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第六話 幕切れ 昔を思い出す

 宇賀身立うがみたちはお茶を飲みながら怒り続けている。

 余程地獄谷を襲った十二支が気にくわないのだろう。

 十二支という組織は一つ、派閥やグループがいくらあろうが一つ。

 つまりは今回の縁の様に、何かあったら相談する者が居るのだろう。

 宇賀身立や海渡は元十二支、常日頃そういった苦労があるのかもしれない。


「小物じゃ小物、神の威厳も無い」

「たっちゃん本当にご立腹だねぇ」

「当たり前じゃ! 小物の共め……」

「にゃ、ずっと同じ事を言ってるにゃ」

「それはそうじゃ、最悪小物が犬の神の他に11神居るんじゃぞ!」

「それ宇賀身立様から見れば小物にゃ」

「……すまなかった、花ちゃんには脅威じゃな」

「にゃ」


 宇賀身立はお茶を一気にすすると、地獄谷の方を見た。

 舌をちろちろと出してまるで獲物を見つけた様に近寄る。

 地獄谷は特に警戒することも無く宇賀身立を見ていた。


「さて、じゃはそれよりも気になっている事がある」

「にゃ、一人称が『じゃ』だにゃ」

「何を言う、猫も一人称がニャーの者も居るだろう」

「あ、確かに、ごめんなさいにゃ」

「まあよい、それよりもじゃ、お主から良き財の気配がする」

「にゃ? 財? あ、両親が商売しているにゃ、マタタビ使った商品にゃ」

「ほほう、ちと興味がある、紹介してくれないか?」

「でも何処に居るにゃ?」

「ああ、ご両親なら第13応接室で部下と今後の話をしているよ」

「そうかそうか、花ちゃん、じゃと一緒に行こうではないか」

「にゃ? 場所知らないにゃ」

「じゃが知っておる、ちと肩に乗っていいかの?」

「にゃ?」


 宇賀身立はポンと音を立てて、手のひらサイズの小ささになった。

 地獄谷はミニ宇賀身立を手ですくい、自分の肩に乗せる。


「さ、移動じゃ」

「にゃ」


 地獄谷達は部屋から出で行った時、海渡と縁の表情が変わった。

 まさにここからが本当の話し合いの開始と言わんばかりに。


「少々強引だが、たっちゃんが地獄谷ちゃんを誘導してくれたようじゃ」

「本人も気付いているでしょうね、これから先は踏み込んでいけないと」

「さて縁、今回の騒動はちと見逃せんぞ?」

「はい、敵の意図はわかりませんが……冤罪で地獄に落とした猫の一族を襲った事ですね」

「ああ、過去はそれでかなり荒れたんじゃ、ネズミを除いた十二支も被害者じゃな」

「それを言えばネズミの子孫も大変ですよね」

「うむ、今は時々冗談でいじられてると聞くが……」

「今回のは謝って済む問題を超えてますよ、明らかに敵意も持っていました」

「そうか……」


 海渡は一段と厳い顔付きをして縁を見てニヤリと笑う。


「縁、十二支の老人組にはワシが話をしておく、お主は好きにしなさい」

「え?」

「はっはっは! ワシに見抜けぬと思ったか?」

「……ええ、昔を思い出しまして」

「隠す事は無いぞ? 昔みたく振る舞え? 縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけしろうさぎのかみえにし

「自分の正義を証明するなら、俺が身の丈を亡ぼす幸せをくれてやる、相手が神なら遠慮はいらんだろう、そしてそれを崇める奴らもだ」


 縁は普段は見せない明確な殺意をあらわにした、今回の地獄谷の件は完全に被害者なのだ。

 神に何かされる理由が無い、人の世で悪さをしていたとしても、それは人の世の基準で裁かれるべき。

 縁は昔の出来事を地獄谷に重ねていた、妹が不幸の神だからといって殺しにかかった人間達の事を。

 平和に暮らしていた地獄谷一家に中指を立てた奴らが居る。

 縁から見れば良き縁を滅ぼす輩でしかない。


「ワシは応援するぞ」

「止めないんですか?」

「昔は人間相手に戦争起こしたからな? 他の神が嫌な顔をしたが今回は違う、神が相手でおまけで人の世の者達が付いてくるだけだ」

「十二支に挑戦する位の低い神ですか」

「ま、筋書きとしてはそんなもんじゃろ」

「……安易な気がしますがね」

「はっはっは! 威張るならちゃんと実力があって威張れるんじゃよ? このワシの様にな」

「……」


 縁は海渡の底知れぬ自分との差を感じていた。

 昔自分がした戦争、その時確かに色々な神に何かを言われた。

 海渡はその時擁護してくれたのだが、今は違うと感じている。

 あの時は子供だったから許された、今また同じ事をすると間違いなくこの神を敵に回す。

 縁は落ち着く為に深呼吸をして言葉を吐いた。 


「今回の神は……昔の自分見てるようでイライラんだろうなぁ、こう暴れ方を知らないというか……なんというか」

「それは縁ちゃんも大人になったという事じゃな」

「気を付けます、敵を見誤らないように」

「ほっほっほ、信用出来る伴侶がいるのではないか?」

「ああ……俺より殺意高い気がする」

「そうかの? まあ縁の名に恥じぬ行動をしなさい」

「はい」


 縁のカバンからピコンと音が鳴った。

 カバンから神のスマホであるカミホンを取り出す。

 結びからの連絡で、シーナと共同授業をすることになったとの連絡が来た。


「そろそろ学園に帰らなきゃ」

「そうか、地獄谷ちゃん達はワシが責任を持って保護するよ」

「海渡様、地獄谷さんの担任をここに来させます」

「ふむ、話は通してたほうがいいな、名は?」

「サンディですよ、昔俺と一緒に修行していた」

「おお、シーナか!? 不思議な縁もあるもんじゃ」

「ではこれで失礼します」

「ああ」


 縁は桜野学園の演習場に戻ってきた、連絡があった通りシーナと生徒達が居る。

 斬銀は生徒達にアドバイスをしている、天空原はシーナと手合わせをしているようだ。

 薄っすらと青い闘気の様なモノをまとっているのが見える。

 おそらく無理のない範囲で禁術を使用しているのだろう。

 戻ってきた縁に風月が話しかけてきた。 


「ほいほいお帰り、随分と時間がかかったね」

「サンディのクラスと合同にしたの?」

「そそ、シーナ先生はものまねで色々な技使えるじゃん?」

「ああ、禁術までまねできるな、まねの範囲超えてるが」

「つまりは制御に関してはピカイチだと思ってね」

「なるほど」

「で、何をしてたのさ」

「ああ、地獄谷さんが襲われた、十二支にな」

「十二支って神の? 穏やかじゃないね~」


 天空原の耳が動き、驚いた顔をしながら縁の方を向いた。

 思いっ切りよそ見をしている天空原に、シーナはデコピンをする。

 軽いうめき声を上げて天空原は痛がっていた。


「……す、すみませんシーナ先生」

「いやいいよ、少し休憩にしよう、身に入いらんだろ」

「すみません」


 シーナと天空原は縁に近寄って来る。


「縁先生、何があったんですか?」

「説明するよ」


 縁は先ほどの出来事を簡単に説明をした、天空原の顔が話が進むにつれて曇っていく。

 その顔は今の自分では逆立ちしても、地獄谷の助けにはならない事。

 縁や結びの様な強さが無いと、大切な者は守れないと悟っている様な顔をしている。


「……そんな事が」

「天空原君、私なりの助言を君にあげよう」

「結び先生助言ですか?」

「そうそう君は今、地獄谷さんの力になれなくて悔しいかい?」

「はい、もちろんです」

「じゃあ今は未来に投資だね」

「未来に?」

「そそ、私や縁が君達を守るのは学生だからね、ここ卒業したら守らないよ」

「なるほど……それまでに力を付けろと」

「そうそう~それもあるけど、私が言いたいのは戦う力だけじゃダメだよ?」

「え? ……あ、そうか、普通に生活する力も必要って事ですか?」

「ちゃんと人並みの生活を見につけなゃ」


 確かに脅威から大切な人を守る力は大切だ、だがそれは何も戦う力だけではない。

 生きていくには、ある程度の色々な力が必要になってくる。


「確かにそうですね」

「だから君は学生らしい事してな? 地獄谷をデートに誘ったりね~」

「い、いや……それはまだ……」


 天空原と地獄谷の関係はほぼ学園に知れ渡っている。

 地獄谷のあの魂の叫びを聞いて知らない人物は居ないだろう。

 だが正式に恋人同士という訳ではないようだ。

 つまりは、はよ付き合え状態である。

 そんな感じで授業が終わったのだった。

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