この世界の対人戦はスキルが全てである。
圧倒的な身体能力の差も、スキル一つで簡単に覆せるからだ。
そして、長期戦にもなりにくい。
なぜならスキル枠に限りがある=自分の中で自信のあるスキルしか入れておらず、それらが通用しなければ勝利のしようがないからだ。
長期戦になる場合はお互いのスキルが拮抗している場合のみで、実際はあまりないケースだ。
警備長はエルスに取り入って、犯行を容易に行おうとしたクズ男だが、それでもエルスの目の前で斬り捨てることには抵抗があった。
だったら、相手に諦めてもらえばいい。
勝てないとわからせれば、戦わなくても良いのだ。
だから、私は『暗黒裂傷』のスキルを受けることにした。
私は多数の回復系パッシブスキルを同時に発動させているので『暗黒裂傷』はほとんどの確率で効かないだろう。
たとえば『自然治癒X』、『敵性効果打ち消し』、『特殊攻撃耐性Ⅹ』などこの辺りのスキルが効果を発揮してくれるだろう。
「うぁぁぁぁぁっ!!!」
警備長が斬りかかってくる。
「きゃぁぁぁぁ!!」
エルスの叫び。だが、私は避けない。
そして、私の身体を黒い刃が襲う。
だが。
警備長の剣は私の肉を裂くことなく、キンッ! という高い音と共に弾かれた。
「……呆れた。そもそも、小さな裂傷一つ作れないなんて」
「な、な、何が……?」
警備長は混乱した様子だ。
「兄貴! 攻撃を外したんですか!?」
「ち、違う!! 絶対に俺は赤フードを斬った!!」
エルスは不思議そうに私をぽうっと見ていた。
回復とか以前の問題だった。
単純な『物理攻撃防御Ⅹ』が警備長の剣を弾き返したのだ。
警備長からしてみれば、金属でも叩いた感触がしたに違いない。
「でも、ま、これでいいや。ありがとう、警備長。私、実は『暗黒裂傷』のスキル持ってなかったんだ」
「何を言って……!?」
形式的には『暗黒裂傷』の攻撃を受けたことで、スキルの構造が経験として私の身体に刻まれた。
脳内にスキルリストが現れ、テキストが表示される。
【新スキル適正獲得ーー『暗黒裂傷Ⅹ』】
私は迷わず取得する。すると、取得済みリストの中に初めから限界突破された『暗黒裂傷』が追加された。
「本当の『暗黒裂傷』を見せてあげる」
私は不敵に笑い、警備長の表情が凍りついた。