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第34話 嫌なフラグ

 エルフ達と、それを出迎える首相達が互いに近づいていく様子を見ながら宮之守が口を開いた。

「服装も同じ、扱っている魔法も完全ではないですが似たようなもの。気になることは多いですが一応、向こうも世間の目は気にしてくれているようですね」

「あ? どういうことだ?」

 今まさに話していた護衛のことだと宮之守は言う。


「交差点での事件ではあの人形はあまりに注目を浴びていましたからね。人狼を千切っては投げ、千切っては投げ。あれの世間の第一印象は戦闘兵器。SNSなんかもそれ一色。そんなもの友好のための式典に持ってくれば、まぁ世間の反応は良くないでしょうね。だからああしているのは配慮だと思うの。仮に事件が起きなかったとしても巨大人形をこの場に出すようなことはしなかったはず」

「そう見せようとしているだけかもしんねぇぞ」


 宮之守は横目でチラリと佐藤を見上げた。

「疑念を持つのも大事ですが、疑いだしたらきりがない。今この場で私達に求められていることは何か、今はそれだけに集中して」

 佐藤は小さく舌打ちした。

「……わかったよ」

「でも目は光らせておいて」


 首相が近づくと宗主レニュは笑顔を見せた。花が咲くように明るく、同時に品格と気品あるものだ。

 首相が握手のため手を差し出す。

 同時にレニュは右の手のひらを広げて指をまっすぐとそろえて額に当てた。この動作はエルフ間でのあいさつに用いられる。


 ほんの一瞬の出来事であったが首相は開いたまま握られない握手をやめ、レニュと同じ動作を取った。エルフ側の一人、魔法通訳を担う者が歩み出てレニュへ耳打ちする。するとレニュは申し訳なさそうに笑い、こんどはレニュから手を差し出して握手をかわした。

 文化の違いによって生まれた双方の戸惑いと歩み寄りの姿勢は周囲に和やかな笑いを起こした。異世界同士の最初のあいさつはまずまずのようだ。


 和やかな様子を対策室の三人は首相の背後から見守っている。

 そしてほんのわずかだが、レニュの視線が佐藤へと向き。ほほ笑み、前を向いた。

「目があったような……」


 会話はエルフ側の魔法通訳者を挟んで進んでいき、一行はパレードのためオープンカーへと乗り込んでいった。

 車列が動き出し宮之守と佐藤はそのそばを歩いてついていく。少し離れた位置には小松の運転する移動指揮車。内部ではエリナが菓子を貪り、その横で西島が天井に設置された車載カメラでパレードの様子を配信している。


 エルフ側の護衛も一緒だ。

 護衛人形の動きは佐藤から見て違和感のあるものであっても一見してそれと見破ることば困難だ。この場で正体に気づいているのはいないだろう。

 しばらく進むと一般人の立ち入りが許可されたエリアとなって、規制線やガードレールを境として人で黒く塗りつぶされている。世紀の一大イベントを一目見ようとする人々でごった返し、左右の歩道は人で溢れんばかりだ。


 歩道から人々はエルフの姿を一目見ようと収めようと身を乗り出している。

 歓声がエルフ達を包み込み、エルフ達は歩道へ手を振って応え、上空をとんでいるヘリコプターがあれば、彼らは不思議そうに見上げていた。

 彼らにすれば何もかも新鮮なのだろう。ひそかにお忍びで来ていた時とはまた見える光景も違うはずだ。


「エルフからは俺らがどう見えるのかね。おかしな板を構える妙な民族とか?」

 佐藤が日本に帰って来た時、道行く人々が持つスマホが奇妙に思えたこと思い出した。


 パレードの車を挟んで佐藤の反対側を歩く宮之守が言った。

「耳が短いことに驚いているかも。あとは髪色が黒い人が多いこととかですかね? 樹上生活が主な方達だから全てが違って、新鮮でしょうね。あっちの世界の木はここの何倍も大きいという話ですから」

 技術、魔術交流においてエルフ側は欲しいものは自分たちで選ぶ。そう言っていたと佐藤は宮之守の言葉を思い出す。

 お忍びでの来日はウィンドウショッピングのつもりだったのか?


 裂け目のある広場より二キロほど離れたところに今回の一番の目的である友好祭の開場がある。そこに特別につくられたホテルがあり、二日過ごしてもらい、後に祭りを行うこととなっている。

「建物が見えてきた。何事もなく終わってくれそうで俺はほっとしてるよ」

「佐藤さん知ってます? そういうのフラグっていうんですよ」

「ハっ! そんなもんいちいちあってたまるかよ」

『宮之守、佐藤。ドラブル発生だ』

 宮之守は肩をすくめ、佐藤は人目もはばからず大きなため息をついた。

「ほらね」

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