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第8話 最強の赤フード、その所以。

 三体の紫獣人が牙を向いて、私を威嚇する。


 だが、そんなもので怯える時期はとうの昔に過ぎた。


 私は素早く相手のレベルをチェックする。


 左からLV50,LV55,LV58……アルレアが相手をしている個体よりもさらに強かった。


 どうやらこちらが本命らしい。


 人間にはレベルの概念は存在しないが、王国騎士たちが対処できるモンスターのレベルはLV50が限界だと言われている。


 集団で戦って、ようやく倒せるという意味なので、その点では一人でLV40と渡り合うアルレアは間違いなく強い。


 けれどこの数と強さは手に負えないだろう。


 ーーだから、私が働く番だ。


 私は戦闘を開始した。


 スキル『背後奪取』を発動。次の瞬間には、LV50の紫獣人の背後に瞬間的に移動していた。


 短距離の空間跳躍を可能にするスキルだ。


 そのままスキル技『獣殺し《ビーストスレイヤー》』を発動し、背中を大きく斬りつけた。


「ウガァァァァ!!??」


 紫獣人の絶叫。私がつけた切り傷は自然に発火し、獣人の身体を焼いていく。


 その動揺と混乱の隙にとどめをさした。


 獣系にだけ効くスキル技だが、限定的すぎて、採用している冒険者は見たことがない。


 しかし使ってみれば、ちゃんとした効果を発揮してくれる良いスキルだ。


 残りの紫獣人二体がタイミングを合わせて襲ってくる。が、二体とも私が触れる前に攻撃が止まった。


 魔法スキル『透明障壁』は、私の周りに見えない壁を一定時間作る。


 私はゆっくりと近づいていって、紫獣人たちを見つめる。紫獣人たちは本能的に恐怖を顔に浮かべていたけれど、ここで見逃してあげることはできない。


 スキル『次斬撃威力10倍』を発動。発動後、最初の斬撃の威力を10倍にする効果だ。


 私は剣を強く握り、横に一閃。


 二体を同時に斬り倒す。


 そうして、三体の紫獣人は一瞬のうちに片付いた。


 ◇◇◇


 本気の戦闘を行ったのでわかったと思うのだが、実はスキルにも種類がある。


 パラメーター向上系のスキル。


 特定の現象を起こすスキル。


 特別な攻撃を行うスキル技。


 相手に干渉する魔法スキル。


 これら全てがスキルである。

 正直、五枠だけだと本当に足らない。


 そのため『騎士剣の奇跡』のような、ある意味お得なスキル盛り合わせみたいなレアスキルがとても重宝されるのだ。


『騎士剣の奇跡』でパラメーター系が賄えると、他の四枠はスキル技などに使える。


 だけど、『幻惑防御Ⅱ』のようなスキルを入れているということは、アルレアは『騎士剣の奇跡』以外の適正スキル数には恵まれていないのかもしれない。


 私が二体の紫獣人を倒して振り向くと、ちょうどアルレアも敵を倒し終わったようで、少し苦い表情で笑ってみせた。


「本当に強いんだな、少し半信半疑だったんだけど」


「私が強いのは、ただ運が良かったから。感心するようなことじゃない」


 アルレアにはもう女とバレているので、一人称は普通に「私」を使うことにした。


「運、か」


 一緒に戦ってみてわかった。


 アルレアは努力の人だ。『騎士剣の奇跡』というレアスキルには恵まれたものの、それに驕らず、自らを強く鍛えているからこそ、パラメーター向上の効果を生かせている。


 私はそんな努力をしてきたわけではない。ただ運が良かったから。他の人にはないスキルを手に入れたから強くなっただけだ。


 そんな風に少し自虐してみたところで。


「そんなことはないと思うけど、たとえ本当に君が運だけで強くなったのだとしても」


 アルレアは私の目を見て続ける。


「その力を人助けのために使おうと考え、行動に移している時点で、やっぱり君は強い人だよ」


 今までそんな風に考えたことはなかった。


 努力をして強くなった人に対して、私は少し罪悪感を覚えていたのかもしれない。


 だが、そうやって笑いかけてくれるアルレアを見て、私はこれからも胸を張って冒険者をやっていける気がした。

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