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第一話 演目 何度でも自身の名に誓う

 鶴雅つるみやびはずっと悩んだ顔をしている。

 この神を信じていいのか? 今までも甘い言葉を行ってくる奴らは居た。

 ほとんどが信用出来ない奴らだったが、この神は――

 ずっとそんな事を考えている。


「鶴ちゃん落ち着いた?」

「……はぁ、縁の神様聞きたいんだけどよ」

「どうぞ」

「身の丈ってどうすりゃいいんだ?」

「それは俺に聞く事じゃない、自分で考えろ」

「……はぁ」


 鶴雅は深いため息をした。

 いっその事バシッと言ってくれればと思った。

 だが安易な選択肢、つまりは楽になる様な選択肢は渡さない。


「……何で私に優しくするんだ?」

「優しく? 俺は受けた恩を返しただけだ」

「……お前とおばあちゃんはどんな関係なんだ?」

「簡単だ、さっきも言ったが諭鶴羽ゆずるは様にお世話になったからだ」

「それそれ縁君、私もそれを知りたいよ?」

「何、世の中知らないクソガキがイキリ散らして、痛い目にあっただけだ」

「それで何でおばあちゃんが出で来るんだよ」

「ふむ、お前は人様の振り返りたくない過去を聞きたいのか?」

「……わかった止めとくよ、それこそ身の丈の選択肢ってやつだ」


 たいして親しくも無い間の人物に、あれこれと説明してやる必要は無い。

 たった一言、世話になったからお前を助ける。

 縁の機嫌を損ねたら、おばあちゃんを助けるという話が無くなる可能性。

 鶴雅は何もそれ以上何も言わなかった、その表情を汲み取ってか結びが話しかける。


「納得出来るかはわからないけど、私貴女の結果より過程を評価を評価したいね」

「過程?」

「そうそう、鹿雲しんぐも煙月けむりづきは……自分達で何もしてないんだよ、いや、したのかもしれないけどさ」

「ふむ」

「鶴ちゃんはおばあちゃんの為に手を汚したんでしょ? あの2人は変えたいけど誰かが助けてくれるチャンスを待った、悪い事じゃないんだけどね」

「とは言えあの2人の気持ちも組み取らなければならない、従ってしたのは自分達より小さい子供達を守る為だろう」

「立場が違えば理由も違うね~」

「私を助けるとか言うんだ、アイツらも助けるんだろ? 縁の神は何がしたいんだ?」

「良き縁を守っただけだ、鹿雲と煙月からは互いを想い、施設の小さい子供達の縁を感じたからだ、先程も言ったがお前からは祖母を思う気持ちを感じたからだ」


 何度聞いても納得していない顔をする鶴雅だった。

 やはり復讐する対象を助けているのが気に食わないようだ。

 しかしそれは口には出さない、言ったら間違いなく『身の丈の選択肢』から外されるだろう。

 つまりは祖母の怪我を治す手段が無くなる、あったとしても自分じゃ時間がかかる。

 故に不機嫌な顔をするしかなかった。


「鶴ちゃん、縁君は複雑な状況を少し簡単にしただけだよ? 結局あの2人の施設が悪いって事じゃん?」

「……まあ元凶はそうなるな」

「さっきも縁君が言ったけどさ、当事者同士で解決すればいいのよ」

「……」


 確かに結びの言う通りだ、施設は多分縁がどうにしたのだろう。

 鶴雅は一段と落ち込んで、自分の黒い羽を触った。

 そして諦める様にため息をした、投げ出したといってもいい。


「勢いでここまで突っ走って色々としてきて……翼を黒くしてまで色々としたが疲れた」

「あ、それ生まれつきじゃないんだ」

「私の一族は悪い事をすると羽が黒くなる」

「はっはーん、それは鶴ちゃんが苦労してきた色なんだね?」

「は?」

「いや、善悪の判断って自分でするんじゃないの? 悪い事だとわかってさ? つまりは覚悟を持ってあの2人に復讐したいと思ったという事でしょ? その信念いいじゃないか」

「……」


 鶴雅は驚いた顔をして結びを見ると、自分を見る界牙流四代目は尊敬する相手を見つめているようだった。

 縁もその目に合わせるように鶴雅を見る。


「縁君、大切な人の為に手を汚す、界牙流四代目の私は心打たれた、この子は助けるべきだ」

「ふむ、それは俺も同意だ」

「鶴ちゃん、ここがターニングポイントだね、自分自身に無理せずに歩きだせるかどうか」

「善悪どちらにしろ、無理してする事でない」

「むしろ復讐の方法なら色々とあるよ? げっへっへっへっへ」

「……いや、この子の性分は本来そんな子じゃない」

「んじゃ本当に無理してきたって事じゃんか」

「なあ……確認だが……本当に私も……いや、おばあちゃんを助けてくれるのか?」

「今一度誓おう、縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけしろうさぎのかみえにし、我が名に誓おう」

「……」


 縁は再び自分の名を出すと、鶴雅はその場に泣き崩れてしまった。

 おそらくは一人で誰にも頼らず、祖母の仇をとるために頑張ってきたのだろう。

 地獄に落ちた者が、切れないクモの糸を見つけたような気持ちかもしれない。

 鶴雅はそのまま土下座で縁に頭を下げたが――


「あ、ありがとうござい……ます」

「頭を下げなくていい、俺は位が低い神だ」

「よほらほら鶴ちゃん泣き止んで、縁君ハンカチプリーズ」

「ああ」


 縁は鞄からハンカチを出して結びに渡した。

 結びは泣き崩れている鶴雅を優しく立ち上がらせて、涙をハンカチで優しく拭く。


「まずは鶴ちゃんのおばあちゃんに会いに行こう、どんな症状か見ないとわからんじゃん?」

「うむ」

「……案内する」


 鶴雅が手を叩くと黒い鶴の羽が無数に現れて三人を囲む。

 数秒グルグルと鶴雅達の周りを回ると三人は消えた。

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