追手を絶滅した一行は無事に目的地に到着したのだった。
そこは捨てられた村で、朽ち果てていた。
目立つ小さい教会も、時の流れを感じさせている。
「さ、ついたぜ」
「父さん、随分と寂れた村だね」
「元々は廃墟だからな、雇った護衛と家族しか居ない」
「逃亡生活中?」
「まあな、妻が神達が居る所に居たくないとさ」
「どうして?」
「そりゃ神様は神様で子供達を狙ってる奴らが居るからさ」
「なんで?」
「人間と変わらんよ、目障りだったり色々とな、地上に居るのはおいそれと神様は手をだせないからさ」
「……なるほど、神同士が争う、最悪地上が壊滅、人が減り信仰心が無くなるって所か」
「よくわかってるな、お前も苦労したのか……いや、これからするのか」
「苦労しないで生きるって無理でしょ」
「うん……いやまあ、そうなんだがな?」
「おう旋さん、帰ってきたんだな」
若い男2人組が気さくに話しかけてきた。
「え? 斬銀さん?」
昔の斬銀は筋肉ムキムキではなく、若々しい冒険者といった感じで、もう一人の方が全身鎧で、見るからに筋肉質だった。
「なんだ、知り合いか斬銀?」
「いや? 初対面だが?」
「って事は俺達傭兵コンビ『前列』の名前も、多少は知れ渡ったって事だな?」
「だな、旋さん俺達は周辺を見回りしてくるぜ」
「よろしく頼む」
斬銀達は村の外へと出て行く。
「縁、お前斬銀さん達を知っているのか?」
「……俺の恩人だ、この時から多少なりと関わりがあったのか」
「彼らとの契約はあと数日で終わる」
「そうなんだ」
「さ、ぼろいけど入ってくれ」
教会の中に入ると、椅子に座っている絶世の美女の言葉が似合う女性と、抱っこされている女の子の赤ちゃんに、母親にぴったりとくっついている男の子が居る。
「良く来ましたね、縁、スファーリアさん、ドレミドさん、おかえりなさい、あなた」
「うぃーただいまー雫、ちょっと着替えてくるぜー」
旋はそう言うと奥に消えていった。
「ドレミドさん、ありがとうございます、息子と夫を守っていただき」
「あらいいのよ、私は私で娘の幸せを守っただけだから」
ドレミドは自前のトライアングルに乗って雫に近寄った。
「聞きたいのだけれど、貴女達の幸せを邪魔する輩ってまだまだ居るのかしら?」
「はい」
「なら私が絶滅するわ」
「敵は多いですよ?」
「私は娘の幸せの為にやるだけよ、限界はあってもね」
「直接私が対処出来ればいいのですが、手出し出来ない理由がありまして」
「貴女程の高位の神がおいそれと力を使わない方がいいわ、それに戦うと笑顔を忘れるから、私も最近になってやっと笑えるようになったから」
「2人共、そこに居ないでこっちに来なさい」
「え、あ、うん」
縁とスファーリアも雫の方へと歩く。
「絶滅する旅が始まるわね、これから忙しくなるわ」
「もしかして、お母さんが修行の一環として一緒に旅に出たのって」
「そうなるわね、将来、貴女が幸せになるため、敵は滅ぼしておかないとね」
「今更ながらびっくり」
「それは私もよ、未来から娘が婿を見せびらかしに来るなんてね」
「見せびらかし……なのか? 母さん」
「2人にお願いがあったのです」
「お願い? 俺達に?」
縁とスファーリアはお互いの顔を見た。
「今の私から見て近い将来、絆が危機に晒されてしまいます」
「なるほど、それを俺達がなんとかするのか」
「ええ、身勝手な運命ですが」
「いいよ、俺と絆が『確実に助かる未来』がそれだったんでしょ?」
「そうです、私は縁と共に神として外せない用事に、夫と出かけた絆が、ジャスティスジャッジメントの脅威にさらされます」
「思ったよりヤバかったな、大丈夫……なんだよな? てかジャスティスジャッジメントが絡んでるのか」
「ええ、今の貴方の信仰心なら対処出来るでしょう」
「神の力は理解出来ないね、やっぱり」
「縁、人の言葉で語れるようならその程度の神です」
「ああ」
過去とはいえ、母親の言葉に改めて納得させられる縁。
説明や理解出来るという事は、人にその技術があるという事。
半分とはいえ、神だからこそ人知を超えなければならないと。
「物事が片付いたら、私から贈り物をします」
「ありがとう母さん」
「なら私もあげた方がよさそうね? スファーリア、絶滅演奏術で困ったら過去に来なさい」
「え? おいそれと過去に来ていいの?」
「今の貴女の身体は音でしょ? 音は時代を超えるの」
「なるほど、困ったらくるね」
「それと、母親として困ったら未来の私を頼りなさい、何時か必要になるでしょう」
「その時はよろしく」
「おっ、何だ何だ? 夢のある話か?」
茶化ながらラフな姿で戻ってきた旋、そこに険しい顔をした斬銀達がやってきた。
「旋さん、近くに怪しい奴らが居た、直に移動した方が良さそうだ」
「わかった準備する、引き続き警戒していてくれ」
斬銀達は再び外へと出て行く。
「私達も手伝った方がいい?」
「大丈夫よスファーリア、私が守るから」
「お母さんと斬銀さん達が居れば大丈夫か」
「って事は俺達の役目はここまでだな」
「あれ? 来たのはいいけど、どうやって帰るの?」
「それなら大丈夫だ、俺が知ってるから」
「どうやるの?」
「帰りたいって願うだけ」
「おおう、祈りって万能だね」
「一応神だからな」
「ま、音の私はついていくだけ、早くかえろう」
「だな、じゃあな、父さん、母さん」
「いってらっしゃい」
「未来の俺達によろしくな」
「また来るかも、お母さん」
「その時を楽しみにしているわ」
縁とスファーリアは手を繋いぎ、光に包まれその場から消えた。