何時も通りゲーム屋のバイトをしている2人。
今日はまばらにお客が来るらしい、この店では珍しい事だ。
「今日はボチボチお客が来とるの~」
「ああ」
「まあこのままだと午前中で終わりだね」
「何時も通りだな」
「で、長谷川君とレアスナタなのじゃよ」
「ああ、そういえばさっきお楽しみがあるとかなんとか」
「ほっほっほ……」
荒野原は長谷川の方をポンポンと叩いた。
「エンシェントトゥエルヴの人達と打合せしてね」
「おお、俺の知らん所で話が進んでいる」
「縁もとい長谷川君はある意味では主人公じゃん?」
「いやいや、レアスナタは全員主人公で全員モブだよ」
レアスナタは自分でキャラクターを考える。
どんなキャラクターでも、そのキャラクターにしか出来ない事がある。
ある意味ではレアスナタは、もう一つの人生に近いのかもしれない。
「いやまあそうなんだけどさ? 地獄谷ちゃんも地獄谷ちゃんで色々と話が進んでいるらしいし」
「まあそうだよな、知らない所で――」
雑談をしているとお客が店へとやって来た、2人はすぐさまある程度キリッとする。
「いらっしゃいませ~」
「いらっしゃいませ」
来店したお客は高校生くらいの女性だった。
レジへと直行してきて財布から紙を出す。
「予約していた高橋です、これ先払い予約レシートです」
「……はい、今商品をお持ちしますね」
荒野原はレシートを確認して、バックヤードへと姿を消した。
「あ、あの……お仕事中に申し訳ないのですが……」
「ん? どうしました?」
「縁先生と結び先生かにゃ? あ……」
「にゃ?」
自分達が縁と結びだというのは知られていた。
そして良識の範囲内で自分達に会いに来る人達も居る。
語尾ににゃを付けるキャラクターは沢山いるが――
声で長谷川はピンときた。
「ああ、地獄谷さんか」
「す、すみません……ああもう恥ずかしい」
「ほっほっほ、ちなみに私はこの間予約しに来た時にピンと来たよん~」
「にゃ!?」
バックヤードから戻ってきた荒野原が、高橋へと近づいていく。
「キャラロールすると移るよね~はい、商品です」
「あ、ありがとうござい……ます、あの……どうしてもリアルの先生達にお礼を言いたくて」
「お礼?」
「お、何だ何だ? 面白い話?」
高橋はそれはもう、こっちが応援したくなるのような恋する乙女の顔をした。
「幼馴染のこう君……あ、天空原のプレイヤーと……そのリアルで恋人になりまして」
「おお」
「あら~」
「ゲームの中だったけど、彼の言葉にはリアルの私に響いたんです、逆とも言われましたが……」
おそらくはお互いに好意を抱いていたのだろう。
そして決定的だったのは、結びと地獄谷が手合わせしたあの時。
地獄谷の魂の叫びが届いた結果だ。
「あ、わかる~私も長谷川君もとい縁に魂の叫びをされたからね」
「あ、知ってます! 先生達のあの告白を見ると幸せになれると!」
縁達のあのシーンは、ネットで色々と伝説となりつつある。
これを見れば恋が成就する、夫婦仲の改善やより深まる等々。
しかしそれは偶然であり、長谷川達は自分の功績とは思ってない。
「大きな声を出してすみません……」
「ああいやいいんだよ、でもお礼と言っていたけど……俺達は何もしていない」
「そうそう、あ、長谷川君や、ここはファンサービスしてあげたら?」
「ふむ」
長谷川はビシッと、縁になりきって決め台詞を言った。
「俺達は何もしていない、君が積み上げて来た行動の結果だ、良き縁は自分自身で作るモノだ」
「おお……リアル縁先生だにゃ、ご利益ご利益」
「猫のキャラクターに言われるとはね~」
「動物は何かしらの縁起物だからな」
「猫と兎で――」
高橋はふと店内の時計が目に入った。
今ここはゲーム内ではない事とお店という事実に。
現実なのだが、現実に戻された感覚になる。
「……あ、長居してすみません」
「いやいやいいんだよ、あ、今日はログインするの?」
「いえ、午後から予定がありまして」
「そっかそっか、またゲーム内でね~」
「はい」
高橋は一礼してお店出で行く時に、長谷川達は店員として声をかける。
「ありがとうございました~」
「ありがとうございました」
「本日のビックリだったな」
「ほっほっほ……ありゃデートだね」
「ふむ、俺達もするか?」
「これからするでしょ」
「ああ」
今日もまた、2人のレアスナタという名のデートが始まる。