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第32話 山脈の上空で

「す、すごいですわ……っ!!」


 アルメダの歓喜の声が背後から聞こえてくる。


 それもそうだろう。こんな経験、なかなかできることではない。


 私とアルメダは今、ビッグの背に乗って空を飛んでいた。


 ビッグにかけた『風圧無効』のおかげで、空気抵抗系のパッシブスキルを持たないアルメダも、振り落とされる心配はなく、快適に過ごせているようだ。


 もちろん、ただ遊ぶために空へ飛び上がったわけじゃない。


 ランガ山脈は剥き出しの岩地が多い場所だ。


 上空から探せば、逃げた使用人を見つけることは容易。


 ということで、ビッグの背に乗せてもらったわけである。


「キュウッ!」


 意外と可愛い鳴き声でビッグは鳴く。


『服従』のスキルを使ってはいるが、全ての指示はお願いという形で行っているので、あまり身体に強制的な負担をかけずに済んでいるはずだ。


 久しぶりに自由に動けて、ビッグは楽しそうだった。


「ーー見つけた」


 しばらく上空を飛んでいると、地上を必死に駆けていく人間を一人見つけた。


 もちろん、あの使用人だ。


「まさか身内に敵がいるなんて思いもしませんでしたわ……」


「スキル研究所の時も、身内の人間が関わっていた。貴族の家は狙われやすいのかな」


 私の家にも、実は敵がいたりして……と思うが、幸いなことに全員が小さい頃からの信頼できる人間だ。


 新しい人間が雇われた時は気をつけよう……。


 そう思いながら、私はビッグに指示を出す。


「あいつを捕まえて、空に持ち上げてやりましょう。巨大な鳥に襲われる恐怖を自分の身で感じて、反省してもらわないとね」


「キュウッ!」


 ビッグは急降下を始め、あっという間に逃げる使用人の背中を捉えた。


「う、うわぁぁぁぁっ!! なぜ、こんなことに!!」


 叫びながら逃げていく使用人。私は答える。



「そりゃ、あなたが悪いことをしたからでしょ」



 そして、ビッグは両足で使用人の身体をわしつかみにすると、そのまま上空へと急上昇した。


「落ちる! 落ちるぅ!!!」


「暴れると本当に落ちるからね」


 そうして使用人をつかんだまま、数分間の飛行は続き、地上に戻った時には、使用人は放心状態になっていた。


 巨大な鳥に襲われるということがどれだけ怖いことか、身を持って理解したようだ。

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