縁がたどり着いたのはある程度の大きい橋の下、言わば河川敷にやってきた。
ここが何処の場所とかは今はいい、何故ならば――
地獄谷が武器を持った男達に襲われていたからだ。
だが、結びの攻撃を10秒を耐えた地獄谷だ。
怪我はしていないようだ、そしておそらくは逃げ切れなかったのだろう。
地獄谷は戦うよりも逃げる選択肢をした、あからさまな犯罪者からは逃げる、当たり前だ。
「間に合ったかな?」
「にゃ!? 先生!?」
縁は男達と地獄谷の間に現れた、もちろんやる事は決まっている。
「へっ! どんな奴が来たか――」
「うべぇ!」
「けべび!」
さっさと無力化する事だ、縁はいとも簡単に気絶させた。
方法がどうとか、相手がとはかいらない。
生徒の安全の確保が最優先だからだ。
「まあ……こんなもんだよな」
「……先生のクラスって――」
その時、地獄谷目掛けて放たれた矢があった。
もちろん――そんな物に当たる彼女ではない。
「にゃはははは! 油断大敵はこの間死ぬ思いをして理解したにゃ」
地獄谷おちょくりながらよける、そして現れたのは狩人の衣服を身にまとった犬の亜人だった。
身体や顔は犬だが、手や足は人と同じ形をしている。
そして偉そうなオーラを放っていた、縁はとりあえず話しかけた。
「貴方、神ですね?」
「そうだ、これは神同士の揉め事だ、控えろ低能な神め」
「おお? 神を引き合いに出したな?」
「……あ、これヤバいパターンだゃ」
地獄谷は悟った、クラスメイトや絆から、縁や結びの話は聞いている。
『お兄様は普段は落ち着てますけど、隙あらば暴れようとするので……困ったお兄様です』
同時に地獄谷が思った事は、この犬の神は実力差がわかっていないという事。
いや、気付いているのかもしれないが、妙に落ち着いているのが気になった。
そんな事を考えていると、縁はウサミミカチューシャを外して神様モードになる。
「で、うちの生徒に何の様だ?」
「ふっ、低俗な神の出番では無い」
「ほー随分と偉そうじゃねーか」
「当たり前だ、私は干支の神だぞ」
「ぶぐっ! だははははははははははは!」
縁は大笑いをした、本当に面白そうに手を叩いている。
地獄谷にはその本気の笑いが怖かった。
彼女が感じた事、それは『謝っても許してもらえない』と直感で感じ取ったのだ。
「お前若い神だな? いやいやいや、面白い面白いよ? 地獄谷さん、俺が何を笑ったか――」
「さっさと何処かに行け低俗!」
「這いつくばれクソ犬、そして喋るな」
「にゃ!?」
犬の神はまるで、おすわりしている様に這いつくばった。
地獄谷の予想は当たっていた、実力では縁が上。
何故相手が落ち着いていたのかを考えてようとした時、縁が答えを言った。
「で、地獄谷さん、何を笑っていたかというとな? 近しい例えで言うなら……大企業の社長が同業他社の小さい会社の社長に、俺は大企業の社長で偉いんだぞ!? とか言ってたら爆笑じゃないか?」
縁は笑いながらそう言った、まるで普段の
地獄谷は困惑しつつも返答をした、縁の笑いに驚きつつも。
「にゃ、つまりは抑止力にはならないにゃ」
「そうそう何の抑止力にもならない、地獄谷さん交渉って何が必要だとおもう?」
「そりゃ物だったり、暴力で脅したりにゃ」
「うむ、干支の神様が無様に這いつくばっている理由はわかるかな?」
「単純にゃ、縁先生の方が信仰心が高いからにゃ、つはりは力関係が明確だにゃ」
「おお」
「相手の実力を知るのは……この間嫌というほどわかったにゃ」
少々この間の結びとの手合わせは、彼女の心にダメージを追わしてしまったようだ。
しかしそれがあったからこそ、相手の力量を知る大切さを知ったのだ。
「地獄谷さん、ここからは神としての授業だ、今日は喧嘩の売り方……かな?」
「……にゃ、先生、私をダシにして普段隠している部分を出すつもりにゃ」
「はっはっは! 君と同じだよ地獄谷さん……いや、
「にゃ」
神の名で呼ばれた地獄谷は姿勢を正した。
「人の世で悪事を働くとも、神の力は使わなかっただろ?」
「実は両親に封印されてただけにゃ」
「そうか……良かったじゃないか、ご両親に感謝した方がいい、目の前のコイツみたく惨めな姿になってたぞ?」
「……否定できないにゃ」
以前の自分だったら間違いなくそうなっていた。
地獄谷は経緯はどうであれ、心の中で痛い目にあった事に感謝をする。
縁は這いつくばっている犬の神に近寄る。
「で? 俺の友、地獄花木天蓼に何の様だ?」
「にゃ!? 先生!? いや、
「ん? 何を驚いている? お前からは良き縁を招く力を感じるが?」
「にゃ……そうじゃなくて、何で友と? 恐れ多いにゃ」
神としても明らかに実力の差がある、自分を友と呼ぶ縁の考えが理解出来ずに混乱していた。
「んん? 不思議な事か? 確かに人の世では生徒と先生かもしれない、が、神としては友と呼んでもいいだろう?」
「位が違い過ぎるにゃ」
「地獄花木天蓼、神の世界には色々な力の示し方があるが……位ばかり高くても、結局はこのクソ犬の様に這いつくばる事になる」
「にゃ、私は力も無いにゃ」
「ふむ……では我神社に社を建てよう、末社をな」
「うえええぇええええええぇ!?」
人の世に社を建てる事、それは神のステータスの一つだ。
簡単に言えば、社を建てられるほどの神という事。
人から見て、善でも悪でも何かしらの功績ずあるという事。
そして神の力、信仰心が比較的簡単に手に入りやすい。
崇められるかはまた別の問題だが。
「落ち着け、考えてみろ? 今後こういう輩が絡んで来た時に、いつもいつも俺が助けれると思うか?」
「……た、確かににゃ」
「で、悪い奴はほとんどが第三者を襲おうとするぞ? 家族とか恋人とか」
「にゃ!?」
縁の言葉を聞いてハッとした、その通りだからだ。
襲撃者が自分以外を襲う可能性が頭を駆け巡った。
地獄谷は歯をむき出しにして犬の神を見下ろす。
「……私の天空原や家族に手を出したらぶっ殺す」
自然と出たその言葉、数秒して地獄谷は慌てふためく。
「にゃ! これじゃあただの重い女の子にゃ! ま、まだ彼女でもないのに! あ! 父上と母上とも仲直りしていないにゃ!」
「よしよし、目標が決まった所で」
可愛い教え子を見る様な目をした後、這いつくばっている犬の神を見る。
そして――
「待たせたな干支の神、もう一度聞くぞ? 俺の友達に何の様だ?」
縁は犬の神の顔面すれすれの地面を踏んだ。
犬の神に出来る事は、弁明しかないだろう。
それを聞く縁とは思えないが。