翌朝浩二が目を覚ますと、その隣に恋人はいなかった。体を起こして周囲を見回してみると、仏間のふすまがあいている。
「若菜?」
声をかけて仏間に行くと、彼女は神妙な顔で仏壇に向かって手をあわせていた。
「どうしたんだ? こんなところで」
「うん……あらためてよろしくお願いします、って挨拶してたの」
「ふうん?」
恋人の行動は若干不思議だが、気にするほどでもない。浩二はなんとなく若菜の隣に座る。若菜は遺影の列の中、ちょうど中央に飾られたものを見上げた。そこには女傑を絵に描いたような老婆の姿が写っている。
「ねえ浩二さん、もしかしてあの中央の遺影の方がひいおばあちゃん?」
「え、よくわかったな。そうそう、あれが俺のひいばあちゃん。むちゃくちゃ気が強くて親戚の誰も逆らえなかったって」
「でしょうね……」
ふふふ、と恋人はおかしそうに笑っている。
「どうしたの、若菜。まるでひいばあちゃんに会ったことがあるみたいに」
「会ったかもしれないわ」
「え?! どういうこと?」
「内緒」
若菜はそう言って幸せそうに笑った。