「今俺達は『迷いの森っぽい迷いの森』に居る」
「父さん、何その名前」
「文句なら昔の権力者にいってくれ、そういう名前なんだから仕方ないだろ」
「なるほど」
「この森は不思議、上に行こうとしても行けない」
「お嬢さん良く気付いたな、この森は上から入れても、出るのは不可能なんだ」
「歩いて出るしかないと」
「ああ、んで名の通り道を知らないと迷う」
「父さんは抜けられるの?」
「……え? お前、父さんの本職知らないのか?」
「一人暮らしが早かったからね」
「俺の本職は盗賊だ、っても墓荒らしとかから、盗まれたモノを取り戻す仕事をしている……って、金貰ってないから仕事じゃないか?」
縁は父親の服装をよく見みると、動きやすそうな服装に必要最低の装備。
装飾品は何かの魔法、加護が込められていそうだった。
「昔からの性分で、死んだ他人様の勝手に持ち去って、研究だ、保管だってのがムカツクんだよ、ガッカリしたか?」
「信念を持って行動している人はカッコイイよ」
「へへへ……って、長話だったな、付いて来てくれ、このくらいの森楽勝よ」
言葉通りに森は余裕で抜けられた。
だが少し先に、これから国同士の戦争でも始めるかの様な、凄い数の戦闘部隊が待ち構えていた。
相手の過剰戦力前に、縁達は森の入口にあった大岩に隠れる。
「……父さん、明らかに待ち伏せされてるんだけど」
「大国の王様ぶっ殺せばこうなるか」
「何で殺したんだ? てかいや、そうだとしても過剰戦力じゃないか?」
「自国が幸せになりたいから、息子を差し出せって言われてな? ブチギレて殺した、過剰戦力なのは知らん」
「それは絶滅に値する、国じゃなく自分が力を得て持ち上げられたいだけ」
「まとめると、国に呼び出された父さんは、相手の要求にブチギレて、王様殺した帰り道って事か」
「おう、追手から逃げるのも一苦労だったぜ」
「それで血だらけで森に居たのか」
「縁君のお父さん、ここはアイツらを絶滅させておくのがいいかと」
「お嬢さん、過激だね~」
「ここで絶滅させなきゃ、何時か縁君や絆ちゃんにも被害が及ぶでしょ?」
「ああ……自分でまいたタネだが、お嬢さん出来るのかい?」
「私には無理、だからこの時代のお母さんに頼る」
スファーリアはトライアングルを叩いた。
「ええ!? おいそれと呼んでいいのか? ってか呼べるん?」
「お母さんには常々、自分で出来ない事でどうしても必要な事があったら、周りを頼りなさいって言われてたから」
「縁、ここは頼るしかなさそうだな、恐らく俺の位置はバレバレだろう、このまま帰る訳にはいかん、かと言って俺ではあの人数は対処出来ん」
「……父さん今更だけど、後先考えて行動してる?」
「縁、そんな父の息子として心当たりはないか?」
「痛い所を付いてきたな」
「音は届いたと思うので、しばらくお待ちください」
「もういるわよ?」
縁達が振り返るし、スファーリアと同じ格好をした女性が立っていた。
トライアングルに乗っていて、高圧的な雰囲気を放っている。
「あ、過去のお母さん、おはようございます」
「ちょっと待って、おそらく未来の娘よ、これはどういう状況? ちょっと貴方のトライアングル叩かせなさい」
スファーリアの母親は娘のトライアングルを叩き、音を聴いて一人で頷いている。
「なるほどね、状況と貴方の事は理解したわ」
「流石お母さん、適応力が高い」
「この程度で動じては絶滅演奏術奏者として、未熟も未熟よ」
「はい、お母さん」
「いい機会だから、最初で最後の授業をするわ」
「最初で最後?」
「正直私は絶滅演奏術奏者として、正直今がピークです」
「どうして?」
「貴女が生まれて、母としての気持ちが一層強くなったから、長男を産んだ時はそこまで気にしなかったんだけど」
「心の音色が変わったって事?」
「そう、貴女との時間が私の心を穏やかにしたの」
高圧的な表情から一瞬だけ、優しい母親の顔になるが直に元に戻った。
「では、絶滅演奏術奏者の開祖の話をします」
「開祖?」
「絶滅演奏術とは、一人の名もない音楽家が元祖の演奏術です、その人は才能には恵まれずに努力をしていました、ただ周りが『無駄な努力』と罵ったそうです」
「そして?」
「血反吐を吐く努力して、そこそこの有名な音楽会で表彰された時に、その人は『努力は必ず実を結ぶ』と言ったそうよ」
「何も間違ってはいないよね?」
「そしたら今度は『努力してダメだった人を馬鹿にしているのか』『スタートラインに立てない人も居るんだぞ』と様々な罵声が飛んできた」
「ふむ」
「そう、だからその人は音楽で人を殺し始めた、自分を攻撃してくる奴らはなんだろうが殺し始めた」
「それはいい事、黙ってるから付け上がる」
「世間的に悪者になったその人は、敵が居なくなるまで殺しまくった」
「お母さん、その人には信用出来る人は居たの?」
「もちろんです、代々の絶滅演奏術奏者には理解者が居ました」
「まとめると、敵に容赦するな、信用出来る人は大切にしろ、って事だね?」
「そう、貴女は容赦が足りない」
「え? あれで容赦が足りないの?」
縁はつい声を上げてしまう、今までスファーリアの容赦無い姿を見てきた。
しかし、それでも足りないとの言葉に、驚きを隠せなかった。
「そうよ、縁さん……あ、自己紹介がまだだったわね? 私はドレミド・ファソラシーン、よろしくね」
「え、あ、はい、初めまして」
「スファーリア、有無を言わさず敵を滅ぼしなさい? 貴女、少々言葉を語りすぎよ?」
「ごめんなさい」
「では見てなさい、絶滅演奏術奏者の本当の戦い方、情けも容赦も無く、気に食わない敵を葬る、最高の演奏術を!」
ドレミドはトライアングルに乗って、敵に突撃していった!
そこからは一方的だった、相手がどんな攻撃をしてこようが殺し、どんな防御をしようが殺し。
命乞いをしようが殺し、たった数分、もしかすると一分もたってないかもしれない。
圧倒的で見ている者に悲惨さを、聴いてる者に至高の音楽、そんな戦いだった。
「ふふふ……絶滅、復唱無し! 娘の幸せに繋がるならこの程度、問題無し!」
ドレミドは凄く満足そうに、縁達の所に帰ってきた。
「す、すげぇに、これが絶滅演奏術か、ただ命を狩るだけの音……だが、怖くもあるが音楽として成立している」
「もちろんです、縁さんのお父さん、観客が居るならば楽しませないと」
「なるほど、死者で遊ぶのではなく音で楽しませる……と」
「ええ」
「ああそいや、あんたやお嬢さんに自己紹介してなかったな、俺は
「よろしくお願いいたしますね」
「こちらこそ」
親同士が挨拶を始めた傍らで、スファーリアは難しい顔をしていた。
「あれが本当の絶滅演奏術、私が見てきたお母さんの演奏術とは違う」
「そうなんだ」
「うん、相手を『命有るもの』ってよりは『使い捨ての楽器達』って感じで見ていた」
「なるほど? 俺には違いが解らなかった」
「私はまだまだ甘い」
「まあ、ほどほどにな?」
「善処する、てか縁君も人の事を言えない時がある」
「……善処するよ」
2人はお互い様かと笑う。
「よし、助けてもらったお礼にお茶くらいご馳走するぜ、付いて来てくれ」
旋を先頭に目的地に向かって歩き出した。