長谷川と荒野原はバイトをしていた。
ただ、今日は閑古鳥が鳴いている。
「今日は暇でよかった」
「うん、午後から予定あるからね、無理言ってごめん」
「え?」
「父方のおばあちゃんが、孫の婿に会いたいって駄々こねて」
「いやいや、界牙流二代目、そして『森山劇場オンライン』のプレイヤーと遊べる機会はそうそうない」
森山劇場オンラインとは、レアスナタの前作といっていい。
その内容は、サービス開始直後はテキスト、チャットで楽しむTRPGの様なものだった。
それからイラストが付き、簡易的にキャラクターを実装したりと、徐々にレアスナタに近づいていく。
この頃から運営は、ネットマナーとプレイヤーの居心地の良さを徹底していたらしい。
「そう言ってくれると助かる、私の小学校の入学式とか、そういうのより気合いが入ってる」
「なんで?」
「私が落ち着いてって言ったら、いいか終、こちとらババアだ数年は生きてても数十年は無理だろう、私の余生をバラ色にしておくれ! ってさ」
「ダメとは言いにくい問答だ」
「普段はそんな喋り方しないのに気合い入り過ぎ、落ち着いてほしい」
「まあまあ、楽しみがあるのはいいじゃないか」
「そうなんだけどね~」
荒野原はため息を一つした、その顔は嬉しそな困った様な顔をしている。
「ふと思ったんだが、母方のじいちゃんばあちゃんもレアスナタをしているのか?」
「2人共亡くなったけど、していたよ」
「そうなのか」
「それで言えば、この間の過去に行った時、初代絶滅演奏術奏者の話をしたじゃん?」
「確か頑張っても世間に認められなかった、だったか」
「そうそう、あれおばあちゃんの人生まんまらしいのよ」
「なんだって?」
「認められ無さすぎて、ブチギレたおばあちゃんは聞くもの全てを魅了する、絶滅的な曲のアレンジをするようになったとか」
「いやいやいや、ど、どんなのなんだよ」
長谷川は想像が付かずに、少し動揺していた。
「あらゆる曲を中二病アレンジにしたとか」
「ああ~そっち方面で爆発的に人気になったとか?」
「そうそう」
「いやすげーな」
「あ、長谷川君のおじいちゃんとおばあちゃんは? プレイヤー?」
荒野原はハッとした顔をしてそう言う。
「母さんの方のおじいちゃんがやってるな、他はしていない」
「現役?」
「ばあちゃんが亡くなった時に辞めたんだが」
「だが?」
「あゆさが言ったのかは知らんが、孫に恋人だと!? 妻の土産話に持っていかねば! と気合いがはいったらしい」
「……どこも同じなのかしら? って、それなら時間を合わせた方がいいよね」
「いや、うちのおじいちゃんは変わっててね、神がおいそれと人前に現れるもんじゃねぇ、いる時でもいらねぇ時でもふらっと現れるもんだ、って昔から言ってて」
「おお、何か説得力が有る様に感じる」
「何処かのタイミングでひょっこりと現れて、何するんだろうな」
「神出鬼没な神様なのね、ちなみに何の神様?」
「運を司る神様だったんだが、年取ってから全知全能設定に変えたらしい」
「なんで?」
「若い時から全知全能設定にしたかったんだけど、やっぱり年老いた方が説得力が有るだろうと」
「なるほど、なんとなくわかるかも」
そんな話をしていると、奥からあけみがエプロンをしてやって来た。
「長谷川君、荒野原さーん、そろそろあがってもいいわよ」
「わかりました、あけみさん」
「今日は私がお昼を用意したから食べていきなさい?」
「え? いいんですか?」
「長谷川君、今日は荒野原さんのおばあちゃんとロールするんでしょ? 気合い入れて気に入られてきなさい」
「……あけみさんも気合い入ってますね」
「わかる? お子様ランチ作ったのよ」
「え? お子様ランチ?」
「大丈夫よ荒野原さん、量は大人向けだから」
「つまり、色々な食べ物がちょっとずつあると」
「今持ってくるから、テーブル開いてて」
長谷川はテーブルを広げて待つと、あけみはお手製のお子様ランチを持ってきた。
内容は野菜にお魚、肉にエビフライと様々な少量のおかずと共に、メインのオムライスには旗が立っている。
絵が描かれていて一つは兎、もう一つはトライアングル、ちなみにデザートのミニプリンも付いている。
「おお、これは凄い」
「じゃあ早速いただけます」
「あ、そうそう食べながらでいいんだけど」
「どうしました?」
「私も久しぶりにレアスナタにログインしようかと思って」
「お? 『傷の魔女』がレアスナタに再来しますか」
「そろそろ公式イベントも終わりそうだしね、その時は2人共よろしくね」
「わかりました」
「よろしくお願いいたします」
2人はお子様ランチを美味しく頂いて、ゲートに向かう。
受付を済ませていざプレイルームへ。
「行くぜ! レアスナタの世界へ!」
長谷川は気合を入れていつも通りのポーズをして、ログインボタンを押す。
縁となり、ロビーで風月と合流する。
「っしゃ、気合い入れておばあちゃんに会いに行こうか」
「もうログインしてるの?」
「気合い入りすぎて朝の6時に起きて、ゲートに向かったとか」
「いやいやいや、早すぎるだろ」
「それだけ楽しみって事、がっかりさせないようにしないとね」
「だな」
「ロールは界牙流の里でするから、んじゃパーティー組んで向かいましょうかね」
「ああ」
パーティーを組みその場から消えた。