ロール中、ふと時間を見ればもう午後6時を過ぎている。
縁と結びは上手い事他のプレイヤー達に言って、ゲーム内ロビーへと帰ってきた。
「お疲れ様縁君」
「お疲れ様結びさん」
「いや~何か急に結婚式の準備が進んだね~」
「ふむ……意図しない所で進んでしまった」
「まさに巡り合わせ、リアルでもこれくらいすんなりといくといいね」
「ゲームじゃないんだからそうはならんやろ、しかし君との結婚式は、ゲームでもリアルでも大切な思い出にしたい」
「げっへっへっへっへ……仕方ない、今日は私が奢ってやろう」
「割り勘でいいだろ」
「その心は?」
「そうだな、例えば2人で五千円だとする」
「ふむ」
「じゃあ俺も五千出せば?」
「予算一万になるね」
「2人で一万なら、そこそこそいいもん食えるし飲めるぞ」
「っても行くのはいつもの居酒屋です」
「俺らも常連だが常連さん達に覚えられたよな」
「そりゃこの間おだいじんしたしね」
この間というのは、斬摩が長谷川達のガチ勢動画を見せた時の事。
その時にうるさくなるからと、お店のお客にそれなりの物をふるまったのだ。
「とりあえず向かうか」
「おうよ、ログアウトじゃ~」
そんなこんなでいつもの通り、ログアウトして居酒屋へと向かうのだった。
「あ、そういえばさ、長谷川君はレアスナタ以外も遊んでるの? あ、ゲームね」
「ああ……あまりやってないな」
「おおう、興味が無い?」
「うむむ……改めて考える環境が良すぎるからだな」
「ほほう」
「いや、まずプレイヤーのマナーが良くて運営もいい人達、そんなゲームこのご時世にある事が奇跡だよ」
「まあ他のオンラインゲームって良くも悪くも、ネットって感じだしね~」
他のオンラインゲームも人気なシリーズはある。
だが、レアスナタの様にマナーを徹底的にしている所は少ない。
そもそもレアスナタは個人情報を登録しなければならないオンラインゲーム。
仕切りが高いように見えるが、個人情報提示している状態で悪い事なぞ普通はしないだろう。
「荒野原さんは?」
「あ~時間があればやってるよ」
「あ、もしかして――」
「おっと、長谷川君との時間は私にとって必要だからね?」
「お、おう、ありがとう」
「ただ、長谷川君も子供が産まれたらレアスナタは控えてね」
「もちろんだ、リアル大切に出来ねぇ奴がネットゲームなんて出来ない」
「ちなみに月何回と考えている?」
「……一回?」
「おお……でも少なくない?」
「そうかなぁ」
長谷川の言っている事はもっともだ。
子供が産まれたら、一番は子供の事だろう。
とは言え、全ての時間を子供の為にというのも違うだろう。
これはちゃんと夫婦で考える事だ。
「長谷川君、君の魅力はレアスナタガチ勢なんだから」
「いやいや、子供産まれたら一番は子供じゃろ」
「そうなんだけど……長谷川君、私自身にもブーメランささるけど言っていい?」
「何だ?」
「私と長谷川君、レアスナタしなかったら何が残るの?」
「……」
長谷川に衝撃が走った、特に何か凄い資格がある訳でもない。
高校卒業をして、直ぐに今のゲーム屋のバイトを始めた。
長谷川のサイクルは働いてレアスナタをする、これの繰り返しだ。
「えっと……荒野原さんは元一流企業に勤めてたでしょ?」
「ふっ、そんなのは過去の栄光、今はゲームショップの店員」
「あれ……俺、振り返るとレアスナタしかしてきてない」
「おおう、そこまで落ち込むとは……」
長谷川は急に自分が恥ずかしくなったのか、下を向いてしまった。
元とは言え一流企業に居た人と自分が釣り合うのか?
何も無い自分、その事実を突き付けられた。
荒野原は長谷川の頭を撫でる。
「言い方が悪かった、ごめんなさい」
「あ、いや……俺の価値って……」
「いやあるだろ、少なく私には」
荒野原は右手で長谷川の顎を上げて目線を合わせた。
「本気で長谷川君馬鹿にする奴は、この私がどんな手を使ってでも合法的に処す」
「……いや君のことだ、本当にやるんだろうなぁ」
「当たり前だろ、旦那守らん妻にはならん」
「それは俺も同じだな」
そんな感じのイチャイチャをしていると、女将が一礼して近寄ってきた。
「失礼します、ごめんなさいね注文聞きに来ないで、少しお話があるのよ」
「あれ? 女将さんどうしたんですか?」
「ほら、この間あなた達おだいじんしたでしょ?」
「はい」
「常連さん達からのお返しよ」
そう言ってテーブルに置いたのは、箱に入った日本酒だった。
いかにも高そうな雰囲気を漂わせている。
「むむむむ!? 何か高そうな日本酒が」
「……これ十万はするものじゃない?」
「ふぁ!?」
「その音はファじゃない」
「いやいやそれより、高級なお酒じゃないか」
長谷川はジッと日本酒の箱を見ている。
「常連さん達……あ、年配者の方々ね? 力を合わせてお返ししたいって」
「おお、やったぜ」
「いや、あの……いいんですか?」
「いいのよ、あ、店からもその日本酒に合う料理出すわね」
「いいんですか?」
「もちろんよ」
女将が一礼して離れていった、長谷川は日本酒の箱をまだジッと見ている。
「……俺、高い酒の味わからんけど」
「ふっ、長谷川君、縁は何時もなんて言っている? いや、この場合ならなんていう?」
「ふむ……」
長谷川はしばらく考えて、決め顔で荒野原に言った。
「世間の物の価値ではなく、人の善意と何より君と飲むお酒は名酒だ」
「ぶふぉ!」
荒野原は盛大に吹き出した、それはもう嬉しそうに。
「だ、大丈夫?」
「ひっひっひっひっひ! これよこれ! 長谷川君の好きなところ」
「お、おう?」
「前言ったかもしれないけど、私は真顔で心からくっさいセリフ言う人が好きなのよ」
「ああ……なんか聞いた様な」
「で、長谷川君は私の何処が好きなのさ」
「レアスナタガチ勢な所、一番は一生居て楽しいし、この人と家族になりたいと思える人」
「これは夜の――」
「しません、君のご両親に顔向け出来ない」
「ちぇ」
しばらくなんだかんだとイチャイチャしていると、料理を持って女将と店員が現れた。
「お待たせしました」
テーブルには魚や野菜や肉等々、2人前のオードブルの様に色々と置かれていく。
「失礼します」
「おおう、おつまみセットやん」
「お店からとは言ってたが、ちゃんと払わんと」
「だよねぇ、善意にあぐらをかく馬鹿にはなりたくないのじゃよ」
「どう見たって手間かけてもらってるしな」
「うむ」
この後2人は美味しい食べ物と飲み物を堪能した。
そしてちゃんと今回のお代を払って帰ったのだった。