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第六話 演目 身の丈の幸せを守る幸運の神

「先に言っとくがな? 下手な事を喋ると痛い目にあうぞ? 考えろよ?」


 今縁は犬の神を這いつくばわせている、この神の失敗は自分の力を過信した事。

 そして何より、縁の実力を見極めなかった事だ。

 傍からみれば十二支の神が、名もない神に負けている構図になる。

 これからわかる事は、位が低くても強い奴は強いという事だ。


「あ、あの……縁様、お、落ち着いてにゃ」

「今俺の神社は復興中でな? 色々あって神社が無いんだ……それと先生でいいよ」


 以前、ジャスティスジャッジメント関連で縁の神社は壊れた。

 主犯の3人のうち2人は死んだ、生き残った若者は叢雲。

 叢雲は死にたいが為に神社を壊す計画をした。

 縁は理由を聞いて許したという経緯がある。


「今の状態に感謝だ」

「……も、もしかして、何か約束した神社にゃ?」

「ああ、神社を建てるから怒りを鎮めてくれとな」

「じゃ、じゃあ……神社が無い今って!?」


 縁の神社はその昔、人の世で暴れ回っていた時に斬銀が建てた。

 社を建てる事で斬銀は縁と約束したのだ。

 人の世で暴れる事はしないで、半分人なのだから人として生きろ。

 その神社が無いという事は、神として暴れてもいい。

 そして地獄谷は本能的に感じていた、絶対にこの神は怒らせてはいけないと。


「まあそんな話は置いといて、おい、何の様だって聞いてんだよ」


 縁は犬の神の髪の毛を掴んで持ち上げた。

 悔しそうにする犬の神だったが、最後の抵抗か縁の顔は見ていない。

 縁は軽くため息をした後に手を離した、また這いつくばった犬の神だった。


「何度も言うが言葉には気を付けろよ? お前の今の一言で……神々の戦争が起こるからな?」

「にゃ! 神々の戦争ってどういう事にゃ?」

「凄く簡単な事だよ? 合法的に殺し合いという名の、遊びが出来るんだ」

「こ、殺し合いが遊びにゃ!?」

「神は基本的には死なない、細かく言えば違うがそこは今は置いておこう」

「にゃ、確かに信仰心が高い神は直ぐに復活するにゃ」

「で、遊びには場所が必要だな? でも自分達の家を壊したり燃やしたりする奴は居ないよな?」

「……にゃ!? ま、まさか人の世で戦うにゃ!?」

「ああ、多分都合のいい様に神様は信者達に言うかもな? どこどこの神が私に戦争を仕掛けて来た、信仰心を見せろとかな?」

「ひ、人の世を何だと思ってるにゃ……」

「ま、全てはコイツ次第だよ……俺は今難癖つけて戦争出来るんだ」


 地獄谷は後退りをしてしまった、今の縁が恐ろしいからだ。

 学校の時はちょっと優男……というか、恋人が殺意高い分まともだと感じていた。

 だがその認識は間違っていた、人の世に合わせていただけ。

 今目の前居るのは、人としてではなく神としての縁。

 心の何処かでちょっとだけ安心していたのだろう、この人はまともだと。


「で、地獄谷さん? 君の一族は十二支の競争に負けたのだろう?」

「にゃ、にゃ……ねずみに騙されたと聞いてるにゃ、それで冤罪で地獄に落とされたらしいにゃ、でも物凄い昔だにゃ」

「ふむ」

「でもその事は冤罪だったと今は知られてるし、両親も地獄で普通に暮らしてるにゃ」

「つまり……こいつは解決した事に難癖付けてる神って事になるな? 更に? 平和に暮らしてる地獄谷さんを脅かそうとしている……と?」


 縁は犬の神の首を鷲掴みした、更に苦しそうにしている。

 もはや敵意は無い、だが何も言わないという事は、好き勝手されても文句は言えない。

 何故なら縁は喋るなら言葉を選べと言った、喋るなとは言っていない。

 三下の様にへつらう訳でもなく、偉そうに命令するわけでもない。

 おそらくプライドが許さないのだろう、つまりは戦い慣れていない証拠だ。

 人と本気で殺し合いをし、時には他の神と戦った縁が若い神に負ける訳がない。


「どうした? お前はお前の信念を貫け? もしくは謝罪でもするか?」

「ぐっぎぎぎ……こ、こんな奴が居るとは……聞いて……」

「時間切れだ」


 縁は笑っていた、普段は絶対見せない暗い笑み。

 いや、神だから好き勝手しても許される、そんな顔をしていた。


縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけうさぎのかみえにし! 我が名に誓い、身丈に合わぬ幸せを求める者に……力量にあった幸せをかみしめさせてやる、これは宣戦布告だ」

「ぐあ!」


 縁は犬の神を思いっ切り地面に叩きつけた。

 結果、頭から地面に激突して深さは足首まで埋まっている。

 そして心底楽しそうに笑う縁に、地獄谷は更なる恐怖を感じていた。

 それと同時に絶対にこの神を怒らせないと、肝に銘じたのだった。


「地獄谷さん」

「にゃ!? 何でしょうか?」


 恐怖のあまり更に縁から離れる地獄谷に対して、縁は何時も通りの顔で話しかけた。


「急な話だが君のご両親にこの話はしておいた方がいい、危害を加えられる可能性がある」

「た、確かに……あ、でも……喧嘩して家出して……」

「四の五の言っている時じゃない、相手は十二支だぞ? 両親は見捨てるほど嫌いかい?」

「そんな訳ないにゃ! 家出も私のわがままにゃ! ……確かに四の五の言ってられないかもしれないにゃ!」


 覚悟を決めた顔をした地獄谷、今まで感じていた恐怖を振り払い強い目をして縁を見る。

 家出の原因は定かではないが、身の危険を知らせるほどならばまだ関係の修復はできるだろう。 


「案内するにゃ! 縁先生、私と握手して! 実家に転移するにゃ」

「ああ」


 縁は地獄谷と手をつないだ、一瞬にして2人は消えた。

 十二支の神の突然の襲来、理由はともかく今は地獄谷の両親の元へ。

 犬の神を含め、襲撃者はまだ気絶している。

 この者達は身丈に合う選択をしなかったから、こうなったのだろう。

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