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第八話 演目 守る者と守られる者

 縁達は一本槍達の危機を察知してそこへ向かっている。

 その場所は舗装された街から街へ行く道、そこで一本槍は戦っていた。


「私の作ったトライアングルにお姉ちゃんの反応があった、私達は勝った!」

「ファリレントさん、最後まで油断は出来ません」

「……そうだった、演奏術奏者が最後まで心を乱してはダメ」


 ファリレントは笑顔から無表情に戻り、トライアングルビーダーを構えた。


「陸奥、お前は人間なんだから無理をするな」

「存在が消えかけているツレ君がそれを言いますか?」

「ハッ、末席の死神としてのせめてもの役目だよ」

「おそらくはあと少し……皆で持ちこたえましょう」


 一本槍は全身から血が流れ、右手に力が入らない状態で、全身が震えており、気合だけで立っている。

 ファリレントは血ではなく、身体から音楽に使う記号が血のように流れていた。

 ツレは怪我こそしていないが、夢幻のように消えかかっている。


「ハッ! ザコがピーピー何か言ってるが、そろそろ終わりにするか? よく持ちこたえた方だぜ?」


 一人の男が立っていた。

 縁がかつて太陽の花を見に行った時に現れた、異世界転生者のヤマトだった。

 しかし、その時の面影はあまりなく。

 黒い炎が身体を包み、禍々しい鎧と槍を持っていた。


「復讐の神が言っていた! お前らをいたぶれば奴が現れると! お前達の反応を見る限り奴が動きだしたのであろう?」


 ヤマトの発言を聞いた一本槍は、他の2人に目で合図をした。


「や、奴? それはいったい……?」

「ああん? ああ、自分達が何で殺されかけてるかか? 冥土の土産に教えてやるよ、お前らが俺をおとしいれた神の知り合いだからだ、奴は俺から全てを奪った!」

「神? 縁先生の事か?」

「ああそうそう、そんな名前だったな? 俺が自分の国を追い出された原因を作った奴は!」

「そ、そんなばかな! いったい何が、縁先生が他人を蹴落とすなんて」

「ん? さっきから聞いてれば縁先生? ははーん、お前ら奴らの生徒か? こいつは面白い!」


 ヤマトは手を叩いて大笑いを始めた。

 その時風が吹き始めた、ファリレントは俯いてニヤリと笑う。


「お姉ちゃんが……来る」


 ヤマトにバレないように笑っていたが、その顔は段々と泣き顔になっていき、すすり泣きをしだした。


「ああ? ああ、まあ泣きたい気持ちは解るぜ? 悪人が先生だなんてな?」

「そこまでの怒り、縁先生は相当貴方に酷い事をしたのでしょうね」

「ああそうだ! 奴と出会った事で俺の人生が滅茶苦茶だ! あいつの妹を殺す任務に失敗した俺達は、後指を刺されるようになった! 特にあいつと戦い傷一つ付けれなかった俺が一番笑われた! 一般人の雑魚共に俺の国に! だが! 復讐の黒い炎を得てからは――」


 自分の思いの丈を話していたヤマトが、突然その場で爆音と共に土煙を上げた。

 そして土煙から何かが、物凄いスピードでファリレントに近寄って抱き寄せる。


「すまない、遅れた……私は教師として、姉として恥ずかしい! 姪がこんなになるまで気付かないとは! だが! その気持ちは後にする!」


 風月はファリレントを抱き寄せて泣いていた。


「お姉ちゃん……? おね゛えぢゃーん!」


 緊張の糸が切れたファリレントは風月に抱きついて泣き出す。

 その様子を見た一本槍とテクーダは安堵の表情をする。


「一本槍、縁からだ」 


 風月は右手で握っていた、白く輝く宝玉を一本槍に投げる。

 宝玉を掴もうと左手を伸ばした、しかし、体の限界だったのかそのまま前へと倒れそうになる。

 突如宝玉が優しく光り出し、一本槍から流れている血を一瞬で吸い寄せ始めた。


「え?」


 一本槍は転びそうになるのを、自分の足でしっかりと留まった。

 自分の身体を見てみると、怪我が治っていてビックリしながら触っている。


「なっ!? え! これは?」


 血を吸い真っ赤になり、地面に転がっている宝玉を拾った。


「ハハッ、先生達が来たなら……もう、大丈夫だな」


 満足そうにツレは笑う、その身体は足元から徐々に消えていっていた。


「遅くなった、テクーダ君」


 縁が消えかけているツレの肩に背後から手を置いた。


「テクーダ君、いや、死神『黄泉比良坂之死魔よもつひらさかのしま』よ」

「ああ……縁先生なら俺の本名知ってて当然か」

「自分の存在を削り友を死なせなかった、それすなわち縁を守る事見事なり」


 ツレは幻が実体化していくように色濃くなったいく。


「うえ!? 身体が? 縁先生なにしたんすか!?」

「信仰心を分け与えた」

「ええ!? それってダメなやつじゃないっすか!? 何か色々と誓約ありましたよね?」

「そんなものは知らん、存在を賭けて縁を守った者を救っただけだ」

「助けてもらって何ですが、滅茶苦茶っすね」

「神だからな」


 縁とツレのやり取りを見て風月は少し笑う。

 ハッとして傷だらけのファリレントが目に入った。


「すまん治療がまだだったな、トライアングルを借りるぞ」


 風月はファリレントのトライアングルを裏拳で鳴らした。

 するとあっという間に怪我が治る。


「ファリレント、何があった?」

「未来ちゃんの発表会場に行こうとしたら、よくわからないけど襲撃されました」

「発表会場?」

「ああ、今日は未来の占い師としての大会があってな、私の半身は引率だ」

「なるほど、その道中襲われたと」

「襲撃した奴は誰だ? 縁は知っているか?」

「この間滅ぼした異世界転生者の仲間だな」

「そうか、つまり縁の神社を破壊した奴か?」

「ああ」

「ならこれから課外授業だ、殺していい教材そうそう無い」


 嬉しそうに黒い笑みを浮かべ、倒れているヤマトを見た。

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