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第六話 後説 一人で飲みに行くお知らせ

 縁はロビーへと戻って来てメールを確認する。


「斬銀さんと隼士さんはそのままロールするのか、お疲れ様のメールをしておこう」


 メールを操作して今回参加したプレイヤーと、運営に対してお礼のメール打つ。


「……今日は居ないけど、どうしようか?」 


 縁もとい長谷川は、荒野原が居ることの方が日常になっていた。


「帰る準備しながら考えるか」


 ログアウトをして帰り支度をする。


「……一人で飲みに行くのもありじゃないか? たまには」


 そう考えた長谷川はルルのお店へと向かうのだった。


「閉まってるじゃねーか」


 扉の前にはクローズの立て札がある。


「あら? 羽島君じゃない? 私の店に用?」

「ああルルさん、今日は一人で飲もうと思いまして」

「ん~羽島君なら大丈夫ね」

「何かあったんですか?」

「今日は詩織誕生日でね? 毎年貸切でサシで飲んでるのよ」


 ルルは酒や食べ物が入っているビニール袋を長谷川に見せた。


「いいんですか?」

「いいのよ、さ、入って入って」


 長谷川は扉を開けて中へ入り、ルルはされに続く。


「詩織、いい男捕まえて来たわよ!」

「ん~? って兎君じゃない! 娘はどうしたの? 喧嘩したの?」

「いやいや詩織さん、何時も一緒じゃないですよ」

「そりゃそうか、ごめんなさいね」

「ささ、羽島君も座りなさい、お酒とおつまみもおまかせでいい?」

「はい」


 ルルはカウンターに立ち、長谷川は詩織の隣に座った。

 手際よくお酒を作り、おつまみと共に長谷川の前に出す。



「娘が迷惑かけてないかしら?」

「いえ、大丈夫です」

「……誕生日にここで飲むようになったのは、娘がきっかけなのよ」

「え?」

「娘は私と私の母に似たのか……正義感が強くてね? それ故に敵も多かった」

「あ~なんとなくわかります」

「暴力に訴える事は少なかったけど、相手を蹴落とす事だけは徹底してたわ」

「どうやって?」

「身体を鍛え、知識を付けて、味方を増やした」

「ふむ」

「思春期をそんなんで過ごしていたから、私は言ったのよ? 『恋の一つでもしたらどうなのと』」

「答えは?」

「『私の心に響かせられるのは、甘いセリフを素で言えて、心を熱くたぎらせられる男だけだ』」

「おおう、荒野原さんらしい」

「……過去を愚痴るのはここまでにしましょうか」


 詩織はゆっくりとお酒を飲んだ。


「私の一番の心配事は解消されたし、愚痴るよりも楽しい話をしましょ」

「詩織、あんたの羽島君とのロール、見させてもらったけど無双し過ぎよ?」

「はん! 未来の娘の幸せの為に全て絶滅させただけよ」

「いや、俺も全滅させるとは思わなかったです」

「敵は滅ぼさないとね?」

「……荒野原さんのお母さんだけありますね」

「ああそうそう、兎君にお礼が言いたかったのよ」

「お礼ですか?」

「ドレミドの設定で悪人を無造作に滅ぼし続けた、って設定があるんだけどね?」

「はい」

「あのロールで『娘の幸せの為に』って設定が付け加えられたからね」

「どういたしまして?」

「まあ、私が勝手に喜んでるだけだけどねー」

「そうだわ羽島君、ロールと言えばあゆさちゃんから聞いたんだけど、過去のロールをやり直すんですって?」


 詩織がお酒を飲み干して、ルルが直に新しいのを作りながら聞いた。


「はい」

「私の所にも話は来たわよ? 任せて、当時のメンバーに連絡しているから」

「そこまで再現するんですか?」

「当たり前よ? やられ役はともかく、当時のゲーム内のお客様ロールしてたメンバーじゃないと、再現じゃないでしょ?」

「それって私と兎君が……いや、ドレミドと縁が初めて会った時の再現?」

「この間のロールを踏まえると、ドレミドは全て知ってる事になるわね、それにあんたの娘のキャラクターも追加されるし」

「おお~リメイクってやつだね~」

「でもメンバー集めにはちょっと時間がかかるわ」

「なら兎君の妹を助けにさ、過去に行く話を先にやればいいんじゃないかね」

「詩織、あんたまた無双するのね?」

「いやいや、私じゃなくても兎君と娘が無双するでしょ」

「ああ、そう言えば縁は絆の敵には容赦しなかったわね」

「幼少期の妹を付け加えると完璧だねぇ」

「……空から金塊が降ってくるわ」

「お、何それ」

「縁の必殺技のようなものね、今は見ないけど」

「ぐっ!」


 長谷川は激痛が走ったような顔をしてそっぽを向いた。


「おおう、振り返りたくない過去~」

「でも羽島君、昔をロールするなら頑張ってね?」

「……善処します」


 そこからは今日のゲーム内のロールを互いに話した。

 詩織はゲーム内で長谷川の母と遊び、ルルはゲーム内でもお店のロールをしていた。

 日付が変わる前に長谷川は帰宅した、ほろ酔いのいい気分でパソコンを付けて、自分の過去のロールを勢いで見ようとする。

 画面には若かりし頃の縁が映っていて、目付きが鋭く殺気を放っていた。


「うわ~ツンツンしすぎだろコイツ!」


 過去の自分のロールをツッコミながら見ていた長谷川だったが……。


『金か……お前に幸せをくれてやろう! 降れ! 黄金よ! 万物のあらゆる理を運をもって捻じ曲げよ!』


 パソコンの画面には、その言葉と共に空から黄金が雨あられの様に降っている。 

 長谷川は素早く動画を閉じて台所へ、そして水を一杯飲む。


「……肝が冷えるってこういう事か、酔いが醒めた」


 その後、長谷川は過去にしてきた自分のロールを見ては止めを繰り返したのだった。

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