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第七話 後説 反省会に恩人参戦

「ほいっと、ロビーにただいま」

「お疲れ様、風月」

「縁もお疲れ~」


 ロールを終えてロビーに帰ってきた縁と風月。

 2人を出迎えたのは斬銀と絆だった。


「お帰り、兄貴に姉貴」

「2人共お疲れ」

「斬銀に絆ちゃんもお疲れ~色鳥達は?」

「まだロールしてる」

「そっか、お疲れ様のメール送っておこ」

「そうだな、挨拶は大事だ」


 全員メニューを開いてメールを送信する。


「このタイミングで神社が壊されるか」

「いやいや、神社はちょっと前に壊されてたよ?」

「あ、そうなん?」

「兄貴、私が言えたこと時じゃないけど、普段から気にかけようよ……斬銀さんと姉貴との大切な思い出の場所だろ?」

「身に染みたよ」


 その一言は縁、と言うよりも長谷川自身が心から出た言葉だった。


「にしても斬銀の土下座はビックリしたわ、そこまで恐れるのかとね」

「そりゃそうだ風月、神は恐れるものさ、人知を超えてるんだからな」

「正直俺は悲しかった、神社を建てた時に『これでおめーを神様扱いしなくていい』って言われてね」

「おお……正に人に歴史ありだね」

「数年以上親しくしてくれた恩人が、急に自分の地位で対応してくるって……苦しいんだな」

「それ詳しくロール中に言ってよ~そしたら最初から界牙流でぶっ飛ばしたのに」

「いやそこ語り出すとさ、神社の場面だとかなりテンポが悪くなるだろ?」

「冷静にテンポを気にするあたり、流石だわ兄貴」


 絆は自分の感情よりも話の流れを重視する兄にため息をする。


「まあ黒ジャージ兄貴しては大人しかったね?」

「だよな、ま、縁も大人になったってこった」

「昔の縁ってどんなのだったのさ?」

「お前に天佑神助てんゆうしんじょも、曇華一現どんげいちげんも、千載一遇せんざいいちぐうも無い、墜茵落溷ついいんらくこんを決めるのは俺だからだ……だったか?」


 斬銀は縁っぽい口調で、長台詞を早口で言った。


「多分運に関係してる四文字熟語だと思うけど……意味わからん」

「神の助けも偶然も、滅多に起こらない事も、千年に一度の絶好の機会も無いぞ? 人には運があり、因果応報は無い、それを決めるのは俺だ」

「お、流石兄貴、自分で言っただけあって覚えてるね~」

「……恥ずかしい」

「今は中の人としてそのセリフ言ってるからでしょ? 黒いジャージ縁なら、かっこよく言ってくれそう」

「いや、やれと言われればやるけど……後でダメージがデカそうだ」

「縁は役者だね~」

「さてと、私はそろそろ落ちるよ、旦那にご飯作らなきゃね」

「お疲れ~絆」

「乙」

「またな」

「んじゃね」


 絆はログアウトした。


「縁、実は仕事の打ち合わせでお前の町まで来てるんだが」

「え? サボり?」

「馬鹿野郎、打ち合わせが早く終わったんだよ、久しぶりに飯でもどうだ?」

「いいですね」

「楽しそうな事なら、あたしも混ぜろ」

「もちろんだ、場所はどうするよ」

「あたし達行き付けのお店を紹介するよ」

「了解、んじゃタクシーで迎えに行く、縁、いつものゲートに居るんだろ?」

「ああ」

「支度して待ってろよ」

「へーい」


 長谷川はログアウトをして、荒野原と一緒にゲートのロビーで待つ事に。


「長谷川君、斬銀さんのプレイヤーは何て名前なの?」

斬摩銀二ざんまぎんじさん」

「……言葉を並び替えると真寺斬銀」

「良く気付いたね」

「なんかわかりやすい」


 そんな話をして待っていると、入口からスーツ姿で筋肉ムキムキの大男が現れた。


「あ、斬摩さん」

「ああ、あれが……なんだろう、イメージ通りの男性が来た」

「長谷川さん!」


 斬摩は長谷川達に気付き歩いてくる。


「リアルじゃ久しぶりだな!」

「お久しぶりです」


 長谷川と斬摩は熱い握手をした。


「おっと、お前の彼女に挨拶してなかったな、斬摩銀二と言います、よろしくお願いいたします」

「これはご丁寧に、荒野原終と言います」


 斬摩は名刺を出し、荒野原も素早く名刺を出して対応、お互いに名刺交換をする。


「え? 荒野原さんが名刺?」

「レアスナタプレイヤーとして挨拶は大事、と言っても渡したのはキャラクターの名刺だけども」

「俺もそうだぜ? 仕事じゃないんだから、仕事の名刺は渡さんよ」


 長谷川は2人の交換した名刺を見ると、自キャラの画像とコメントが書かれていた。


「いやぱっと見さ、名刺自体が普通のに見えるから」

「なるほど、確かに」

「っと、タクシー待たせてるんだった、続きは案内してくれる店でだな」

「それも確かに」


 3人はタクシーに乗り、いつもの居酒屋に向かうのだった。

 おかみさんに挨拶をして、いつもの席に案内される。


「なあ、質問があるんだが」

「どうしました? 斬摩さん」

「いや、注文もしてないのに料理と飲み物がスッと出て来たんだ? 予約か?」

「いえ、常連なだけです」

「え? いくらなんだ?」

「追加で何も頼まないと……何時も一人三千円前後?」

「色々と追加で五千円かな?」

「ほう? 飲み食い屋だと普通くらいか」

「失礼します」


 男性店員が一礼して入って来た。


「おかみさんが新しいお連れ様にと、サービスです」 


 斬摩の前に一人前の刺身盛り合わせを置く。

 それを見た長谷川はささっとメニューを開いた。


「この日本酒の白銀兎を瓶で下さい」

「おおう長谷川君、一万ちょっとする日本酒をサラッと頼むね~」

「おちょこはみっつでよろしいでしょうか?」

「はい」

「今お持ちしますね」


 男性店員は一礼して去っていく。


「なるほど、そりゃ刺身もサービスしてくれるわ、上客じゃねーか」

「いい物や場所には長続きしてほしいからね」

「ふと思えばそうか……お前、酒が飲める歳になったのか」

「そうですよ」

「そうか……俺も歳とるか」

「失礼します、白銀兎お待たせいたしました」

「おお、速かったな」


 お酒とおちょこを置く男性店員、一礼して去っていく。


「酒をついで乾杯しましょう」

「よし」


 斬摩は酒を開け、おちょこにお酒を入れていく。


「乾杯!」

「乾杯」

「乾杯だ」


 長谷川の乾杯で互いに軽くおちょこを当てる。


「さっきもう酒の飲める歳って言ってたけど、斬摩さんは長谷川君といつから知り合いなの?」

「ああ、長谷川が中学の時だな、他のゲームで嫌な事があってレアスナタを始めた時に出会った」

「その話は聞いたね」

「斬摩さんに会ってなかったら、ここまでハマってなかったよ」

「ここだけの話な? 運営として仕事してた時にゲーム内で縁を見つけてな、凄くつまらなそうな顔をしていたんだよ」

「運営として助けたとか?」

「話を聞いただけだがな、ただ俺はプレイヤーとしてどうしても救いたくなった、このゲームは他とは違うとな」

「おお~」

「縁と斬銀さんのファーストコンタクトが『少年、笑顔が足りないぞ! どうした!?』だった」

「ええ!? なんつーか無理やりっていうか」


 荒野原は何とも言えない顔をした。


「まあそれから縁も俺も、斬摩さんと斬銀さんにお世話になってるのさ」

「そんな話聞かされたら、あの神社ぶっ壊した奴らを絶滅となきゃ」

「おいおい荒野原、そこは自分のお願いじゃないのか?」

「数年以上の恩師への想いは、恋人一年生にはちょっと厳しいかな」

「……中学だった奴が、可愛い嫁さん貰うまでになったか」

「斬摩さん、さっきからどうしました?」

「ゲーム内ではよく会ってても、リアルじゃそんなに会わないからな」

「斬摩さんお父さんみたい」

「ああ荒野原は知らないか、俺には娘が2人居る」

「だから余計に父親感が」

「父親感ってワードよ、ま、実際に長谷川に会うと昔を思い出すよ」


 それから長谷川と斬摩は昔話に花を咲かせて、荒野原はそれを楽しく聞いていた。

 恩師と恋人との楽しい宴はまだまだ続くのだった。

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