透明になった私が城下町の実家、エルバルク家の屋敷に戻ってきた時、門の辺りでとぼとぼと敷地から出てくるリンと会った。
いや、正確には私が一方的に見かけただけだ。私の身体は今、透明になっているのだから。
「……はぁ、キリナは留守かぁ。町の事件のこと、相談したかったんだけどな」
冒険者モードの時、赤フード、赤フードと呼ばれているが、私の本名はキリナ・エルバルクである。一応の補足……!
リンはこの前のお茶会の時からどうにも元気がなかった。町の事件……それが悩みの原因だろうか。
町の事件と言われて連想するのは、店の荒らし事件だ。
リンの家は民衆市場の管理を行っているので、その関係で事件にも巻き込まれているのかもしれない。
もしかしたら、何か手がかりになるかも。
私はリンのあとをついていくことにした。
実家に戻ってきたのはあくまで態勢を整えるためだったので、手がかりが見つかった今、屋敷の中に戻る必要はない。
だが、こう……親友とはいえ、女の子のあとをこそこそつけていくのはなんだか背徳感がある。
リンは誰もいないことをいいことに、無防備にあくびをしたり、うんと伸びをしたりしていて、とても可愛らしいが、見てはいけないものを見ている感じがした。
リンが向かった先は意外にも、私がよく知っている場所だった。
冒険者ギルドだ。こんなところに、リンはいったい何の用だろうか?
「こんにちは。ご連絡いただいていたリン・アルトバルトさまですね。少し約束の時間より早いようですが……」
そうやって応対したのは、馴染みの受付のお姉さんだ。
いつもの、金とダル絡みの気配など微塵も出さず、礼儀正しく貴族のご令嬢を迎えている。
今度、私も令嬢モードで来てやろうか……と思う。そのためにも、透明化の解除は必須だ。
「前の用事が早く終わってしまって……よろしければ、時間までここで待たせてもらえますか?」
おそらく、前の用事とは私に何かを相談することだったのだろう。外に出ててごめん、と心の中で思う。
「いえいえ! リンさまを待たせるなんてそんな恐れ多い! 奥の部屋へどうぞ、私が対応させていただきます!」
権力に屈した笑顔で、案内するお姉さん。人間味があって好きです。
しかし、奥の部屋に通されるのは、かなり機密度の高い話をする場合だ。
やはり、リンは何かに巻き込まれている?
私は透明化していることをいいことに、奥の部屋までするっとついていくのだった。