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第一話 演目 鶴の神

 縁達は学園を出て絆が対処したという、襲撃者達を差し向けた奴を探す。

 無論縁達には造作も無い事だ、そしてその場所へと向かうと……


「まあそうなるか」

「絆ちゃんも容赦無いねぇ」


 大木に貼り付けにされている黒い鶴の羽の女性。

 心臓に木の杭が刺さっていて血が流れ落ちていた。


「ぐっ……て、てめぇらは……」

「お、生きてた」

「なるほど鶴の神か」

「ああ神様、だったら死なないか」

「……ふむ、結びさん」


 縁は結びと手をつないだ、彼女はニコニコとしていたがびっくりする。

 結びの目に、黒い糸のようなものが見え始めたからだ。


「この神の悪しき縁だ、処してくれ」

「殺しなんて珍しいねぇ……まあ出来るけど」

「この神を助ける」

「そうなの? ま、私はちょいといってくるよ」

「頼んだ」


 結びはその場から消えて、鶴の神は縁を睨むように見た。


「……聞き間違いか? 私を助けるだと?」

「そうだ」

「はっ! お人好しか? 私が――」

「簡単だ鶴雅つるみやび、お前さんの祖母諭鶴羽ゆずるは様に世話になったからだ」

「私の名前……い、いや! それよりも! お、おばあちゃんを知っいるいるのか!?」

「ああ」

「だったら! だったらあの2人を許し――」

「落ち着け」


 縁は有無を言わさない威圧を放った。

 だが威圧というよりは、救いを与える顔をしている。


「まずは妹が失礼をした、だが妹は妹でやっと手に入れた学校生活なんだ」


 絆が鶴雅をボコした理由は簡単だ、学校を壊そうとしたから。

 幼少の時に叶わなかった夢の学校生活、それに対して怒っただけだ。


「まずは傷を治してやろう」

「は?」


 鶴雅が驚いていると怪我も衣服も元通り。

 もちろん貼り付けからも解放される。


「……どういう事だ」

「だからさっきも言っただろ、諭鶴羽様に昔世話になったからだ、そしてお前もエンシェントトゥエルヴか」

「ハッ! 私はそっちには興味が無い! あの2人がのうのうとあの組織に居たからだ!」

「ほう」

「私のおばあちゃんはアイツらが! 羽をむしり取りやがった! 羽は生え変わるからいいとかじゃねぇ! 傷付いた体には跡が残るだろ!」

「なるほど」

「アイツらの被害者ヅラが気にくわねぇ! 何があってもぜってぇ許さねぇ! 命令されたから仕方ねぇとか! この私にほざきやがった!」

「よし、お前の問題を少しだけ和らげよう」

「あ゛あ゛!? 私は絶対に復讐をやり遂げる! おばあちゃんに嫌われてもだ!」

「いい覚悟だ、お前の復讐を止めないがまずは諭鶴羽様を治す」

「なっ! 何を言ってるんだお前は!」

「だから復讐は後にして、まずは諭鶴羽様の怪我を治す」

「お前にあの怪我を治せるのか!?」

「俺には無理だが……俺は縁の神、自分の人脈には自信がある」


 その言葉に噓偽りはないのだろう。

 縁の神だからこそ、自身の良き縁には自信がある。

 そして解決を出来る縁を持っているからこその言葉だ。


「……そ、そうか……おばあちゃんを……」

「ふむ、結びさんがやってくれたようだな」

「私に何をした?」

「神の力は信仰心つまりは関係性だ、つまりは悪影響を排除した」

「……」


 おそらく鶴雅は復讐の為に色々としてきたのだろう。

 その結果、負の信仰心が溜まり悪い方へと性格が少しずつねじ曲がったのだ。

 急激な変化はおそらくない、塵も積もれば山となるで変わった。

 とは言え急に元に戻る事も無いだろうが、先程よりも表情は穏やかになっている。 


「やはり少々暴走ぎみだったようだな」

「……どんな手を使ってでもアイツらに復讐すると決めたんだ」

「お前からしたらあの2人は実行犯であり、命令されたから仕方なかった、それは許せないって話だったか?」

「……ああ」

「で、あの2人からしたら施設の子供の為にやったけど、こんな生活からは抜け出したい、つまりは――」

「へっ仲直りでもしろってか?」

「後は当人同士で解決しろ、俺が介入する問題じゃない……品の無い言い方をすると、勝手に殺し合え? 俺は身の丈合わない選択をする者はそれ以上助けない」

「……」


 縁の言葉に鶴雅は困惑していた、助けるが復讐は勝手にしろと言う。

 まさに選択肢、復讐を止めて祖母を助けてもらう?

 そうすれば積み上げてきた私はなんだったのだ?

 身の丈に合う選択肢、考えればある程度の数が有る。

 例えば復讐するにしても色々と手段があるはずだ。

 もう今回の様な手段は使えないとして――

 考え込む鶴雅に縁はいい顔をした。


「そうだ悩むといい、後で後悔しても自分で選択をするんだ」

「……お前は私の敵なんだよな?」

「ん? 俺が自分の言葉でお前の敵と言ったか?」

「言っては……ないが……本当に無理おばあちゃんを助けてくれるのか?」

「我が名、縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけうさぎのかみえにし、縁起物と身の丈、縁を守る神の名に誓おう」

「……いくら私でも、それを言われたら信じるしかない」


 神の名に出すという行為、これは自分の存在を表しその名の通りの行動をする。

 普通に名乗る分には何も無いが、神が自分の名に誓うというのはそれ相応の覚悟の現れだ。

 その覚悟を見せられてしまっては、何も言えなくなってしまう。

 そして結びが涼しい顔をして帰ってきたのだった。


「いや~ただいま、ご希望通りにしてきたよ」

「お疲れ様」

「お? ほっほっほ、この鶴ちゃんもいい顔になったね」


 ニコニコしながら結びは鶴雅を見るとそっぽを向いた。

 鶴雅は徐々に確信に変わっていた、この神は信頼出来ると。

 それと同時に助けてくれるが身の丈合う選択もしろ。

 鶴雅の心には色んな感情が駆け巡った。


「……」

「んで縁君これからどうするの?」

「この子のおばあちゃんを助ける」

「ま、待て……頭の整理をさせてくれ」

「お、鶴ちゃんとお話~」

「……私の名前は鶴雅」

「うんうん、落ち着いてお話しようね~」

「私はそこまで子供じゃない」

「そりゃ失礼~」


 とりあえず鶴雅の考えが追い付くまで待つ縁と結びだった。

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