私の家、エルバルク家は元々、偉大な英雄の家系だと言われている。とはいえ、それは何百年も昔の話で、どこまで本当かはわからない。
だが、エルバルク家の次期当主に語り継ぐことが絶対となっている、その先祖の英雄の伝承の中に出てくるのが『スキル枠無限』のスキルだった。
昔、スキルについての一般常識を教えてくれた家庭教師の学者に質問をしたことがある。
『スキル枠無限』というスキルは実際に存在するのかと。
しかし、スキル学者の回答は『スキル枠無限』というスキルは、エルバルク家の伝承以外では、王国中を探しても、名前さえ発見することはできず、実在はしないかもしれないというものだった。
……その時には、すでに私は『スキル枠無限』を習得していたのだけれど。
適正のあるスキル、また習得したスキル一覧はすべての人間が使用可能な「スキル確認」の魔法を使うことで、脳内に直接羅列される。
通常は適正のあるスキルから、五つまでを習得するのだがーー私はその制限にとらわれなかった。
五つまでしかスキルを習得できないとなると、どうしても汎用性の高いものを選びがちになる。
『筋力向上Ⅴ』と『植物鑑定Ⅰ』のどちらを選ぶかと言ったら、普通は『筋力向上V』だろう。
戦闘をするつもりはなくても、日々の生活で重いものを持ったりと非常に役に立つ。
逆に『植物鑑定Ⅰ』程度なら、植物図鑑で調べても同じ結果が得られるので、わざわざスキルとして取得する意味がない。
だが、私はそういったスキルの取捨選択を行わなくてよいため、強いスキル、弱いスキルの全てを取得していった。
するとそれがきっかけとなり、ある時、さらなるレアスキルの適正が出たのだ。
それは『スキル取得難度低下』。
脳内に浮かぶ説明では、大量のスキルを取得した経験によって、新たなスキルの適正が解禁されやすくなるとあった。
ということで、スキル枠が無限・どんどんスキルを覚えられる・そのおかげで新しいスキルを覚えやすくなる、というサイクルを経た結果、私はいつのまにか城下町最強の冒険者になっていた。
「そろそろ敵が近い。気をつけて」
私はアルレアに忠告して、あらかじめ剣を抜く。
「君の本気の戦いが見られるのが楽しみだよ」
アルレアはそう言って笑った。
スキル『敵意把握』は発動すると、近くの対象の敵意の強さによって、視覚に赤いもやのようなものが見えるようになる。
その色の濃淡で、対象が少し苛立っているのか、それとも殺意を抱いているのか、という敵意の強さが把握できる仕組みだ。
今のような状況だと、対象を周辺モンスターに設定して発動すると、探知範囲内の様々なモンスターの輪郭が壁越しでも赤く浮かび上がる。
そして、この先の洞窟最深部の一際大きな輪郭は、他のモンスターと違って、ほとんど黒に近いほど赤色が濃かった。
非常に強烈な殺意だ。
「よし、僕が先行する! 君は援護を頼む!」
そう言って、アルレアは敵の前に飛び出した。
普通の冒険者だったら、絶対に引き止めている場面だが、アルレアは王国騎士団の団長だ。
その実力を間近で見てみたくないと言えば嘘になる。
私はすぐに助けられる状態を維持しつつ、彼の後についていった。
「ウガァァァァァ!!!」
ようやく今日の獲物とのご対面だ。
二メートルほどの大柄な影。それは二本足で立つオオカミ系統の獣人だった。
目つきは鋭く、何かの血を滴らせた牙を持ち、よだれを垂らしている。
この国では、獣人はモンスターとして扱われている。理性がなく、見境なく人間を襲うからだ。
その獣人は一般的な毛色ではなく、全身の毛が紫色に染まっていた。
これは魔力汚染の証だ。洞窟のどこかに溜まっていた大量の魔力を浴びたせいで、非常に強力な力を得たのだろう。
だが、その代わりに身体が紫色に変異し、目に入ったものを手当たり次第攻撃するようになる。
それが魔力汚染の特徴だった。
この洞窟には、洞窟オオカミが生息していたので、元はその中の一匹だったのではないかと思う。
「これは……ひどいな。レベルは40。洞窟のモンスターを狩り尽くして、外に出てくるのは時間の問題だ」
アルレアは苦い顔をした。
私が紫獣人の足元に目をやると、いくつものモンスターの死体が転がっていた。
「大丈夫? 一人でやれるの?」
思わず私は訊ねる。
しかし、アルレアに恐怖した様子はなかった。
「問題ない。始めるよーー目覚めよ、守護の剣。スキル『騎士剣の奇跡』!!」
アルレアがそう叫ぶと、彼の握った剣が黄金に輝き出す。
これは王国の中では、かなり有名なスキルだ。
適正者が少ないレアスキル。しかし、歴代の騎士団長は全員が持っていたとされている。
スキル『騎士剣の奇跡』の内容は、実は分解して考えると、一時的に『筋力向上Ⅴ』、『俊敏性向上Ⅴ』、『防御向上Ⅴ』、『魔法耐性Ⅴ』、『剣技威力向上Ⅴ』を付与するものとなっている。
一つのスキルで、パラメーター向上スキル五つ分の効果を発揮する。
これは一般の騎士からしたら、反則級の強さだろう。