なんだかんだと復興支援作業もひと段落して、やる事はほぼ無くなっていた。
今は縁が頼んだ物資と、買い出しに出掛けた
白虎のビャッコン曰く、村の人達の日用品を買いに飛び立った。
直ぐに帰ってくると言っていたらしいのだが、まだ帰ってこない。
「トライアングルのおばあさん、凄いー」
「ふふ、あなたの音楽も素敵ですよ」
「お兄ちゃん、これ叩いて」
「……カスタネット? いや、形が違うか?」
「|虎狐«とらぎつね»のおばあちゃん、これ使ってみて!」
「いやいや、私は楽器なんて使えないよ」
フィーネも天空原もビャッコンも、村の人達との交流を楽しんでいた。
縁達はというと少し離れた所でその様子をみている。
「良かった良かった、このまま特になにもなければいいね~」
「そうだ――」
そうは問屋がおろさないと言わんばかりに、縁のカミホンが鳴った。
その鳴り方は緊急事態の音だった、縁は直ぐにでる。
「どうしたサンディ?」
『縁、お前今戻ってこれるか?』
「何があった?」
『とりあえず学園に戻って来てくれて』
「ああ」
「お、なんだねなんだね?」
「すまん、一度俺は学園に戻る」
「ほいほい、私はここで待っとるよ、縁君が頼んだ荷物を受け取りしないとね」
「すまない」
「いってらっしゃい~」
縁はその場から消えて学園へと向かった。
学園の入り口へと移動すると、サンディが立っている。
「縁、大変な事が起きた」
「どうしたんだ?」
「地獄谷の実家が壊されたらしい!」
「は?」
縁は考えの止まった、言っている事は理解出来るのだが唐突だ。
地獄谷が校舎かせ走ってきて、縁の近くで止まった。
「あ! 縁先生! 実家壊されたにゃ!」
「……実家に案内してくれ」
「にゃ! シーナ先生、ちょっといってくるにゃ」
「ああ」
地獄谷の力で地獄へとやって来た縁達、目の前あったはずのものが――
「……何があったんだ?」
無かった、作業場も家も全壊している。
地獄谷は直視できないのか下を向いていた。
「縁さん!」
ぞろぞろとこの地域の人達と長っぽい人が居る。
「形白さん、蔓梅さん、何があったのですか?」
「久しぶりに家に帰ってきたら、この有り様だったんですよ」
「やっと炎花ちゃんが帰ってきたのに」
「何処のどいつなんだ?」
「噂だとどこぞの十二支らしいぞ?」
「この里も戦いになるのか?」
縁は里の人達の言葉でハッとした、自分の考えがたらなかった事に。
地獄谷を守ればいいと思っていたが、前に来た時も遠くに民家が見えていた。
なら地獄谷だけではなく、この地域全体を見なくてはならなかった。
「……俺の考えがたらなかった、近くに住んでいる人達の事まで頭が回らなかった、巻き込まれるのは当然じゃないか」
「いえいえ縁の神様、大丈夫ですよ」
「貴女は?」
「私はこの集落をまとめている『
祝言と名乗ったおばあさんは、縁を見て手を合わせてお辞儀をした。
「縁の神様、形白達の事情は聞いております、本来ならば私が――」
「いやいや待ってくれ長! こうなりゃ俺達全員の問題だろ!」
「この里の者達は過去に十二支と戦った者達だ!」
「細かく言えばクソネズミと戦った一族だな」
「今はそんな話はいいだろ」
「いや、敵が十二支なら関係あるだろ」
「そうだ! 今こそ我らの武力を見せる時!」
「十二支がどんな理由か知らねぇが! よりによって地獄谷の家に手を出すとは!」
里の人達はやる気満々のようだ、それだけ地獄谷の家が慕われていて、炎花が可愛がられているのだろう。
突然地獄谷が土下座をし始めた、縁は慌ててやめさせようとするが――
「縁先生、父上と母上の大切に家をぶっ壊した犯人を許せないにゃ! ここには……父上と母上の思い出が……あったにゃ! でも私が逆立ちしても間違いなく返り討ちに合うにゃ! 私は強くないにゃ! 代わりに恨みを晴らしてにゃ!」
地獄谷は間違いなく泣いている、自分が人の世に出だ事で、結果的に実家を壊されたと思っているのだろう。
「……ここまでされても黙って泣いてるしか出来ないにゃ、今ほど先生達ほど強ければと思った事はないにゃ、この恨み――」
形白と蔓梅も娘に続いて土下座をし始めた。
それを見た祝言もして、里の人達も次々と土下座をする。
縁は覚悟を決めて話を聞くことにした。
「縁様、私に出来る事は何でも致します、娘の涙を見て黙ってられる親じゃありませんよ」
「私達に出来る事があればおっしゃってください」
「縁様……ここは小さい里でございます、皆自分の生活があります、勝手なのはわかりますが……里長としての考えは、里の者の手を血で染めたくはありませぬ」
「ここは結婚の衣装を生業としている里ですね? そんな人達に手荒な真似をさせる訳にはいきませんよ、評判にかかわりますし」
「にゃ? 縁先生は気付いていたのかにゃ?」
地獄谷は顔を袖で拭いて縁を見上げた。
「これでも――って、皆さん顔を上げて下さい、俺はそこまでされる神じゃないんです、位も低いですし」
縁が困った顔をして立ち上がる事をうながした。
土下座していた者達は次々と立ち上がる。
「にゃ、縁先生、聞いた話だけど……結び先生との結婚式を準備しているとか」
「ああ」
「ならこの里はピッタリだにゃ、衣装はお任せだにゃ、
「うむ、そういう事なら我が里は応援出来る……しかし対価となり――」
「里長、私は私なりにこの里を見て来たにゃ、皆が作る結婚式の衣装を着ていた人達は笑顔だったにゃ、この価値がわからない先生じゃないにゃ」
「もちろんだ……色々とおまけ付きにしないと割に合わない」
縁はカバンから紙袋を出した、それは以前自分の生徒達に渡した、カミホンが入った物だ。
地獄谷に差し出すと中身を確認し始めた。
「にゃ? スマホ?」
「これは神が作ったスマホだからカミホンという」
「な、何か凄いアイテムが出て来たにゃ」
「何かあったらこれで連絡をくれ、説明書もちゃんとある」
「にゃ? 使用料金は?」
「安心しろタダだ、これ作った神が言っていた」
「にゃ、タダより高い物はないにゃ」
「安心しろ、神からの施しだ」
縁はウサミミカチューシャを外して、何時も通りの神様モードになるが。
何時も通りと違うのはその顔付きだった、縁らしからぬ威厳を放っていた。
「汝らの願いは、
その神々しさに里の者達は再び土下座をしそうになるが、縁が止めた。
その後は里の守りを相談して縁は、ガッキーン村へと帰るのだった。