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第六話 後説 ガチファンのお知らせ

 縁、結び、斬銀は一区切りついた所でロビーへと戻ってきた。


「お疲れ様2人共」

「お疲れ結びさん」

「おう、お疲れ」

「さ、今度は斬銀君のお願いを聞こうじゃないか」

「ああ、晩飯は奢るからよ何処で話す?」

「この間の居酒屋で話そう」

「ああ、わかった」


 ゲームからログアウトをして、長谷川と荒野原は斬摩と合流する。

 そしていつもの居酒屋に向かい、色々と注文をした。

 一通り品物が来たら本題に入る、斬摩のお願い事の話だ。


「さてさて斬摩さん、お願いとはなんぞや?」

「ああ、森山ボックスでは専属の配信者が居るんだ、夫婦でな」

「ほうほう、それて?」

「それぞれ個人では五周年、夫婦としては数か月だ」

「ははん? つまりはサプライズしたいと?」

「ああ、サプライズとして2人に協力してもらいたい」

「ふむ……え? 何で?」


 長谷川の素の反応が出た、当たり前の反応である。

 2人はゲーム内で少々有名でも、リアルでは一般人でタレントや芸能人ではない。


「ああ、旦那の方が縁のファン、奥さんが結びのファンだからだ」

「なんですと? 殺意マシマシな結びちゃんに?」

「縁のファン? え? 最近?」

「まあまあ百聞は一見に如かず、という事で動画を作ってきた」

「用意いいね、斬摩君」

「そりゃそうだ、説得は熱意だろ?」


 そういいながら斬摩はノートパソコンを取り出すと、荒野原がスッと手を挙げた。


「あ、待って、見るのはいいけど間違いなく多分私はうるさくなる」

「ん? どうしてだ?」

「旦那の素敵部分わかる人には共感したくなるから」

「なら迷惑かからん場所にするか?」

「ほっほっほ……女将さん~! ちょいといい~!?」


 女将がやってきたが、荒野原は酔って楽しくなっているのか両手を上げている。


「終ちゃんどうしたの?」

「ああ女将さん、ちょいとお願いがあってさ」

「あら何かしら」

「これからちょいと企画為に動画を見るんだけど、間違いなく私がうるさくなるからさ、他のお客さんに2000円位のおだいじんを」

「あら! そういう事ならお店から出すわよ」

「え? いやいやそれは悪いんじゃ」

「何言ってるの終ちゃん、ガチ常連の人だからこそよ」

「いや~何かわるいね~」


 本来のおだいじんは、店の一番高い物をお客に振る舞うという行為。

 とは言え2000円でも、見ず知らずの他人に出すのは大金だろう。 

 店から出すと聞いた長谷川は、すかさずメニューを見る。


「女将さん、このシロウサギっていう焼酎をボトルでお願いします」

「ほら旦那さんも……あ、まだ彼氏さんか、毎回こうやって高い物頼むしー少々うるさいくらいで文句言わないわよ」

「長谷川君、お財布のひもゆるくない?」

「良き縁の為の投資だよ」

「おおう~かっちょいい~」


 という訳で、少々うるさくしてもいい許可を取った。

 長谷川が頼んだシロウサギを3人で軽く嗜んだ。

 そしていよいよ動画を見る時が来た。


「斬摩さん、俺の……いや、縁のファンてどんな人なんです?」

「うむ、配信活動の名前はシラサバって名前でしている」

「ほほう? んじゃそのシラサバさんから見てみようじゃないの~」

「よし……ほれ動画だ、一番分かりやすかったのはお前が斬銀と戦ったシーンだった」

「ほっほっほ、名シ~ンじゃないか! げっへっへっへ……」


 斬摩は2人の前にパソコンを置いた、停止している動画が開いている。

 画面にはゲーミングチェアに座っている男性と、いかにも配信者の部屋といった映像。

 そして画面の左上に縁達のロールが映っていた、自分のリスナーと同時視聴をしているようだ。


『待ってくれ!? 今までのロールで無双な雰囲気を出していたスファーリアさんが!? 斬銀さんは明確に敵だ!』

「開幕テンションが高いね~」

「だな、落ち着いてくれ」


 場面はスファーリアが斬銀にやられたシーン、そして縁が自分の気持ちに気付いた所だ。


『縁さんと斬銀さんが戦う事になるのか!? これは――』


 シラサバは過去に縁と斬銀が戦った時の話をした、だがその説明が長かったのか4倍速で流れている。


「4倍速で縁と斬銀の事を話しているんだね~」

「細かく語れるって事は本当縁のファンだな」

『それ以来じゃないか!? だが待ってくれ! 縁さんは神封じの盆踊りで動けない!』


 場面は斬銀の攻撃で縁が動けなくなった所だ、シラサバはまさに手に汗を握っている。

 だが次のシーンで限界を突破してしまった、そう運命が動いたあのシーンだ。

 縁がスファーリアに告白したシーンだ、荒野原は嬉しそうに見ている。


『うおおおおおぉぉぉぉおおおぉぉぉ!? あの縁さんが告白した!? なんじゃこりゃああぁぁぁあぁぁ! 情報過多だ、とりあえず落ち着こう』

「え? すげぇ失礼じゃないか?」

「そうかな? この時の私もドキドキだったよ? まさかリアルより先にゲーム内で言ってくるかと」

「すまんな、縁なのに中身の気持ちが爆発してしまった」

「ほっほっほ、魂の叫びは何回聞いてもいいねぇ」

『ぎゃあああぁぁあああああ! 縁さんが死んだ!? いや、神様だから死なないのか! でもこの場で誰か助けに来るのか!? どうなるんだ!? ああ! 斬銀がスファーリアさん達に近寄っていく! ぐわわわわわわわ! 誰か! 誰か居ないのか!? 俺の心を救ってくれ! いや! スファーリアさん達を救ってくれ!』

「本当にこの人テンション高いね、なんつーか分かりやすいオタクというか」

「いやいや、悪い気はしないよ? 本気で感情移入してくれてありがたいな」

『何!? スファーリアさんが祈る!? な、何を!? ……なんですとおおおおぉおおおおぉ!? 告白に答えたぁ! こ、これは!? なるほど! わかりましたよ! 神の力は――』


 動画のシーンは縁の告白にスファーリアが答えた所だ。

 そして今度は8倍速で、縁という神に付いて新設丁寧に解説しているようだ。

 さらに等速に戻った時、自作したであろううちわとペンライトを取り出した。

 これでもかという位本気で振っていて、顔付きが鬼気迫っている。


『縁さんここで立ち上がってくれ! 斬銀さんは本気だ! 縁結びの神の意地の見せ所やろおおぉぉぉぉぉぉぉお!』

「あらあらまあまあ、これは縁君立ち上がらないと」

「……ここまで応援されるとちょっと恥ずかしくなってきた」

「はっはっ――」

『っしゃーーーー! 俺の縁――いやいや違う違う落ち着け! これは彼女の気持ちに答えた神の姿か!? とりあえずここからが勝負よ!』

「本当にガチ勢だね~一喜一憂というか」

「ふむ……これ俺がサプライズして大――」

『なんと!? 縁さんが界牙流!? 斬銀さんの言う通り付け焼き刃でどうにかなるのか!? い、いや! そ、そうか! 界牙流ただの蹴りは、元は二代目の必殺技! それは単純明快な効果! 自分の想いを相手にぶつけるだ! 行けるぜ縁さん!』


 動画はいよいよ大詰めだ、縁が斬銀に対して界牙流ただの蹴りをしたシーン。

 魂の一撃を放った名シーンである、荒野原は画面を見ながら親指を立てていた。


『ああ! 斬銀さんがめっちゃいい笑顔だぞ! あー……斬銀さんから見れば親友の成長を感じたのか、何つーか、家族以外に信用出来る人が出来たのかというか……自分以外にもできたっつーか……いや、俺の予想だけどさ』

「あ、これ私も聞きたい、斬銀君の心境はどんなのだったの?」

「ああ、血生臭い考えしかしなかった奴が、愛を叫ぶ人と出会えたかとな」

「もう親じゃん」

「まあある意味ではそうなのかもな」

『あー……情報過多だった、今回は過去で一番の情報だったぜ』


 そんなこんなで動画は終わった、長谷川は何とも言えない顔をしている

 これは自分のキャラクターで一喜一憂するファンに困惑しているのだろう。

 対して荒野原はとても満足していた、お前わかっているなといった顔をしている。


「とまあシラサバに関してはこんな感じだ」

「……縁にここまで狂喜乱舞するとは」

「全身全霊の好意は嬉しいね~」

「とりあえず相方さんの方を見てみようよ」


 そう動画はまだ一本目、旦那がこれなら奥さんはどうなるのだろうか?

 とりあえず小休憩という事で雑談をしながら飲み食いをすることにした。

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