縁と風月は三日月春樹が治める国の近くへとやってきた、時間は夜になりかけいてる。
正方形の高い壁に囲まれ、見る限りでは活気がありそうな国だ。
それを上から見下ろせる丘に2人は居る。
「へ~中々発展してるじゃん? それにこの国は幻じゃなさそうだね?」
「だが見かけ倒しだ、この国からはほぼ幸せしか感じない」
「どゆこと?」
「不幸が極端に少なすぎる、それこそ『寿命で人が死んだ』くらいだ」
「ああ~国の大きさによる幸不幸のバランスが悪いと」
「人数が極端に少ない村とかなら、可能性があるが」
「幸せならいいんじゃない? 夢見てて楽しそうじゃん」
「……俺が現時点での、最高の幸せを教えてやるしかないな」
縁は鼻で笑いながら国を見下ろしている。
「それは?」
「愚かな統治者を楽に死なせてやる事だ」
「相手が断ったら?」
「神の慈悲を断ったんだ、風月に任せる」
「一撃で葬るか、ネチネチと攻めるか、遊んでやるか」
「それは風月が決める事だ、他人が口をはさむ余地は無い」
「んじゃ遊ぶ、縁の提案断った時点であたしに任せてくれる?」
「ああ」
「んじゃ、行きますか」
2人は丘を降りて、観光でもしに来たのかのように吞気に歩き、門の前まで来た。
「ええ? あれで隠れてるつもりなの?」
「相手に合わせてやろう」
「んだね、縁の提案……いや慈悲か、受け入れるといいね~」
風月は楽しそうにニコニコとして、縁はそんな彼女を見て苦笑いするしかなかった。
歩いていると、突如サーチライトで2人が照らされた!
そして、何処からともなく三日月春樹と兵士達、それにお色気ムンムンな女性数人が、ドヤ顔して登場した。
「やれやれ、このフェンリル王国に何の用かな? 呪われた神様」
「あれが三日月春樹様の敵ですか?」
「今時ジャージ? ダッサ!」
「こらこら、可笑しくても、人のセンスを馬鹿にしてはいけませんよ」
「三日月のお兄ちゃんみたく、かっこよくないとね~」
取り巻きの女達が案の定春樹を持ち上げ始めた。
そこから無駄なイチャイチャの大盤振る舞い、敵の縁達を目の前にしてである。
兵士達は無表情で縁達に武器を構えている。
「縁、私達かなりなめられてるよ?」
「だな」
「……やっていい?」
何処から声を出したんだと聞きたい位、ドスの聞いた声だ。
「まだだ」
「ま、約束は守らないとね」
風月は今にでも縁以外を殺しそうな顔をしている。
「で、君は何をしに来たのかな?」
その質問までに20分位は、取り巻きとイチャイチャしていた三日月春樹、風月と縁は何も言わずにずっと見ていた。
「簡単だ、俺は幸運の神だからな、お前に現時点での幸せを教えてやろうかなとな」
「それなら心配無用だ、僕は幸せの真っ只中だからね!」
「誰がお前の指図を受けるか! ばーか!」
「こら、春樹様の幸せを感じ取れない神様に本当の事を言ってはいけませんよ!」
「はっはっは、これ以上の幸せは無いね!」
「そうか、神の慈悲を無下にするか、それもいいだろう」
縁は黒いジャージから白いジャージへと、一瞬で着替えた。
「風月、好きにしていいぞ」
「……待ってました」
風月はその場でゆっくりと一回転した後に、三日月春樹に向かって歩いていく。
「さ、王様、殺し合いをしましょ? 遊んであげるから」
「やれやれ僕が手を出すまでも無い、優秀な兵士達が居るからね」
「はっ? 何処見てもの言ってんの?」
「……やってくれたね?」
三日月春樹は動じる事無く周囲を見た。
血塗れで倒れている兵士達、悲鳴も音も無かった。
「言うのはそれだけか? あたしはお前の財産を殺したんだぞ?」
「財産? 何を言ってるんだい? コラテラル・ダメージだろ?」
風月の顔が怒りではなく、無表情になった。
「お前、人の上に立つ資格ねーわ、私が嫌いなだけだろうがな」
「やれやれ、意味のわからない事を」
三日月春樹がそう言うと、取り巻きの女達が持ち上げた。
「……フッ」
界牙流四代目は、それを見て鼻で楽しそうに笑う。