「ほいっと、ロビーにただいま」
「お疲れ様、風月」
「縁もお疲れ~」
ロールを終えてロビーに帰ってきた縁と風月。
2人を出迎えたのは斬銀と絆だった。
「お帰り、兄貴に姉貴」
「2人共お疲れ」
「斬銀に絆ちゃんもお疲れ~色鳥達は?」
「まだロールしてる」
「そっか、お疲れ様のメール送っておこ」
「そうだな、挨拶は大事だ」
全員メニューを開いてメールを送信する。
「このタイミングで神社が壊されるか」
「いやいや、神社はちょっと前に壊されてたよ?」
「あ、そうなん?」
「兄貴、私が言えたこと時じゃないけど、普段から気にかけようよ……斬銀さんと姉貴との大切な思い出の場所だろ?」
「身に染みたよ」
その一言は縁、と言うよりも長谷川自身が心から出た言葉だった。
「にしても斬銀の土下座はビックリしたわ、そこまで恐れるのかとね」
「そりゃそうだ風月、神は恐れるものさ、人知を超えてるんだからな」
「正直俺は悲しかった、神社を建てた時に『これでおめーを神様扱いしなくていい』って言われてね」
「おお……正に人に歴史ありだね」
「数年以上親しくしてくれた恩人が、急に自分の地位で対応してくるって……苦しいんだな」
「それ詳しくロール中に言ってよ~そしたら最初から界牙流でぶっ飛ばしたのに」
「いやそこ語り出すとさ、神社の場面だとかなりテンポが悪くなるだろ?」
「冷静にテンポを気にするあたり、流石だわ兄貴」
絆は自分の感情よりも話の流れを重視する兄にため息をする。
「まあ黒ジャージ兄貴しては大人しかったね?」
「だよな、ま、縁も大人になったってこった」
「昔の縁ってどんなのだったのさ?」
「お前に
斬銀は縁っぽい口調で、長台詞を早口で言った。
「多分運に関係してる四文字熟語だと思うけど……意味わからん」
「神の助けも偶然も、滅多に起こらない事も、千年に一度の絶好の機会も無いぞ? 人には運があり、因果応報は無い、それを決めるのは俺だ」
「お、流石兄貴、自分で言っただけあって覚えてるね~」
「……恥ずかしい」
「今は中の人としてそのセリフ言ってるからでしょ? 黒いジャージ縁なら、かっこよく言ってくれそう」
「いや、やれと言われればやるけど……後でダメージがデカそうだ」
「縁は役者だね~」
「さてと、私はそろそろ落ちるよ、旦那にご飯作らなきゃね」
「お疲れ~絆」
「乙」
「またな」
「んじゃね」
絆はログアウトした。
「縁、実は仕事の打ち合わせでお前の町まで来てるんだが」
「え? サボり?」
「馬鹿野郎、打ち合わせが早く終わったんだよ、久しぶりに飯でもどうだ?」
「いいですね」
「楽しそうな事なら、あたしも混ぜろ」
「もちろんだ、場所はどうするよ」
「あたし達行き付けのお店を紹介するよ」
「了解、んじゃタクシーで迎えに行く、縁、いつものゲートに居るんだろ?」
「ああ」
「支度して待ってろよ」
「へーい」
長谷川はログアウトをして、荒野原と一緒にゲートのロビーで待つ事に。
「長谷川君、斬銀さんのプレイヤーは何て名前なの?」
「
「……言葉を並び替えると真寺斬銀」
「良く気付いたね」
「なんかわかりやすい」
そんな話をして待っていると、入口からスーツ姿で筋肉ムキムキの大男が現れた。
「あ、斬摩さん」
「ああ、あれが……なんだろう、イメージ通りの男性が来た」
「長谷川さん!」
斬摩は長谷川達に気付き歩いてくる。
「リアルじゃ久しぶりだな!」
「お久しぶりです」
長谷川と斬摩は熱い握手をした。
「おっと、お前の彼女に挨拶してなかったな、斬摩銀二と言います、よろしくお願いいたします」
「これはご丁寧に、荒野原終と言います」
斬摩は名刺を出し、荒野原も素早く名刺を出して対応、お互いに名刺交換をする。
「え? 荒野原さんが名刺?」
「レアスナタプレイヤーとして挨拶は大事、と言っても渡したのはキャラクターの名刺だけども」
「俺もそうだぜ? 仕事じゃないんだから、仕事の名刺は渡さんよ」
長谷川は2人の交換した名刺を見ると、自キャラの画像とコメントが書かれていた。
「いやぱっと見さ、名刺自体が普通のに見えるから」
「なるほど、確かに」
「っと、タクシー待たせてるんだった、続きは案内してくれる店でだな」
「それも確かに」
3人はタクシーに乗り、いつもの居酒屋に向かうのだった。
おかみさんに挨拶をして、いつもの席に案内される。
「なあ、質問があるんだが」
「どうしました? 斬摩さん」
「いや、注文もしてないのに料理と飲み物がスッと出て来たんだ? 予約か?」
「いえ、常連なだけです」
「え? いくらなんだ?」
「追加で何も頼まないと……何時も一人三千円前後?」
「色々と追加で五千円かな?」
「ほう? 飲み食い屋だと普通くらいか」
「失礼します」
男性店員が一礼して入って来た。
「おかみさんが新しいお連れ様にと、サービスです」
斬摩の前に一人前の刺身盛り合わせを置く。
それを見た長谷川はささっとメニューを開いた。
「この日本酒の白銀兎を瓶で下さい」
「おおう長谷川君、一万ちょっとする日本酒をサラッと頼むね~」
「おちょこはみっつでよろしいでしょうか?」
「はい」
「今お持ちしますね」
男性店員は一礼して去っていく。
「なるほど、そりゃ刺身もサービスしてくれるわ、上客じゃねーか」
「いい物や場所には長続きしてほしいからね」
「ふと思えばそうか……お前、酒が飲める歳になったのか」
「そうですよ」
「そうか……俺も歳とるか」
「失礼します、白銀兎お待たせいたしました」
「おお、速かったな」
お酒とおちょこを置く男性店員、一礼して去っていく。
「酒をついで乾杯しましょう」
「よし」
斬摩は酒を開け、おちょこにお酒を入れていく。
「乾杯!」
「乾杯」
「乾杯だ」
長谷川の乾杯で互いに軽くおちょこを当てる。
「さっきもう酒の飲める歳って言ってたけど、斬摩さんは長谷川君といつから知り合いなの?」
「ああ、長谷川が中学の時だな、他のゲームで嫌な事があってレアスナタを始めた時に出会った」
「その話は聞いたね」
「斬摩さんに会ってなかったら、ここまでハマってなかったよ」
「ここだけの話な? 運営として仕事してた時にゲーム内で縁を見つけてな、凄くつまらなそうな顔をしていたんだよ」
「運営として助けたとか?」
「話を聞いただけだがな、ただ俺はプレイヤーとしてどうしても救いたくなった、このゲームは他とは違うとな」
「おお~」
「縁と斬銀さんのファーストコンタクトが『少年、笑顔が足りないぞ! どうした!?』だった」
「ええ!? なんつーか無理やりっていうか」
荒野原は何とも言えない顔をした。
「まあそれから縁も俺も、斬摩さんと斬銀さんにお世話になってるのさ」
「そんな話聞かされたら、あの神社ぶっ壊した奴らを絶滅となきゃ」
「おいおい荒野原、そこは自分のお願いじゃないのか?」
「数年以上の恩師への想いは、恋人一年生にはちょっと厳しいかな」
「……中学だった奴が、可愛い嫁さん貰うまでになったか」
「斬摩さん、さっきからどうしました?」
「ゲーム内ではよく会ってても、リアルじゃそんなに会わないからな」
「斬摩さんお父さんみたい」
「ああ荒野原は知らないか、俺には娘が2人居る」
「だから余計に父親感が」
「父親感ってワードよ、ま、実際に長谷川に会うと昔を思い出すよ」
それから長谷川と斬摩は昔話に花を咲かせて、荒野原はそれを楽しく聞いていた。
恩師と恋人との楽しい宴はまだまだ続くのだった。