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第一話 前説 猫のご来店のお知らせ

 何時も通りゲーム屋のバイトをしている2人。

 今日はまばらにお客が来るらしい、この店では珍しい事だ。


「今日はボチボチお客が来とるの~」

「ああ」

「まあこのままだと午前中で終わりだね」

「何時も通りだな」

「で、長谷川君とレアスナタなのじゃよ」

「ああ、そういえばさっきお楽しみがあるとかなんとか」

「ほっほっほ……」


 荒野原は長谷川の方をポンポンと叩いた。


「エンシェントトゥエルヴの人達と打合せしてね」

「おお、俺の知らん所で話が進んでいる」

「縁もとい長谷川君はある意味では主人公じゃん?」

「いやいや、レアスナタは全員主人公で全員モブだよ」


 レアスナタは自分でキャラクターを考える。

 どんなキャラクターでも、そのキャラクターにしか出来ない事がある。

 ある意味ではレアスナタは、もう一つの人生に近いのかもしれない。


「いやまあそうなんだけどさ? 地獄谷ちゃんも地獄谷ちゃんで色々と話が進んでいるらしいし」

「まあそうだよな、知らない所で――」


 雑談をしているとお客が店へとやって来た、2人はすぐさまある程度キリッとする。


「いらっしゃいませ~」

「いらっしゃいませ」


 来店したお客は高校生くらいの女性だった。

 レジへと直行してきて財布から紙を出す。


「予約していた高橋です、これ先払い予約レシートです」

「……はい、今商品をお持ちしますね」


 荒野原はレシートを確認して、バックヤードへと姿を消した。


「あ、あの……お仕事中に申し訳ないのですが……」

「ん? どうしました?」

「縁先生と結び先生かにゃ? あ……」

「にゃ?」


 自分達が縁と結びだというのは知られていた。

 そして良識の範囲内で自分達に会いに来る人達も居る。

 語尾ににゃを付けるキャラクターは沢山いるが――

 声で長谷川はピンときた。


「ああ、地獄谷さんか」

「す、すみません……ああもう恥ずかしい」

「ほっほっほ、ちなみに私はこの間予約しに来た時にピンと来たよん~」

「にゃ!?」


 バックヤードから戻ってきた荒野原が、高橋へと近づいていく。


「キャラロールすると移るよね~はい、商品です」

「あ、ありがとうござい……ます、あの……どうしてもリアルの先生達にお礼を言いたくて」

「お礼?」

「お、何だ何だ? 面白い話?」


 高橋はそれはもう、こっちが応援したくなるのような恋する乙女の顔をした。


「幼馴染のこう君……あ、天空原のプレイヤーと……そのリアルで恋人になりまして」

「おお」

「あら~」

「ゲームの中だったけど、彼の言葉にはリアルの私に響いたんです、逆とも言われましたが……」


 おそらくはお互いに好意を抱いていたのだろう。

 そして決定的だったのは、結びと地獄谷が手合わせしたあの時。

 地獄谷の魂の叫びが届いた結果だ。


「あ、わかる~私も長谷川君もとい縁に魂の叫びをされたからね」

「あ、知ってます! 先生達のあの告白を見ると幸せになれると!」


 縁達のあのシーンは、ネットで色々と伝説となりつつある。

 これを見れば恋が成就する、夫婦仲の改善やより深まる等々。

 しかしそれは偶然であり、長谷川達は自分の功績とは思ってない。


「大きな声を出してすみません……」

「ああいやいいんだよ、でもお礼と言っていたけど……俺達は何もしていない」

「そうそう、あ、長谷川君や、ここはファンサービスしてあげたら?」

「ふむ」


 長谷川はビシッと、縁になりきって決め台詞を言った。


「俺達は何もしていない、君が積み上げて来た行動の結果だ、良き縁は自分自身で作るモノだ」

「おお……リアル縁先生だにゃ、ご利益ご利益」

「猫のキャラクターに言われるとはね~」

「動物は何かしらの縁起物だからな」

「猫と兎で――」


 高橋はふと店内の時計が目に入った。

 今ここはゲーム内ではない事とお店という事実に。 

 現実なのだが、現実に戻された感覚になる。


「……あ、長居してすみません」

「いやいやいいんだよ、あ、今日はログインするの?」

「いえ、午後から予定がありまして」

「そっかそっか、またゲーム内でね~」

「はい」


 高橋は一礼してお店出で行く時に、長谷川達は店員として声をかける。


「ありがとうございました~」

「ありがとうございました」

「本日のビックリだったな」

「ほっほっほ……ありゃデートだね」

「ふむ、俺達もするか?」

「これからするでしょ」

「ああ」


 今日もまた、2人のレアスナタという名のデートが始まる。

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