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第26話 事件のからくり

 ランガ山道の入口でアルメダと会った時、私は冷たい視線を感じていた。


 あの場には、私の他にアルメダと使用人しかおらず、必然的にその冷たい視線は使用人のものだとわかった。


 最初は自分の仕える家のご令嬢が、謎の冒険者と話しているため、警戒しているのかと思った。


 だが違和感を覚えたのは、『敵意把握』を使っても、使用人に何も反応がなかったことだった。


 私自身が気づくほどの冷たい視線。そこに全く敵意が含まれていないことなどあり得ない。


 考えられるパターンは二つ。


 一つ目は、使用人が敵意を抱かないように特別な訓練を受けた人間である可能性だ。


 この世界に『敵意把握』というスキルがあることは知られている。


 そのため、一部の特殊軍人などは、敵意を抱かず、相手を殺す技術を会得していることがあった。


 人間離れしているが、全くできない話ではない。


 現に、私に向けられた視線はあくまで冷たいものであって、殺意が込められたものではなかったのだから。


 二つ目は、こちらのスキルを妨害するカウンタースキルが発動されている可能性だった。


 これも『敵意把握』がメジャーなだけあり、習得している人間はいる。


 問題なのは、どちらのパターンでも、アルメダの使用人がただの付き人ではないことだった。


 護衛を兼ねて、戦える人間が派遣された……と思いたかったが、結局のところ、私のその希望は砕かれ、目の前には、さっきまで味方に扮していた敵がいる。


「ヤーク家に潜り込んだ犯罪集団。それが今回の事件の黒幕だと思ってるんだけど、どう?」


「果たして、あなたに答える義理がありますかな?」


「あなたは『服従』を使って、この化け物鳥を自分の手駒にした。可哀想に。今までは長い間、山道に被害が出ていなかったことを考えると、本当はこの山に住んでいただけの無害なモンスターだったんでしょうね」


「ふむ……」


「とにかく、あなた一人じゃ犯行は難しい。襲撃した荷馬車から商品や金品を回収する役目を持った人間たちがいる」


 これも『痕跡探知』で確認済みだ。


 ランガ山道中に不審な動きをしている複数の足跡があった。


「あなたが毎回ヤーク家を抜け出して、荷物の回収に向かうのも現実的じゃないからね。たぶん、あなたはヤーク家の商人がいつこの場所を通るのかの情報を手に入れて、ヤーク家の商人だけを徹底的に狙うことにした。これはおそらく……商売敵の仕業に見せかけるためでしょう」


 化け物鳥に『強制帰還』をかけられる可能性はさすがに考えていなかったのだろう。


『強制帰還』をかけるには、化け物鳥に飛び乗り、振り落とされず、至近距離からスキルを使う必要がある。難度は高い。


 だが、スキルさえ発動できれば、化け物鳥を服従されている事実は、これ以上ない犯行の証拠となる。


「観念しなさい。もうあなたは終わりよ」


 私はそう告げる。


 が、そう簡単にいかないこともなんとなくはわかっていた。

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