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嫁検分
タカば
ホラー怪談
2024年08月01日
公開日
5,745文字
完結
ちょっと違った後味のホラーはいかがでしょう。

第1話

「若菜、ついたよ」

 浩二に声をかけられて、若菜は顔をあげた。同時に二人が乗っていたタクシーが減速する。車は一軒の家の前で停車した。

「さ、どうぞ」

 料金の支払いをすませると、二人は車から降りる。若菜は荷物を持ち直すと、目の前の家を見上げた。

 旧家というにはこぢんまりとしており、普通の一戸建てというには古めかしい。田舎町の古民家といった風情の建物だ。

 門柱の脇には『青柳』と浩二の姓が黒々と書かれている。

「ここが俺の育った家。見た目は古そうだけど、中はリフォームしてあるから快適だよ」

 浩二の説明を聞きながら、若菜は硬い表情で頷いた。

 今日、若菜は恋人の生まれた家に招かれていた。この家の中では彼の家族が若菜を待っているという。

 いわゆる、結婚前の顔合わせというものだ。

 若菜は緊張をほぐそうと大きく深呼吸する。

 結婚するからには家族のつきあいになる。彼のご両親にまず認めてもらわなければ。

「大丈夫だって。俺の家族はおおらかだからさ」

 そう言って浩二がほほえむ。若菜もなんとか笑顔を作って頷いた。

「じゃ、行くよ」

 浩二がインターフォンを押すと、ピンポンと音が鳴った。すぐ後にばたばたと何人かの足音がして玄関が開く。

「はい……おかえり」

 そこには品のよい老夫婦が立っていた。少し遅れて若菜と同世代くらいの女性が姿を現す。

「父さん、母さんただいま。彼女が前から言っていた江角若菜さん」

「はじめまして」

 玄関先で恋人の浩二に紹介されて、若菜は深く頭を下げた。

「……二年前からつきあってて……その、彼女と結婚したいと思ってる」

「そうか」

 父親が重々しく答える。おそるおそる顔をあげると、彼らはほっとしたような表情をうかべていた。

「初めまして、若菜さん。私が浩二の父親の弘明だ。こちらが妻の美佐枝。それから……」

 父親が振り向くと、後ろで立っていた女性がにこっと若菜に笑いかけた。

「浩二の姉の一美です。まあまあ玄関先でも何だし、上げってくださいな! とっておきのお菓子用意してるんですよ!」

「これ、一美」

 父親の言うべき言葉を奪った姉を母親がたしなめる。しかし彼女は気にしていないようだ。

「いいじゃないの、ねえ」

 一美の勢いに押されるようにして二人は家に上がった。

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