グラズ家が管理する魔法市場は城下町の端にあり、一大区画として栄えている。
グラズ家の屋敷もその区画にあるが、そこで手がかりを探すのは時間がかかるだろう。
そこで私が目を付けたのは、魔法市場に製造したアイテムを搬入する「グラズ魔法工場」の存在だった。
グラズ魔法工場は城下町の外に隣接する形で建造された巨大な建物だ。
専門スキルを持った人間たちが、日夜スキルを発動することで、生産や加工、もしくは製造機械の自動化などを行っている。
採掘された透明化鉱石が最初に運び込まれるとしたらここだ。
労働者たちが誤って触ってしまった場合の解除策などがあってもおかしくない。
私は足音を消して、魔法工場に忍び込む。
潜入は驚くほど簡単に成功した。
考えてみれば当然だろう。私の姿は見えないのだから。
すぐ真横を労働者が通りすぎていく。だが、私はその場でただ棒立ちしていても、気づかれない。
扉の開け閉めなど、他の物体に干渉するときだけ気をつければよかった。
実際に生で見る魔法工場の光景は圧巻だった。
大量の専門職の人間が、普段私たち冒険者が使用するような魔法照明をはじめとする、冒険必需品を作っている。
こういう人たちに支えられているということを実感する一方で、彼らはグラズ家の本性を知らないのだろうと私は思う。
その理由は、草原のダンジョンで会った男たちが来ていたような高度な魔法鎧や、透明化鉱石など、表に出てはまずいものが、メインの作業場には一切見当たらなかったからだ。
たぶん、危険なものは工場内の別の場所で扱っている。
一部の人間だけが入れる秘密の場所がどこかにあるはずだ。
私は働いている人々の間をすり抜け、どんどん遠くへ進む。
すると、何重にも施錠された厚い鉄の扉が工場の奥にあった。
労働者たちは誰もここに近づこうとしない。明らかに雰囲気が違った。
「探してる場所は、きっとこの先ね」
鉄の扉は幸い、人目を気にしているかのように奥まった場所にあるので、開けても問題ないだろう。
私はスキル『施錠解除』を発動し、一瞬にして全ての鍵を開けた。
「透明化も、スキルで解決する問題なら楽だったんだけどね」
そうため息を吐きつつ、私は鉄の扉を押し開けた。