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第40話 ダンジョンの奥

 ダンジョンの中は通路がかなり複雑に入り組んでおり、入った冒険者を迷わせる作りになっていた。


 しかし、方向感覚を失わないように注意すると、今度はモンスターへの警戒が薄くなり、突然現れた動く骸骨に危うく不意打ちを食らうところだった。


 やはりダンジョンは慣れない。


 これがパーティーであれば、色々な担当に分かれることで、もっとスムーズに攻略できるはずだ。


 だが、これでも楽な方だということはわかっている。


 このダンジョンは冒険者たちが頻繁に出入りしている形跡があるし、街道からそこまで離れたところにあるわけでもない。


 このダンジョンはすでに発見済みで、定期的に冒険者たちがモンスター狩りを行っているんだろう。


 そのおかげで、私は一人でもどうにか進むことができた。


 ダンジョンに日頃から潜っていれば、もっと楽に攻略できるスキルを大量に覚えることができると思うのだが、今は使えるスキルがあまりない。


 今度、どこかのパーティーに入れてもらって、ダンジョン系スキルを一気に取得するのもいいかもしれない。




 そんなこんなで、私はダンジョンの奥の方までたどり着いた。『痕跡探知』でモンスターの足跡を追ってきたものの、ダンジョンに入ってから消えかかっている痕跡が多く、少し手間取ってしまった。


 だが、ここが目的地だ。


「これは……普通じゃわからない」


 私が立ち止まったのは、通路の突き当たりで、一見何もなく見えた。


 だが、そこには確かにがあった。


 ーー私が見つけたそれは、かなり危険なもの。


 ダンジョンの奥に溜まった魔力によって変異した鉱石だった。


 鉱石自体は目視することができる。


 普通に見ればただの鉱石で、何も問題はないように思えた。


 しかし、よく観察するとその危険性がわかる。


 鉱石に接した壁や床、その全てが透明になっていて、その奥が透けて見えていた。


「接触すると透明にさせられる鉱石……」


 ここで重要なのは、透明になれる鉱石ではなく、透明にさせられる鉱石であるという部分だ。


 今、目の前の鉱石には「触れた物体を透明にする」魔法が発動しているようなものだと考えるべきだ。


 そして、私はかけられた魔法を解除するスキルを持っていない。


 うかつに触れれば、一生姿が透明になった状態で暮らさなければならないかもしれないのだ。


 もちろんしばらくすれば、元に戻る可能性もある。だが、あまりに不確定要素が多すぎて、触るわけにはいかなかった。


 自分で姿を消せるのと、姿が消されるのは、大分意味合いが変わる。


 誰にも認識されない存在になるのは、苦痛を通り越して、正常な精神を保って生き続けられるかさえ怪しい。


 草原で戦った透明モンスターは自分が透明になっていたことに気づいていたかどうかわからないが、モンスターの場合は獲物もとりやすくなるし、まだいいかもしれない。


 しかし、人間はコミュニケーションを取らなければ生きていくことは難しい。食材の調達ひとつ、店でできなくなるのだから。


「…………店?」


 私は嫌な予感に包まれた。


 どこかでそんな話を聞いた。


 店が荒らされたという話。気づかないうちに荒らされていたケースや、夜中を狙ったケースがあったらしい。


私はその事件を、単なる商売敵による嫌がらせだと思った。


 しかし、それがもし店への嫌がらせではなく、自分が生きるために、仕方なくやっていたことだとしたら?


「この鉱石、思った以上に被害を生んでいる可能性がある……!」


 何かのスキルで遠距離から破壊するべきだ。


 そう思った時。


「あーあ。また冒険者が見つけちまったか」


 知らない声がした。

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