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第一話 演目 身の丈を警告する神らしい

 鶴雅つるみやびの転移魔法で場所を移動した縁達、着いた場所は森の中で目の前にはツリーハウスがあった。


「のどかな所だね~」

「ここは鳥に属する神達の隠居している場所だ、隠居とは名ばかりの神が多いが」

「ほほう」

「……ここにおばあちゃんが居る」


 ツリーハウスへと続く階段を登っていくと、老いた女性が鉢植えに入っている植物の世話をしていた。


「……誰かと思ったら縁かい? 孫と一緒に来るとはね」

諭鶴羽ゆずるはおばあちゃん」

「鶴雅、私の為に色々と無茶したようだね、本来は止めるべきなんだろうが……私も歳だ、この場所から長時間離れられない、この植物達に囲まれてないとダメなんじゃよ」


 諭鶴羽は鉢植えを指差す、様々な種類の花が綺麗に咲いていた。

 縁達は植物を見るが、どう見ても普通の花にしか見えない。

 かと言って説明をされても、そうなのかと納得するしかないだろう。


「さて客人にお茶の一つでも出さないとね」


 ツリーハウスの中へと入り、諭鶴羽は椅子に座る様に促した。

 室内は当たり前だが木の香りが漂い日当たりがいい、自然を満喫出来る作りである。

 茶菓子を用意して戻ってきた諭鶴羽に対して、最初に口を開いたのは鶴雅だった。


「……ごめんなさい……おばあちゃん、私……」

「鶴雅、おばあちゃんとしては起こらないといけないんだけど……黒羽鶴くろばつるの一族としては褒めなきゃいけない」

「え?」

「黒羽鶴の一族は罪を感じたら自身の羽は黒くなる」

「……それは悪い事をしたから」

「うむ、ただの悪い事ならそうだね」

「どういう事?」

「その昔、初代諭鶴羽が神の戦場を駆け巡った時代、自分の気持ちを背に乗せていた上位の神に言った」

「何ていったの?」

「『敵とはいえ相手の事を考えると心が痛む』とね、それを聞いた他の神は笑ったんだ……可笑しいだの色々とね、だけど上位の神様は『心を修羅にして敵を殺す、その様な者達は私の配下にはいらん鶴だけで十分だ』とね」

「つまり……武士道とか騎士道みたいな精神って事?」

「簡単に言えばそうだね、敵でも相手を重んじる心を忘れるなという事さ、ほれ」


 諭鶴羽はテーブルに黒い羽を2枚置いた、一つは薄汚い黒い羽、もう一つは黒でも輝いて美しい羽だ。


「これは悪事だけを働いた諭鶴羽の一族と、悪と知り心を痛めた者の翼だ」

「おお! 鶴ちゃんもキラキラな羽じゃん?」


 結びが鶴雅の翼と綺麗な羽を交互に見る、多少の違いはあれど美しい黒には変わりない。


「……でも悪い事には変わりない」

「うむ難しい話じゃ、今回で言えば私の為に翼を黒くしたのじゃろ?」

「そうだよ! おばあちゃんを傷付けた奴は許せない!」

「……縁とあったのは運命かもしれないの、身を亡ぼす選択をしている者の前に表れる最後の使者だ」

「え!? 縁君てそんな神だったの? こう……駆け込み寺みたいな?」

「……いや自覚は無い、諭鶴羽様、どこの誰が――」

「孫の破滅を止めてくれたじゃろ? この私が言っている」

「えぇ……俺は良き縁を守るだけですよ」

「ふん、神とは他者が勝手に解釈するもんじゃろ? ワシとて神の乗り物にすぎないらしいぞ? 人間の文献ではな」

「んなバカな、昔俺と戦った時だっ――」

「他人の評価なんてそんなもんじゃよ」

「……」


 縁が様を付ける神様、つまりは彼よりも上位の神様で間違いない。

 評価とは結局は他人がするもの、その行動に対して他者が何かを言う。

 二つ名を勝手に付けられる冒険者の様に、神様なら尚更だろう。


「ん? 気になったんだけどさ? 衰えたといっても諭鶴羽さん強いよね? 襲撃者のあの2人は簡単に追い払えると思うんだけど?」

「ああ、あんな怯えてやりたくない事をしている奴を撃退なんて……あたしゃ出来ないね、それに手加減が出来なくなってきてね」

「なるほど、本人の選択に他人がとやかく言うもんじゃないね」

「だが……結果として孫を苦しめる結果になってしまった」


 諭鶴羽は自分の行動で孫に無理をさせて心苦しい様だ。

 だがそれは一度心の隅に置いておく様にため息をする。  


「して……縁は何をしに来たんだい?」

「お孫さんに貴女の羽を治すと約束した、縁の神としてそれを叶えたい」

「そうか……鶴雅、今後お前が復讐しようがそれは自由だ、ただ自分を苦しめる選択肢だけは止めておくれ」

「……おばあちゃん」

「あのさ、今更だけど鶴ちゃんのご両親は?」

「ああ、神々の戦いで死んでしまったよ、産まれたこの子を残してね」

「ごめんなさい」

「この子にまで死なれてしまったら……あたしゃ生きていけないよ、嫁に諭鶴羽の名を託したのに」

「……」


 結びは縁の袖を引っ張ってひそひそ話をしだした。


「縁君、神様って基本的に死なないんじゃ?」

「ご両親を崇める人達が少なかったか、ほぼ居なかったと考えるのが自然かな、神社があっても世代交代すると信仰心が薄れるってのもあるし」

「そうか、死を回復出来る信仰心が無かったと、そして代が変わるなら信仰止める人も出てくると」

「ああ」

「で、この状況をどうするのさ」

「簡単だ」

「お、見せてもらおうか」

「諭鶴羽様」


 縁はいつも以上に真面目な表情をしている、それは誰かを助ける時にする目だった。


「良き縁を守る為に、我が神社の敷地に諭鶴羽の名の末社を建てましょう」

「は!? いやいや社ってそんなポンと建てれんの!?」

「俺は半分人間だ、社は人の世の者が建てる」

「いやそうなんだが……え? 縁……様は半分人間でその信仰心?」

「おやおや縁の神は唐突な提案をするねぇ」

「諭鶴羽様は孫を死なせたくない、だったら社を建てたらいい、そして鶴雅が諭鶴羽の名を継げるように力を付ければ解決だ」

「相変わらず力技だねぇ、札束で殴りに来たよ」


 諭鶴羽はイッヒッヒと悪い声で笑った。

 相変わらずという事は、縁が昔そういう行動をしたということだろう。

 縁は一瞬固まったが話を続けた。


「……ただ煙月けむりづき鹿雲しかぐもは神社の従業員として雇う約束をした、お前達のゴタゴタはお前達で解決しろ」

「ここは……私が我慢すればいいんだね? ここで私が我慢すれば、私の社が手に入り、おばあちゃんの羽を治せて……くそ! ムカつくけど復讐しない方が――」

「いや、復讐を辞めろとは言っ――」

「そんなのに使うならおばあちゃんの看病するよ」


 鶴雅は力強くそう言った、悪い信仰心が無くなった影響からか急にいい子ちゃんに見える。

 これは比較的若い神に見られる、いや人間も同じであろう。

 悪い人間と付き合うと悪い人間になるのと同じ事だ。


「ふふふ、あの殺意しかなかった小僧が……今はちゃんと縁の神をしているとはね」

「いえ、俺が変われたのは恩人のおかげと妻となる人に恥をかかせない為です」

「風の噂に聞いてたが、何処でも惚気やがるね」

「まあそれは置いといて、諭鶴羽のおばあちゃん」

「なんだね? 界牙流のお嬢さん」

「ここの植物の空気? でおばあちゃんの体調を維持しているの?」

「簡単に言えばそうだね」


 室内にも表に置いてあった植物が置いてある、種類も数もこちらの方が多い。 

 結びは室内ある植物を見て回って、しばらくしたら戻ってきた。


「なるほど……諭鶴羽のおばあちゃんは鶴ちゃんとお出掛けとかしたい?」

「ん? ああ……出来るならやっとるよ」

「もしかしたらおじいちゃん達なら何とか出来るかも?」

「シラルドさんとホルスタさんか、確かにあの2人ならどうにかなりそうだな」


 結びの祖父のシラルド、愛を動力にする理論を考えて空飛ぶ船を作った。

 その親友のホルスタ、訳あって自分の妻を高性能のサイボーグに人格を移す。

 この2人が居ればこの場所から離れられない、そんな神の悩みも解決してしまいそうだ。


「よし! 善は急げ、無理な事と出来る事はしっかりとしよう! ついでにアフロ先生も連れてくる、怪我を治すんでしょ?」

「ああ、頼めるか?」

「よっしゃ!」

「慌ただしいお嬢さんだねぇ」

「思い立ったら直ぐに行動する人なので」

「んじゃ行ってくる!」


 結びはその風を残してその場から消えた。

 3人は結びが帰って来るまで談笑する事にした。

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