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第六話 演目 未練

 縁達は冥界のお祭りを楽しんでいた、隼士のオススメで金魚すくいをやっている。


「俺の運が通用しない?」

「残念だったな兎のあんちゃん、冥界の金魚達は言わば幽霊、不確定要素で攻略は出来んよ?」

「冥界の水に冥界の金魚、普通じゃ攻略出来ん」

「斬銀さんは出来るんですか?」

「まあ見てな」


 斬銀はぽいを持つ手を集中させる。

 そのまま水に入れ、デカイ金魚に寄せていく。

 サッと簡単そうにデカイ金魚をすくった! 


「冥界の水ってのは、言わば『気』のようなもんで普通は触れられん、金魚も同様だ」

「ふむ」

「このぽいを通して波長を合わせ、すくうって訳だ、まあ、攻略の一つだ」

「やるな筋肉のあんちゃん、金魚は持って帰られたら困るから、景品と交換だ」

「おっ、デカいのを取ったからいいもんか?」

「冥界の鍛冶屋『冥鉄めいてつ』さんのサイン色紙だ」


 ねじり鉢巻きをしたおっちゃんは、景品を斬銀に渡した。

 斬銀はあからさまに、どうしていいかわからない顔をしている。 


「……俺には価値がわからん、縁はわかるか?」

「このサイン色紙から感じるのは、ガンコな鍛冶屋が祭りだからとサインした様だ」

「お前にやる」

「貰っておこう」


 斬銀からサイン色紙を貰い、鞄にしまう。

 それから3人は、輪投げや射的、的当てやピンボールを楽しむ。

 全部制覇する勢いであちらこちらへと行っていると。


「ん?」

「どうした縁」

「いや、強い未練を感じた」

「そりゃ死者の国なんだから未練も有るだろ」

「斬銀、この祭りを運営している死者は、現世に未練の無い人達だ」

「そうなのか、それは知らなかった」

「生身の人間と接触する機会があるからな」

「なるほど、まあ考えてみりゃそうか」

「縁さん、場所はわかるかい?」

「ええ」

「案内してくれ」


 縁を先頭に歩き出し、しばらく歩き会場の端っこで俯いている青年が居た。


「あの青年から未練を感じます」

「あれはロミアじゃないか」

「なんだ隼士知ってるのか?」

「最近死んだ青年だ、街を守る戦いで命を落したそうだ」

「その街ってのは?」

「ラキアグというらしい」

「ラキアグ? ラキアグで何かあったんですか?」

「彼から聞いた話では、ジャスティスジャッジメントの被害にあったとか」

「またジャスティスジャッジメントか、居すぎだろ」

「相手は10万以上居る傭兵部隊だ、何処でも居るだろ」

「上はなにやってんだか」

「ま、それよりもロミアの未練の方が重要だ」

「だな、縁が感じとったって事は……人との関わりで未練があるって事か?」

「ああ」

「とりあえず話を聞いてみようぜ」

「私に任せてもらおう」


 隼士が青年に近寄った。


「ロミア」

「隼士さん、お祭りの警備ですか?」

「いや友人達を案内していた、それよりロミア、悩みが有るなら言うんだ」

「相変わらず入りが雑だな」

「斬銀、茶化すな」

「……いきなり死にましたから、両親に別れの挨拶すら出来ずにここに来ました、せめて両親に何かメッセージを伝えられれば……とね」

「生き返りたいとかではないんだな?」

「はい」

「今思えば隼士は年一で現世に帰ってくるが、特別な事なんだな?」

「冥府信用を得てるからね、問題を起こせばもう来れなくなる」

「隼士さんの様に現世に降りるには、相当時間がかかるでしょうし、僕の気持ちが悪い方向に変わってしまうかもしれません」

「その考えは正しい、死者は未練を乗り越えて無いと悪霊になる可能性がある」

「じゃあ今のうちにどうにかしねーとな?」

「俺に任せて」


 縁は自信満々にそう言った。  


「貴方は両親が泣いているのが辛いんですね?」

「僕を忘れろとは言えませんが、元気に暮らしてほしい」

「何か思い出の品とかありますか?」

「このペンダントですかね、両親からの誕生日で貰いました」

「って、スケスケだな」


 斬銀がペンダントを取ろうとしても、素通りしてしまう。


「斬銀、死者の持ち物だから普通は触れれないよ」

「縁、どうすんだ?」

「神の俺が普通だとでも? 斬銀さん」

「……そいやそうだったな」

「俺を信じてくれるなら、そのペンダントを握りしめてご両親の事を考えていてください」

「貴方はいったい?」

「ただの縁結びの神様さ、んじゃラキアグの街に行こうか」


 縁はそれだけ言うと歩き出して、斬銀達も続く。  


「って、ロミアからのメッセージは聞かなくていいのか?」

「あのペンダントをご両親に渡せばいい、言葉よりも伝わりやすい」

「てかこれって冥府の仕事じゃねーか? いいのか? 俺達が勝手にやって」

「そうだな、一応冥府には話を通しておこう、現世へ案内したらまた冥府に戻る」

「ああ」


 現世に戻った縁達はラキアグが見える場所に居た。


「ここはラキアグ付近だな」

「じゃあ私は一度戻る」

「待ってるぜ」


 隼士はパッと消える。


「縁、どうやら敵が来るようだ」

「ジャスティスジャッジメントがまたここに?」

「もはや理由は無いんだろうな、その場の勢いで理由を作りそうだ」

「ラキアグにはお世話になった人達が居る」

「隼士が戻ってきたら、ロミアの両親の所に速攻行くぞ」

「ああ」

「待たせた」


 数十秒で戻って来た隼士。 


「いや、早かったな」

「冥府は我々の行動を見ていたようで、すぐに許可がおりたよ」

「そうか、隼士もうすぐここに敵が来る、ラキアグにさっさと行くぞ」

「わかった」


 3人はラキアグへと歩き出す。

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