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第七話 演目 縁を冒涜する行為

 なんだかんだと復興支援作業もひと段落して、やる事はほぼ無くなっていた。

 今は縁が頼んだ物資と、買い出しに出掛けた朱雀すざくを待っていた。

 白虎のビャッコン曰く、村の人達の日用品を買いに飛び立った。

 直ぐに帰ってくると言っていたらしいのだが、まだ帰ってこない。


「トライアングルのおばあさん、凄いー」

「ふふ、あなたの音楽も素敵ですよ」

「お兄ちゃん、これ叩いて」

「……カスタネット? いや、形が違うか?」

「|虎狐«とらぎつね»のおばあちゃん、これ使ってみて!」

「いやいや、私は楽器なんて使えないよ」


 フィーネも天空原もビャッコンも、村の人達との交流を楽しんでいた。

 縁達はというと少し離れた所でその様子をみている。


「良かった良かった、このまま特になにもなければいいね~」

「そうだ――」


 そうは問屋がおろさないと言わんばかりに、縁のカミホンが鳴った。

 その鳴り方は緊急事態の音だった、縁は直ぐにでる。


「どうしたサンディ?」

『縁、お前今戻ってこれるか?』

「何があった?」

『とりあえず学園に戻って来てくれて』

「ああ」

「お、なんだねなんだね?」

「すまん、一度俺は学園に戻る」

「ほいほい、私はここで待っとるよ、縁君が頼んだ荷物を受け取りしないとね」

「すまない」

「いってらっしゃい~」


 縁はその場から消えて学園へと向かった。

 学園の入り口へと移動すると、サンディが立っている。


「縁、大変な事が起きた」

「どうしたんだ?」

「地獄谷の実家が壊されたらしい!」

「は?」


 縁は考えの止まった、言っている事は理解出来るのだが唐突だ。

 地獄谷が校舎かせ走ってきて、縁の近くで止まった。


「あ! 縁先生! 実家壊されたにゃ!」

「……実家に案内してくれ」

「にゃ! シーナ先生、ちょっといってくるにゃ」

「ああ」


 地獄谷の力で地獄へとやって来た縁達、目の前あったはずのものが――


「……何があったんだ?」


 無かった、作業場も家も全壊している。

 地獄谷は直視できないのか下を向いていた。


「縁さん!」


 形白かたしろ蔓梅つるうめが縁の背後から声をかけた。

 ぞろぞろとこの地域の人達と長っぽい人が居る。


「形白さん、蔓梅さん、何があったのですか?」

「久しぶりに家に帰ってきたら、この有り様だったんですよ」

「やっと炎花ちゃんが帰ってきたのに」

「何処のどいつなんだ?」

「噂だとどこぞの十二支らしいぞ?」

「この里も戦いになるのか?」


 縁は里の人達の言葉でハッとした、自分の考えがたらなかった事に。

 地獄谷を守ればいいと思っていたが、前に来た時も遠くに民家が見えていた。

 なら地獄谷だけではなく、この地域全体を見なくてはならなかった。


「……俺の考えがたらなかった、近くに住んでいる人達の事まで頭が回らなかった、巻き込まれるのは当然じゃないか」

「いえいえ縁の神様、大丈夫ですよ」

「貴女は?」

「私はこの集落をまとめている『祝言しゅうげん』と申します」


 祝言と名乗ったおばあさんは、縁を見て手を合わせてお辞儀をした。


「縁の神様、形白達の事情は聞いております、本来ならば私が――」

「いやいや待ってくれ長! こうなりゃ俺達全員の問題だろ!」

「この里の者達は過去に十二支と戦った者達だ!」

「細かく言えばクソネズミと戦った一族だな」

「今はそんな話はいいだろ」

「いや、敵が十二支なら関係あるだろ」

「そうだ! 今こそ我らの武力を見せる時!」

「十二支がどんな理由か知らねぇが! よりによって地獄谷の家に手を出すとは!」


 里の人達はやる気満々のようだ、それだけ地獄谷の家が慕われていて、炎花が可愛がられているのだろう。

 突然地獄谷が土下座をし始めた、縁は慌ててやめさせようとするが――


「縁先生、父上と母上の大切に家をぶっ壊した犯人を許せないにゃ! ここには……父上と母上の思い出が……あったにゃ! でも私が逆立ちしても間違いなく返り討ちに合うにゃ! 私は強くないにゃ! 代わりに恨みを晴らしてにゃ!」


 地獄谷は間違いなく泣いている、自分が人の世に出だ事で、結果的に実家を壊されたと思っているのだろう。


「……ここまでされても黙って泣いてるしか出来ないにゃ、今ほど先生達ほど強ければと思った事はないにゃ、この恨み――」


 形白と蔓梅も娘に続いて土下座をし始めた。

 それを見た祝言もして、里の人達も次々と土下座をする。

 縁は覚悟を決めて話を聞くことにした。


「縁様、私に出来る事は何でも致します、娘の涙を見て黙ってられる親じゃありませんよ」

「私達に出来る事があればおっしゃってください」

「縁様……ここは小さい里でございます、皆自分の生活があります、勝手なのはわかりますが……里長としての考えは、里の者の手を血で染めたくはありませぬ」

「ここは結婚の衣装を生業としている里ですね? そんな人達に手荒な真似をさせる訳にはいきませんよ、評判にかかわりますし」

「にゃ? 縁先生は気付いていたのかにゃ?」


 地獄谷は顔を袖で拭いて縁を見上げた。


「これでも――って、皆さん顔を上げて下さい、俺はそこまでされる神じゃないんです、位も低いですし」


 縁が困った顔をして立ち上がる事をうながした。

 土下座していた者達は次々と立ち上がる。


「にゃ、縁先生、聞いた話だけど……結び先生との結婚式を準備しているとか」

「ああ」

「ならこの里はピッタリだにゃ、衣装はお任せだにゃ、里長さとおさ、捧げものとして最適解だにゃ」

「うむ、そういう事なら我が里は応援出来る……しかし対価となり――」

「里長、私は私なりにこの里を見て来たにゃ、皆が作る結婚式の衣装を着ていた人達は笑顔だったにゃ、この価値がわからない先生じゃないにゃ」

「もちろんだ……色々とおまけ付きにしないと割に合わない」


 縁はカバンから紙袋を出した、それは以前自分の生徒達に渡した、カミホンが入った物だ。

 地獄谷に差し出すと中身を確認し始めた。


「にゃ? スマホ?」

「これは神が作ったスマホだからカミホンという」

「な、何か凄いアイテムが出て来たにゃ」

「何かあったらこれで連絡をくれ、説明書もちゃんとある」

「にゃ? 使用料金は?」

「安心しろタダだ、これ作った神が言っていた」

「にゃ、タダより高い物はないにゃ」

「安心しろ、神からの施しだ」


 縁はウサミミカチューシャを外して、何時も通りの神様モードになるが。

 何時も通りと違うのはその顔付きだった、縁らしからぬ威厳を放っていた。


「汝らの願いは、縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけしろうさぎのかみえにしが聞き入れた、縁の象徴の一つである家を壊すとは……俺に対しての冒涜と捉える」


 その神々しさに里の者達は再び土下座をしそうになるが、縁が止めた。

 その後は里の守りを相談して縁は、ガッキーン村へと帰るのだった。

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