縁とスファーリアは絆に呼び出されて、過去に行って来いと言われる。
絆曰く、決められた運命のようだ。
そんなこんなで軽い気持ちで過去に来た2人だった。
「妹に呼び出されて簡単に過去に来てしまったな」
「何をすればいいんだろうね」
「さあ、何かをすればいいようだけども」
「この森で何かをすればいいの?」
ふと周りを見れば複雑そうな森に居た。
「縁君、向こうから誰か来る、怪我をしている音を感じる」
「怪我をしている?」
スファーリアが見た方向を縁も見る。
「なんだ? 先回りされてたってか? 俺もここまでってやつか?」
その方向から太い枝を杖にして、怪我をしている中年男性が歩いて来た。
どことなく縁に似ている容赦をしている。
「と、父さん!?」
「あぁ? 俺には息子が居るがまだ三歳だ、娘は生ま……お、お前は縁か?」
「はっ! えっと、あの……」
父親にすぐさま駆け寄った縁だったが、ここが過去だと思い出して慌ててしまった。
「縁君、ここはお父さんの治療が最優先、警戒は私に任せて」
「そ、そうだな!」
スファーリアはトライアングルに乗って辺りを警戒し始めた。
縁は鞄から医療道具を出して父親の治療をする、その最中自分が未来から来た事を話す。
手慣れた手付きで治療をしてあっという間に終わった。
「そうか……未来から来たのか」
「あまり驚いてないね、父さん」
「あのな、俺は神様と結婚した男だぜ? 不思議体験は腐る程してきた」
「なるほど、説得力がある」
「……今思えば雫の言葉はこういう事だったのか」
「母さんの言葉?」
「『命の危機に息子達』ってさ、走馬灯で息子達を思い出して俺が奮起する! と思ったら物理的に助けに来たってな」
「……もしかすると母さんって、好き勝手している?」
「ああーお前から見て雫がどう見えているかわからんが、かなりな、雫の力が無かったら、俺はここで死んでいたかもな」
「父さんは何をしてこんな怪我を?」
「……大人のお前だったら言ってもいいか、家族の幸せを守るため、難癖付けてくる人間を殺しに行ってたんだよ」
「え!?」
自分の知ってる過去の父親と印象が違ったからだ。
子供の時に見た父親の姿は、優しくたくましい印象があったから。
ビックリした縁だったが、子供の見えない所で父親は、小さい自分達を守ってくれていたんだなと思った。
「まあ、そりゃビックリか?」
「いや俺が人を殺した時に、父さんと母さんにガッツリと怒られたからさ」
「ん? それ何歳の話だ?」
「十歳くらい?」
「そりゃ怒るな、てか人殺しをする年齢早すぎるだろ、何をしたんだ?」
「絆を傷つけた奴らを殺した、母さんが蘇らせたけどさ」
「なるほどな、ま、親心って事で勘弁してくれ、って、人殺しをした帰り道の……しかも、過去の父親から言われても仕方ないか」
「父さんは誰と戦ってきたんだ?」
「雫の幸せを妬む奴ら、縁をさらおうとする奴ら、絆を嫌い殺そうとする奴ら、色々だな」
「この時から絆は危険に晒されていたのか」
「お前もな、縁」
父親は未来の息子の肩に手を置いた。
その顔は晴れやかで、自分がしていく事の自信に満ちている。
「お前が元気って事は絆も元気って事だろう?」
「って父さん、今更だけど、未来の事って言っていいの?」
「まあいいんじゃないか? んな事より縁よ」
「何?」
「一緒に居た絶滅演奏術奏者はお前の恋人か?」
「絶滅演奏術を知ってるんだ」
「まあな、で、どうなんだ?」
「大切な人だ」
その一言で父親は立ち上がり、縁も続いた。
「よし、だったらつまらない死に方は出来ないな、披露宴に出なきゃならんし」
「気が早くないか?」
「目標があるって事は生きる糧になるんだよ」
「目標って言えば、父さんはこれから家に帰るのか?」
「ああ、今は小さい教会に隠れ住んでいる」
「なら目指すはそこか」
「まずはこの森を抜ける所からだな」
「複雑そうだけど出れるの?」
「まあ、任せろよ」
父親は道具袋から地図を取り出して広げた。
スファーリアはそれに気付いて戻ってくる。