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第七話 幕切れ 世界に牙を剥く流派

「お前……命を何だと思ってるんだ?」


 どこからか風が吹いてきて、風月を優しく包む。


「やれやれ、人を殺した奴の言葉とは思えないね」

「それ正論のつもり? 私は敵だ」

「やれやれ、僕には強力な蘇生魔法が有るんだ」

「へー」

「蘇れ! 神の蘇生ゴッドレイズ!」


 三日月春樹はドヤ顔しながら、高らかにそう宣言し天から光が降り注ぐ!

 兵士達を照らして暖かい光が……照らしただけだった、兵士達動かない。


「やれやれ、何かしたかな? 蘇らないじゃないか」

「本当に王様しているの? いずみから借りた、隷属の神が布教している『異世界転生』と同じだな?」


 風月は人をなめ腐った態度で、三日月春樹を見ていた。


「創作物としては文句ない、創作物なのだから自由だ、だがな、ここは現実なんだぞ? わからないならそれでいい」

「やれやれ――」

「てか取り巻き死んでるの、何で気付かないの?」

「は?」


 三日月春樹にべったりとしていた女達、喋らずに寄り添っていたのではなく、血も出さず綺麗なままで死んでいたからだ。 


「今は戦闘中だから……コラテラルダメージだっけ? それになるよね?」

「やれやれ、僕を怒らせたいのかな? この程度は想定内だ」

「ほー? 取り巻きには何か保険をかけていて、兵士達には何もしてないと、あんた暴君ってやつか? なるほどなるほど」

「そんなに僕を怒らせ――」

「おいゴミ、今は殺し合いの最中だろ? 私を殺せるならやってみろよ、ベラベラ喋ってないでさ」


 風月は身の毛もよだつ様な形相で、三日月春樹を見ていた。

 その言葉に初めて表情を変える、今まで散々ドヤ顔をして余裕ぶっこいてた王様がだ。


「そ――」

「何時になったら気付くんだ? 私が遊んでいるってさ」


 ただ喋ってるだけの敵にしびれを切らしたのか、風月は一瞬で目の前に移動して、相手の右手を持った。


「腕一本もげば、実力の違いがわかるか?」


 いとも簡単に風月は相手の右腕を引きちぎった。

 つまらなそうな顔をしながらその辺に投げ捨る。


「痛がらない……か、お前は必要なモノを色々と捨ててきたようだな?」


 それだけ言うと風月は元の位置に戻った。


「貴様……どうあっても俺と戦いたいようだな」

「いや、ザコがイキり散らすなよ?」

「口を閉じろ、殺すぞ?」

「縁、コイツ話が通じないんだけど」

「簡単さ『何があっても勝てる』と思っているからだ」

「は?」

「隷属の神の加護かは知らんが、身体と精神を色々としている」

「強化? 言い換えればさ、好き勝手身体をいじくられただけじゃん」

「転生者ほとんどに言える事だが、周囲に行動や考えを止める奴が居ないんだよ」

「そりゃダメだ、いい傀儡が出来上がる」

「基本、太鼓持ちしか居ないからな、否定する奴が居ても最終的には納得させられてしまうのだろう」


三日月春樹は自分のちぎれた右腕を拾い、右肩に当て風月を睨みつけた。


「さっきからベラベラと好き勝手いいやがって、超回復呪文ルベラ!」

「気が変わった、街とお前を一撃ずつで葬ってやる」


 腕が元に戻った三日月春樹に対して、風月の顔が殺意に満ちた顔をする。

 それと同時に爽やかで緩やかな風が吹いて来た。


「先手はくれてやるよ? 仕留められるかな?」

「天に我有り! 下すは神の雷! 天空雷神の怒りゴッド・アンガー・サンダー!」


 挑発する風月に対して、早口で魔法を詠唱する三日月春樹。

 空が一瞬だけ光る、次の瞬間巨大な雷が風月に直撃して、近くに居た縁もその神に巻き込まれる!


「むははは! 他愛――」

「勝ち誇るなら、相手を確実に殺してからにしたら?」

「こういう奴は何を言っても無駄だ風月、俺も昔はこうだった……愛情を持って𠮟ってくれる他人の貴重だ」

「ま、とりあえず次は私の攻撃だね」


 高笑いしようとした三日月春樹の後ろに、怪我一つ無い風月達が立っていた。

 風月は三日月春樹ではなく、街に身体を向けた。


「界牙流、ただの蹴り」


 やる気なさげにドスを効かせた声で、前蹴りをする。

 その足からは、自然災害と呼ぶに相応しい暴風が巻き起こる!

 あっという間に人々の悲鳴と共に街は崩壊した。

 放った暴は風全てをさらっていって、風月達の目の前には不自然な更地だけが残った。


「これが本家の『界牙流ただの蹴り』か」

「これはおばあちゃんの……二代目様考案の必殺技だ」

「二代目の必殺技なのか」

「そうだ、正式名称は長いんだがな」

「ま、街が一瞬で……? い、いや、俺のチートスキルで守っていた、こ、これは何かの間違いだ」


 目の前の光景を全力で否定しようと膝を付き、ブツブツと何かを言っている三日月春樹。


「縁の慈悲で死んでおくべきだったな? 今この流れている風は『界牙流輪廻風殺かいがりゅうりんねふうさつ』だ、この中で死ぬと文字通り輪廻転生は出来ない」

「つまり死んであの世に行けないと? すげーな風月」

「ここで消す、縁の神社を壊し、私の願いを否定する奴に次は無い」


 風月はやっと少しでも、実力の違いに感づいた三日月春樹を見下ろした。


「界牙流」


 ゆっくりと蹴る準備をする。


「『絶対! 完全! 消滅! 私の人生邪魔するなら! 死ねぇぇぇぇぇ!』」


 身体全身を使った蹴りは、一点集中の竜巻を生み出した!

 先程街を消したあの暴風を集中させ、それを敵に放つ。

 対象者だけを巻き込んだその風は直に無くなった。

 後に残ったのは風月達と爽やかな風と自然。


「今のは?」

「界牙流ただの蹴りの正式名称」

「え?」


 縁はどう反応していいか少々困った。


「おばあちゃんが十代の時に付けた名前だからね~」

「……もしかして、恥ずかしくなったとか?」

「そそ、私はカッコイイと思うんだけどね」

「その人の魂とか生き様みたいなものだから?」

「うん、おばあちゃんの必殺技は、その人の『特性』を載せるの」

「特性?」

「私なら風だね、産まれた時にそういう祝福を受けたから」

「そいや言ってたな、あれ? 俺の場合は何になるんだ?」

「斬銀に放った時の事? あれは私や絆を守る、正に縁を守る一撃だね~」

「今考えたらおいそれと使っていいのか?」

「使えるならね、界牙流の反動に耐えられるなら」

「あー」


 縁は自分が使用した時の事を思い出した。

 凄まじい威力だったが、その反動で血反吐を吐いて、しばらく身体が傷んだ事を。


「考えたら界牙流は身体能力が高いのか?」

「反動に負けない身体作りってやつだね~」

「奥が深い」

「興味が有るなら里に来るかい? てか今度来て」

「唐突だな」

「おばあちゃんが縁に興味を持ってね」

「そうなの?」

「界牙流を放っても、生き残る婿殿を見ておきたいってさ」

「ん~それなら菓子折りの一つでも持っていかないとな」

「そうと決まれば帰ろうか、やる事やったし」

「ああ」


 その場に風だけを残して2人は消えた。

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