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第六話 幕開き 久しぶりの斬銀先生

 桜野学園の演習場に、縁、結び、天空原が居る。

 今日の授業は天空原の禁術についての解説。

 天空原もふんわりとしかわかっていないようだ。

 そこで一度ちゃんと調べて、今後に役立てるという訳だ。


「あの風月先生、今日の授業は俺だけですか?」

「おうよ」

「他の人達は?」

「ふむ、絆は神としての業務、一本槍は日帰り旅、未来は占い師の仕事、ツレは死神の仕事、石田夫妻は老人会の集まりだな、」

「えぇ……なんていうか、大学……とは違うか?」

「まあ何をしたかはレポートを提出させているからな」

「なるほど? 大学の様な感じなんですね?」

「まあそれに近しいか、基本的な事は皆出来ているからな」

「……何で俺はこのクラスに?」 

「それは今は置いといて、君の禁術に付いて聞きたい」

「と言っても、巻物を渡されたんです」

「渡された?」

「はい、地獄谷を守る力が欲しかった時に、現れた老婆の姿をした人でした」

「他に特徴は?」

「なんかみすぼらしかったんですが、神々しく感じたような?」


 その言葉を聞いて縁の眉がピクリと動いた。


「天空原君、もしかして笑い声が独特じゃなかったか?」

「ああはい確か……さいさいさいと笑ってましたね」

「そいつの正体は神だ」

「え? 神ですか?」

「ああ、おそらく才能神……|先導一歩«せんどういっぽ»様だ」

「どんな神様なの縁君」

「ああ……とても困った神様だよ、善悪倫理観は置いといて才能のある奴に何かを渡す、最近は大人しくしていると思ったが……」

「あ」


 天空原は何かに気付いた様に縁を見た、その目は答えにたどり着いた様な目をしている。


「どうした天空原君?」

「その人……いや神様か、その神様に『お前は縁によって救われる』って、巡り巡って私に感謝する時が来る……と」

「それって縁君なのか、人との縁なのかわからない言い方だね~」

「まあ神の国で先生をしている神様だ、おそらく俺の事だろう、ちなみに教え子の才能を開花させる仕事をしていた」

「ほうほう」

「だが実力に見合わない才能を教えた、いや教える才能は間違ってはいないんだがな」

「あ~天空原見てればわかるわ、身体と心が出来上がってないのに、いきなり禁術は無いね」

「上司の神に怒られて反省したかと思ったが……」

「神様が怒られたくらいで改心するの?」

「無理だな、位が大きければ」

「でも、逆に言えば俺の心身ともに鍛えたら扱えるって事ですよね?」

「お、やる気満々だね、そこで特別講師を呼んだ」

「特別講師?」

「身体強化系なら一流の人だ」

「やっと俺の出番の様だな!」


 そう、現れたのは間違いなくぱっと見は変態。

 鍛え抜かれた鋼の身体、それを見せつける上半身は素肌。

 下半身は鉄の鎧なのだが、腰蓑こしのみに見えなくもない。

 斬銀が演習場に現れたのだ! 


「……何で上半身脱いでるんですか? 変――」

「その反応は正しい、だがこれは死んだ友との約束だ、細かく言えば少々違うが」

「失礼いたしました」

「一つ理不尽な事を言おうか? 『死んだ』と付け加えなかったら、お前は友もバカにしただろう」

「……確かに……いえ、そうですね、すみませんでした」

「一つ言っとくぞ? 安易な事を口にするな、死ぬぞ?」

「ああ……それはこの間、いやというほど理解しました」

「そりゃ災難だ……ま、下手に口を出さない事だ色々な、特に戦闘中」

「はい」


 一見斬銀は理不尽な事を言っているようにも見える。

 だが例えば王様と謁見する時、王冠ではなくハゲのカツラで鼻眼鏡をしていたら?

 その謁見がとても大切なもので、相手の機嫌を損ねたら?

 つまりは、初対面の相手に思った事を口にするな、ということだ。


「それは一度置いといて本題に行くぞ? お前の禁術はおそらく俺と同系統の禁術だ、ちょいと握手をしてくれ」

「あ、はい」


 握手をした2人、斬銀はうんうんと頷いてすぐに離した。


「なるほどわかった、お前さんの禁術は身体を鬼の様に変換させるな、んで見た目通りのパワータイプになるようだ」

「確かにそうですね、最初は驚きました……って、握手しただけでわかるんですか?」

「ああ、元魔法使いだからわかるんだよ、ちなみに俺は禁術の影響で筋肉が膨張するんだがな? 魔力とかで制御している」

「筋肉の膨張? ……ん? って事はその筋肉は今も膨張を?」

「そうだ、それを魔力で抑えている、だから魔法はほとんど使えないんだがな」

「……」

「でまあ話を進めて、大きな力には対価が必ず存在する、お前さんの対価だな」

「その対価とは?」


 天空原は息を吞む、今目の前のに居る人物は魔法使いでも一流だった人間。

 その人間が制御し続けて魔法が使えない身体になった、つまりはそれだけ対価が重いという事。

 自分はどんな対価があるのか、安易に禁術に手を出した事に今更後悔する。

 そして、斬銀の口から出た言葉は――


「徐々に慢心していく、簡単に言えば自分は負けないだな、で、どんどん鬼の姿になっていく」

「……それって最終的に鬼になるんですか? 創作物にある様な?」

「ああ、説明するならそれが早いか、簡単に言えば討伐されるような鬼になってたって事だ」

「……」

「結びに感謝するんだな、じゃなきゃいずれにしても死んでいるぞ? 物理的にも社会的にもな」


 死んでた、今ならわかるその言葉を天空原の心に響く。

 自分の力は地獄谷を守る為に手に入れた、そして裏で守り続けてきた。

 そして、自分では制御出来なくなっていくのに気付かない。

 地獄谷に何か言うな奴は俺が殺す、初めて縁達に出会った時に思った事だ。

 あの時の自分はとっくに壊れていた、方法は滅茶苦茶でも結びは自分を正気に戻した。

 天空原は結びの方を向いて頭を下げた。 


「風野音先生、ありがとうございました」

「ほっほっほ、お礼なら縁先生にしなさい? 貴方の恋心に価値があると判断して、助ける決断をしたのは彼だ」

「……縁先生、ありがとうございます」

「ああ、斬銀さん続きを頼む」

「……天空原、凄く簡単に言うけどな? 精神を鍛えたらお前さんはその力を自由に使える」

「え? 精神って簡単に鍛えられないじゃないですか」

「ああ、だから禁術の中では難しいかもな」

「えぇ……他にはどんな対価があるんです?」

「ふむ、簡単にだが――」

「ん?」


 縁は何かに気が付いて、目をつぶり集中した。


『誰か助けてにゃ! 何かよくわからない奴らにからまれてるにゃ!』


 何やら焦っている地獄谷の声が響いた、聞こえた理由は簡単だ、縁は彼女を神として救うと約束をした。

 過干渉にならないように、本当に危ない時だけ聞こえる様にしている。


「結びさん、ちょっと神としての責務を果たしてくる」

「ほい、行ってらっしゃい」


 結びは笑顔で軽く手を振ると、縁はその場から消えた。

 神の責務を果たしてくる、その場で理由を聞いたり言ったりしないのは、2人の共通認識が一致しているからだろう。

 一刻を争う可能性の時に、ベラベラ喋る奴は居ないと。

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