外に出た3人は、霞を先頭にして歩いている。
「婿殿、この里の特産品を紹介しようかの」
「特産品ですか」
「一年中収穫出来る桃だね~」
「それは珍しいな」
「季節の変わり目に収穫出来て、時期によって味とかが変わるのさ」
「今時期はどうなんだ?」
「桃として食べ頃だね、もう少し時間が経つと砂糖向けになるけど」
「調味料として加工するのか」
「そそ、春はしょっぱく、夏はすっぱく、秋は甘く、冬は辛く」
「そんな桃が有るんだな、名前は?」
「『
「名は体を表すってか」
「そそ、お、見えてきた、あれだよ!」
風月が指差した場所には、見事な桃畑が広がっていた。
農作業をしている人達が、のんびりと作業をしている。
作業中の中年男性が3人に気付いてこちらに来た。
「これは二代目様、四代目様、おや? そちらの男性はどなたですか?」
「うむ、孫の婿だ、お前が大切に育てている桃を紹介したくてな」
「おお! 貴方が四代目様の! お話は色々と聞いております! 私の名前仙人としての名は『季節』といいます」
「俺は縁といいます、よろしくお願いいたします」
縁と季節はお互いに軽く会釈をした。
「季節さんは三代目、私のお父さんの懐刀だった人、私よりも強いよ」
「風月より強い!?」
「いやいや四代目様、私は戦う事よりもこうして土を触っている方がいいです、それに三代目様には、私よりも頼もしい親友が居られます」
「それは置いといて季節よ、一つ桃をくれないか? 婿殿にお前自慢の桃を食べてもらいたくてな」
「御意――お待たせいたしました」
「え?」
縁はアホみたいな声を出す。
季節が縁に桃を差し出していたからだ。
目や感覚では捉えられない程の速さで、桃を取りに行ったのだろう。
「私でもそこまでの速度は出せないんだよね~ま、それは置いといてがぶっと食べてみ縁」
「あ、ああ」
桃を受け取り、一口食べてみた。
「こ、これは! 凄い!」
突然涙を流しながら桃を凄まじい勢いで平らげた!
「ど、どうしたのさ縁」
「この桃は素晴らしい、おそらくは、季節さんが一番最初にお世話にを始めた桃の木の桃、桃としての味も美味しいが、何よりも季節さんと桃の縁を感じた! 苦楽を共にしたからこその味! 言葉で表現出来ん!」
「おおう早口で熱く語るねぇ、縁は神様だから心意気の方に感動したのか」
「うむ、いやいや、これ程の縁は久しぶりに見た、ごちそうさまでした」
満足した顔をしながら手を合わせる縁。
「おおう、そんなに気にいったならお土産にいくつか貰ったら?」
「すみません四代目様、もう予約出荷分しかなく」
「え? さっきの一個も?」
「あれは自宅用に買ったものです」
「流石に自宅用は渡せないねぇ~」
「そうだ、加工した物ならあります――先程の桃を砂糖にしたものです」
季節はまた一瞬で取りに行ったのか、手には皮袋に詰められた砂糖を3つ持っていた。
「おいくらですか?」
「いえいえ縁さん、これはお気持ちです」
「いや、いい物にはちゃんと払いたい」
「縁は変な所で頑固だね~ならさ、奉納品として貰えば?」
「それいいですね四代目様、縁様、どうぞお納めください」
軽く跪いて皮袋を捧げるポーズをした。
「うーむ、神として受け取るならば、なら何か見返りを――」
「私が願うのは四代目様の幸せです」
「だってさ縁」
「『徳』を願う者には、巡り回って良き縁が有るだろう」
縁は手を合わせた後に皮袋を鞄にしまう。
「って、なんか上手い具合にのせられたな」
「まあまあいいじゃないの」
「ふぁ~」
霞が大きな欠伸をした。
「眠たいのおばあちゃん?」
「うむ、婿殿が来ると心を踊らせてな? あまり寝れなかった」
「無理しちゃダメだよ?」
「そうだね、私はここまでにしておくよ、ふぁ~ああ、そうそう婿殿」
「何でしょう?」
「いつか、ここではない何処かで会えるといいわね」
その言葉を聞いて縁は少し考えてハッとする。
「ええ、その時は手土産を持って行きますよ」
「楽しみが増えたわ、ありがとうね、またね」
「ええ、また」
「お休みおばあちゃん~」
霞は音もなく消えた。
「私もそろそろ作業に戻ります」
「ありがとうね季節」
「ありがとうございました季節さん」
「失礼します」
季節は一礼して歩いて作業に戻る。
「んじゃ縁をとっておきの場所に案内するかね~」
「何処?」
「あの山の頂上、雲を突き抜けた先に風の吹く草原と、時間によっては星が見える」
「え? あの山登るの? 今から?」
風月が指差した山は雲を突き抜けていて、とてもすぐには行けそうにない。
「大丈夫、お姫様抱っこで連れていってあげるから」
「ええ!? いや、お姫様抱っこは……」
「おんぶがいい?」
「いや……え?」
「人さらいスタイル?」
「何それ」
「肩で担ぐ」
「……その三択ならお姫様抱っこで」
「よし」
風月はひょいと縁をお姫様抱っこをする。
「一瞬さ」
言葉通り風月は、縁をお姫様抱っこをしたまま、凄まじい速さで山を登る。
縁の羞恥心よりも登る速さが勝り、直にお姫様抱っこを止めた。
「はい、到着」
「え、あ、うん」
山の頂上は少々肌寒い風と草の絨毯に、空にはうっすらと太陽に負けずに、いくつか星が輝いている。
「ここはあたしが修行している場所、そして仙人としての名前『風月』を貰った場所だ」
「いいね、風は少し冷たいが走りたくなるな」
「かけっこする? 相手になるよ?」
「手加減は?」
「してほしい?」
「いや、本気でどうぞ」
縁はウサミミカチューシャを外し、何時もの神様モードになる。
「ん!? 俺に助けを求める兎術!?」
キョロキョロと辺りを見回していてる縁。
風月はその言葉を聞いて顔色を変えた。
「縁、そういうのは見逃してはいけない、ここに呼んだりできる?」
「……よし、見つけた!」
縁は指を鳴らすと、足元に光が集まる。
その光から現れたのは、燃える赤色の兎で努力と書かれた鉢巻きをしている兎だった。
その兎はぐったりしてして、幻の様に消えかかっている。
背中にトライアングルを背負っているが、そのトライアングルも消えかかっている。
「これは一本槍君の兎術か!? ダメだ、弱りすぎてて場所がわからん」
「任せて」
風月はトライアングルを拾い上げて空に投げた。
空に投げられたトライアングルは消える。
そして、風が吹いてきて音を奏で始めた。
「場所はわかった、付いて来て縁」
風月は爆音と爆風を残して消える。
「あ、ああ!」
縁は兎を抱っこして風月を追った。