市場の見回りをしていた冒険者たちは、グラズ家の魔法アイテム市場を見にいってから消息を絶っている……。
グラズ家が透明化鉱石の採掘を行っていたことと関係があるだろうか。
「冒険者たちがいなくなった日にちを教えてもらってもいいですか?」
受付のお姉さんは何か考えているような表情でリンに聞いた。
「えっと、それは確か……」
リンが日付を伝えると、お姉さんの目つきが鋭くなった。
「ちょうどその日から、いくつかの店が荒らされる事件が発生してますね」
「その事件なら、私の方にも報告が来ています。でも、金品が目当てではなさそうなんですよね」
「立て続けに城下町で事件……でも、その二つの事件に関連性は今のところない、か……」
受付のお姉さんはうーん、と悩む。
だが、私の中にはある仮説が出来上がっていた。
冒険者たちは姿を消した日、グラズ家の魔法アイテム市場に足を運んでいた。
そこで採掘された透明化鉱石に何らかの形で接触。
姿を消されてしまった彼らは混乱し、自分の存在を示すため、もしくは姿が消されたことで買うことができない食べ物などを手に入れるために、仕方なく店を荒らした。
そんなところだろう。
彼らの存在は数日経過したことで消えてしまったかもしれない。
私もどうにか手を打たないとまずいだろう。
とにかく、まずは目の前のリンとお姉さんに透明化鉱石のことを教えなければならない。
私は何かいい方法がないか考えて、一つの案を思いつく。
私はかなり緊張していた。
なぜならリンと受付のお姉さん、二人の前で赤フードを脱いだからだ。
透明になっているとわかってはいても、かなりの緊張感がある。
突然、透明化が解除されたりしないでよ……! と、本末転倒なことを思いつつ、私は机に近づいた。
そして、手に持っていた赤フードを机の上に置く。
私が身に付けている物は一緒に透明化することがすでにわかっている。
だが、それは物を身につけている間だけだと、私は推測していた。
直接透明化の効果が発生しているのは、あくまで私単体だからだ。
赤フードから手を離せば、おそらくーー。
「え!?」
「な、なんですか、これ?」
私の予想の通りだ。
受付のお姉さんとリンには、いきなり赤フードが机の上に現れたように見えたらしく、とても驚いた様子だった。
特にお姉さんの反応はリンよりも大きい。
リンは直接、赤フードの冒険者としての私と会ったことはない。
だが、お姉さんにとっては見慣れたものだ。
「なぜ、赤フードさんのものが……?」
次に、私は赤フードを再び手に取ってみせた。
すると。
「き、消えた!?」
またも驚く二人。
手品でも見ているような反応だが、実際に彼女たちの目にはあり得ない現象として映っているだろう。
それから、私は二人をなるべく怖がらせないように、ゆっくりと肩を叩いた。
「!?」
「!?」
私は今、声を出せない状態だ。
これでどうにか、私がここにいるということに気づいてもらうしかない。
透明化鉱石に付与された、グラズ家の口封じの魔法はかなり手が込んでいる。
おそらく文字を書くなどの直接的な意志疎通の手段も魔法で封じられているはずだ。
「な、なんだったんでしょう、今の……」
リンは戸惑った様子だ。
「今の赤フード……持っている人に心当たりが……でも今、赤フードさんは街道沿いのモンスター討伐に行っているはず……だけど、誰かに肩を叩かれた……?」
受付のお姉さんは真剣な表情で状況を把握しようとしている。
ギルドの職員として色々な依頼を見てきたため、奇妙な現象にも慣れているのかもしれない。
「赤フードさん……そこにいたりしないですよね?」
そして、お姉さんは正解に辿り着いた。
私はダメ押しで懐から取り出したものを机に置く。
それは今日の依頼に出る前、冒険者ギルドから受け取った後払いの報酬ーーつまり、お姉さんの大好きな金貨がたっぷり入った袋だった。