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第六話 演目 位よりも力の差

 縁がたどり着いたのはある程度の大きい橋の下、言わば河川敷にやってきた。

 ここが何処の場所とかは今はいい、何故ならば――

 地獄谷が武器を持った男達に襲われていたからだ。


 だが、結びの攻撃を10秒を耐えた地獄谷だ。

 怪我はしていないようだ、そしておそらくは逃げ切れなかったのだろう。

 地獄谷は戦うよりも逃げる選択肢をした、あからさまな犯罪者からは逃げる、当たり前だ。 


「間に合ったかな?」

「にゃ!? 先生!?」


 縁は男達と地獄谷の間に現れた、もちろんやる事は決まっている。  


「へっ! どんな奴が来たか――」

「うべぇ!」

「けべび!」 


 さっさと無力化する事だ、縁はいとも簡単に気絶させた。

 方法がどうとか、相手がとはかいらない。

 生徒の安全の確保が最優先だからだ。


「まあ……こんなもんだよな」

「……先生のクラスって――」


 その時、地獄谷目掛けて放たれた矢があった。

 もちろん――そんな物に当たる彼女ではない。


「にゃはははは! 油断大敵はこの間死ぬ思いをして理解したにゃ」


 地獄谷おちょくりながらよける、そして現れたのは狩人の衣服を身にまとった犬の亜人だった。

 身体や顔は犬だが、手や足は人と同じ形をしている。

 そして偉そうなオーラを放っていた、縁はとりあえず話しかけた。


「貴方、神ですね?」

「そうだ、これは神同士の揉め事だ、控えろ低能な神め」

「おお? 神を引き合いに出したな?」

「……あ、これヤバいパターンだゃ」


 地獄谷は悟った、クラスメイトや絆から、縁や結びの話は聞いている。


『お兄様は普段は落ち着てますけど、隙あらば暴れようとするので……困ったお兄様です』


 同時に地獄谷が思った事は、この犬の神は実力差がわかっていないという事。

 いや、気付いているのかもしれないが、妙に落ち着いているのが気になった。

 そんな事を考えていると、縁はウサミミカチューシャを外して神様モードになる。


「で、うちの生徒に何の様だ?」

「ふっ、低俗な神の出番では無い」

「ほー随分と偉そうじゃねーか」

「当たり前だ、私は干支の神だぞ」

「ぶぐっ! だははははははははははは!」


 縁は大笑いをした、本当に面白そうに手を叩いている。

 地獄谷にはその本気の笑いが怖かった。

 彼女が感じた事、それは『謝っても許してもらえない』と直感で感じ取ったのだ。


「お前若い神だな? いやいやいや、面白い面白いよ? 地獄谷さん、俺が何を笑ったか――」

「さっさと何処かに行け低俗!」

「這いつくばれクソ犬、そして喋るな」

「にゃ!?」


 犬の神はまるで、おすわりしている様に這いつくばった。 

 地獄谷の予想は当たっていた、実力では縁が上。

 何故相手が落ち着いていたのかを考えてようとした時、縁が答えを言った。


「で、地獄谷さん、何を笑っていたかというとな? 近しい例えで言うなら……大企業の社長が同業他社の小さい会社の社長に、俺は大企業の社長で偉いんだぞ!? とか言ってたら爆笑じゃないか?」


 縁は笑いながらそう言った、まるで普段の鬱憤うっぷんを晴らすように、早口で喋り始めた。

 地獄谷は困惑しつつも返答をした、縁の笑いに驚きつつも。 


「にゃ、つまりは抑止力にはならないにゃ」

「そうそう何の抑止力にもならない、地獄谷さん交渉って何が必要だとおもう?」

「そりゃ物だったり、暴力で脅したりにゃ」

「うむ、干支の神様が無様に這いつくばっている理由はわかるかな?」

「単純にゃ、縁先生の方が信仰心が高いからにゃ、つはりは力関係が明確だにゃ」

「おお」

「相手の実力を知るのは……この間嫌というほどわかったにゃ」


 少々この間の結びとの手合わせは、彼女の心にダメージを追わしてしまったようだ。

 しかしそれがあったからこそ、相手の力量を知る大切さを知ったのだ。


「地獄谷さん、ここからは神としての授業だ、今日は喧嘩の売り方……かな?」

「……にゃ、先生、私をダシにして普段隠している部分を出すつもりにゃ」

「はっはっは! 君と同じだよ地獄谷さん……いや、地獄花木天蓼じごくばなもくてんりょう

「にゃ」


 神の名で呼ばれた地獄谷は姿勢を正した。


「人の世で悪事を働くとも、神の力は使わなかっただろ?」

「実は両親に封印されてただけにゃ」

「そうか……良かったじゃないか、ご両親に感謝した方がいい、目の前のコイツみたく惨めな姿になってたぞ?」

「……否定できないにゃ」


 以前の自分だったら間違いなくそうなっていた。

 地獄谷は経緯はどうであれ、心の中で痛い目にあった事に感謝をする。

 縁は這いつくばっている犬の神に近寄る。


「で? 俺の友、地獄花木天蓼に何の様だ?」

「にゃ!? 先生!? いや、縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけうさぎのかみえにし様!?」

「ん? 何を驚いている? お前からは良き縁を招く力を感じるが?」

「にゃ……そうじゃなくて、何で友と? 恐れ多いにゃ」


 神としても明らかに実力の差がある、自分を友と呼ぶ縁の考えが理解出来ずに混乱していた。


「んん? 不思議な事か? 確かに人の世では生徒と先生かもしれない、が、神としては友と呼んでもいいだろう?」

「位が違い過ぎるにゃ」

「地獄花木天蓼、神の世界には色々な力の示し方があるが……位ばかり高くても、結局はこのクソ犬の様に這いつくばる事になる」

「にゃ、私は力も無いにゃ」

「ふむ……では我神社に社を建てよう、末社をな」

「うえええぇええええええぇ!?」


 人の世に社を建てる事、それは神のステータスの一つだ。

 簡単に言えば、社を建てられるほどの神という事。

 人から見て、善でも悪でも何かしらの功績ずあるという事。

 そして神の力、信仰心が比較的簡単に手に入りやすい。

 崇められるかはまた別の問題だが。


「落ち着け、考えてみろ? 今後こういう輩が絡んで来た時に、いつもいつも俺が助けれると思うか?」

「……た、確かににゃ」

「で、悪い奴はほとんどが第三者を襲おうとするぞ? 家族とか恋人とか」

「にゃ!?」


 縁の言葉を聞いてハッとした、その通りだからだ。

 襲撃者が自分以外を襲う可能性が頭を駆け巡った。

 地獄谷は歯をむき出しにして犬の神を見下ろす。


「……私の天空原や家族に手を出したらぶっ殺す」


 自然と出たその言葉、数秒して地獄谷は慌てふためく。


「にゃ! これじゃあただの重い女の子にゃ! ま、まだ彼女でもないのに! あ! 父上と母上とも仲直りしていないにゃ!」

「よしよし、目標が決まった所で」


 可愛い教え子を見る様な目をした後、這いつくばっている犬の神を見る。

 そして――


「待たせたな干支の神、もう一度聞くぞ? 俺の友達に何の様だ?」


 縁は犬の神の顔面すれすれの地面を踏んだ。

 犬の神に出来る事は、弁明しかないだろう。

 それを聞く縁とは思えないが。

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