて突き破やぶられ、巨大な塊がレデオンの体を貫き、すりつぶした!
鉄骨であった。佐藤と宮之守はレデオンを惹きつけて注意を逸らすための囮だった。如何に二人が強力な戦士であっても再生し続けるレデオン相手には分が悪い。なら大質量をぶつけてやろうと彼らは決めた。
エリナが言った。
『命中した。我ながら良いコントロールだ』
通信にレニュが割り込む。
『ハハハ! 実に愉快! わしの投擲の技術も褒めてほしいものだな!』
『微調整したのは我だが?』
タワーマンションの遥か先の埋立地。その幾つもある建築現場の一つにレニュは立っていた。その背後には巨大な魔力人形がまっすぐと立っている。傍にはアレイの操る魔力人形も立っていた。
「次を寄こせ。アレイ」
「すぐに」
アレイの魔力人形は傍に積み重ねられた鉄骨を掴み、レニュの魔力人形に渡した。
「いつでもよいぞ。待ちくたびれておったわ」
エリナから通信が入る。
『二投目、準備できたぞ』
エリナはタワーマンションと建築現場の直線状に結んだ中間地点のビルの屋上に陣取って佐藤たちのいるタワーマンションをみすえていた。
エリナは口をもごもごと動かし、咥えていた平たい棒を手に持つと満足げに呟いた。
「あたりだ」
レデオンは未だに息があり、意識もはっきりとしている。
「不死を、舐めるな」
だが突然のことに状況を把握できずにいた。貫かれ、すり潰された体。感覚を遮断していてもなおも鋭い痛み。体から触手を伸ばし、ぼろ雑巾のようになって飛び散った自分の体を引き寄せにかかった。
大蛇の動きは緩慢になっている。動きを制御する主の意識は現状把握と体の再生に向けられ操作するどころではないのだ。
宮之守は体を貫いた槍を引き抜き、傷口を焼いて止血した。宮之守は激痛に顔を歪ませていたが佐藤は構わず腕を掴んで立たせ、肩をかした。離れなければ巻き込まれかねない。
佐藤は大蛇から距離を取るとエリナに二投目を指示した。
「次はでかい奴だ! やれ!」
レニュが魔法人形に指示した。
「いけ」
合図を受け、魔法人形が助走を始め、大きく踏み込みんで鉄骨を投擲した。投げられた鉄骨は弧を描いて湾を越え、エリナのいるビルへ向かう。
エリナは振り返らず腕を組み、タワーマンションを睨みつけたまま魔法陣を展開させた。人一人が通れるほどの大きさであったがエリナにとっては些細なことだった。
エリナにとって遥か遠くから投げられる鉄骨を転送魔法陣で捉えることなどアイスキャンディのあたりを引くよりも容易い。
エリナの魔法陣はかつて漁港のザラタンとの戦いでエリナ自身と佐藤を射出したように魔法陣を鉄骨を放つカタパルトとした。
レニュが投擲し、エリナが微調整を行なって飛来する鉄骨は質量兵器となって高速で空中を突き進み。歪な風切り音を響かせながら大蛇のいる二十七階へと直進し、大蛇を……貫いた!
瓦礫が飛散し、煙が充満するなかで佐藤と宮之守は壁に隠れて様子を見ていた。
レデオンが腕を繋げ、潰れた半身を鉄骨の隙間から引き寄せながら言った。
「どこからこんなものを、よくも考え点くものだね」
顔には汗が浮かび、疲労が浮き出てきていた。首を切断されたときと比べるのもバカらしいほどに体が損傷している。小さなかすり傷の治療にまわす魔力さへ今は惜しい。
三投目の鉄骨が飛来し、大蛇の首を完全に破壊されて弾け飛んだ。周囲には赤い体液と白い樹液が飛び散り、大蛇は完全に動きを止め、粉塵と瓦礫を巻き上げながら倒れた。
レデオンは飛び散った大蛇の肉片を見ながら唇を噛んだ。
「おまえたち、楽に死ねるなんて思うなよ」