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第67話 攻防、進む先

 三十階を目前にした階段の踊り場で佐藤と宮之守は多数の魔力変異体に取り囲まれていた。


 剣で斬り倒し。銃で撃ち抜き。魔法で薙ぎ払う。二人の通った後には無数の屍が折り重なっていたが、それを乗り越え階下よりさらに魔力変異体が迫ってきており、加えて上階からの増援も緩む気配がない。


 佐藤は心臓や頭部の花以外を極力傷つけないように剣を振るっていたがその余裕はもはや少しもなかった。


 今は如何に早く無力化し、体力の消耗を抑えつつレデオンに辿り着くかに意識を向けている。


 迫る刃を聖剣で受け、火花を散らせながら逸らし、無防備な腕を斬って落とし、急所へと至る道筋を作る。宮之守は佐藤の作り出した隙に魔力の細剣を素早く忍び込ませ対象の動きを止めさせる。


 佐藤の背後に新たな刃が迫る。佐藤は前に屈んでこれを回避すると刃はひゅんと鋭い音を立てて空を裂いた。


 宮之守はその背中を足場にして頭上に舞い上がり、細剣の三連撃でもって三体の変異体の動きを止めた。

 佐藤は一体を蹴り飛ばし、隙の少ない殴打で怯ませて宮之守の着地の隙を補う。


 宮之守は床に足を付けると同時に佐藤に合図した。

「伏せて」


 宮之守は右手のひらを鋭い猛禽の爪のように指をまげて開き、筋肉が軋むほどに力が込めた指の間からは黒い炎が零れ落ち、床を焼いた。


「黒爪。二枚解放」

 宮之守が腕を大きく横に薙ぎ、黒い爆炎が生まれた。とっさに伏せた佐藤の頭上を凄まじい熱と勢いをもった炎が轟音ともに通り過ぎていく。


 黒炎が一掃したものの魔力変異体はさらに現れ二人に迫る。

 せっかく開いた道を閉じさせてなるものか。佐藤はまだ残る煙を目くらましにしながら階段を低い姿勢で駆けあがった。


 一体が接近に気づき、棍棒状に変形した腕が振り下ろされたが佐藤は左腕のアームプレートで受け止め、力まかせにそのまま弾いた。


 左手に持ったナイフに魔力を込めて強化し、頭部の花へ斬り付け、振り抜いた遠心力を止めず、右手の聖剣でさらに二体の魔力変異体を斬り倒す。

 筋力、遠心力、重量が一体となった強力な斬撃は並みの使い手では止められはしない。


 奥からさらに変異体が現れる。佐藤は歯を食いしばり、獰猛な唸り声をあげ、怒りに声を荒げた。

「これほどの人を!」


 魔力変異体となった人々を見て佐藤は強い怒りを抑えきれなかった。


 スーツ姿の人を見て、それまでの生活が一瞬にして塗りつぶされたことに怒りを覚えた。エプロン姿の人を見て日常が突如として断たれたことに悲しみを覚えた。


 二人は階段を駆けあがり、ついに三十階へと到達した。

 レデオンのいる部屋へ向かう前に扉が一斉に開かれ、新たな魔力変異体が数体現れた。

 佐藤はその絶望的な光景に立ち止まってしまった。とっさに振り上げた剣はそのままの状態で制止している。


 それまでのあった怒りが、冷たくなり血の気が引いていく。考えたくなかった光景が、覚悟していても、しきれていなかった現実が目の前に現れたのだ。


 佐藤は剣を降ろし、口を開け、言葉にならない声を上げ。そして閉じた。それがあまりにも、あまりにも小さかったからだ。


 佐藤へ変異した木の剣が迫るところ、宮之守が寸でのところで佐藤の襟首を掴んで引き寄せた。


「ここは私が。黒爪。二枚解放」

 宮之守は小さなものたちを一気に焼き払い、そして佐藤の方を振り返った。

「佐藤さん」

「分かってる。少しだけ、取り乱した。もう大丈夫だ」

「行きましょう。終わらせないと」


 佐藤は宮之守の顔を見て、瞳の奥に自分と同じものを見た。怒り、と悲しみ、無力感。深い罪の意識があった。



 道を切り開く。二人はひらすらに前に進み続けた。突き崩し、壊し、踏み越え、跳ねのけて進んだ。躊躇などしない。後悔などあとですればよい。今は進み、元凶を叩き潰すのだ。


 振り返ってはいけない。少なくとも今この時間が終わるまでは。互いに目を合わせずとも二人は息を合わせながら進んだ。


 ようやくレデオンのいる部屋の扉が見えるころにはタワーマンションの中は嫌なにおいで満ちていた。冷たい死のにおいだ。

 吹き抜けをとおして階下の部隊が魔力変異体に向けて放つ銃声が響いてくる。


 宮之守は走りながら階下へ呼びかけた。

「小松君。そっちは?」

『上階から階段とエレベーターを使って変異体が雪崩こんできて!』


 小松の音声からはけたたましい銃撃音が聞こえる。

『守衛室から出ろ!』

『バスのところまで後退! 急げ!』

 銃声。叫ぶ声。物が壊れる音。小松の声は激しいノイズの後に聞こえなくなってしまった。


「小松君? 返事して!」

「待て!」

 佐藤は先行する宮之守の腕を掴み引き寄せた。


 直後、左側の壁を突き破って無数の棒状の何かが飛び出した。

 それは植物の槍だった。宮之守がさっきまで立っていた場所は槍で穿たれている。


 レデオンが破壊された扉を踏み越えて姿を現した。

「おしいな。女からやれそうだったのに」


「やらせるわけねぇだろうが」

 佐藤は首を回し、聖剣の切先をレデオンへ向けた。

「ここでぶち殺す」


「君は本当に口が悪いね。不死なのはレニュから聞いていると思うけど、何か秘策でもあるのかな?」


「叩き斬る。起き上がれなくなるまで。シンプルでいいだろ」

「歴戦の美すら感じる剣技。肉体に魔力を巡らせる卓越した素晴らしい技術。どうしてかな。知性の方を鍛える時間はなかったみたいだね。そんなのでよくここだと突き止めたね」


「うちには優秀な奴がいてね。ネット上の情報の動きを追って、不用な要素を排除して辿り着いたんだと。おまえはまんまとそこにひっかかたんだよ」

「……なるほど。次はもっと気をつけるよ」


 宮之守が魔力で剣を作り出して構えた。

「あなたに次はない。ここで終わりよ」

「そこの女には言ってないんだよ」


 レデオンは目の前の根を掴み取って折ると根は剣の形に姿を変えた。

「お話も飽きたね。そろそろ始めようか。銀の君もいないし、つまらない戦いになりそうだ」

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